現代医学に懐疑的な人々に人気の治療法「ホメオパシー」とはどのようなシステムなのか?
しばしば病気やアレルギーの治療に関する話題に出てくる「ホメオパシー」とは、「病気や症状を引き起こす原因物質を少量用いることで、その病気や症状を治療できる」という考え方。一般的には「科学的根拠に乏しい」とされている「ホメオパシー」について説明したムービーが、YouTubeで公開されています。
Homeopathy Explained – Gentle Healing or Reckless Fraud?
ホメオパシーは西洋医学を用いた医師による科学的な治療に懐疑的な人々にとって、「代替医療」としての地位を高めてきました。それと同時に、「非科学的だ」として大きな批判にもさらされています。
いったいどのようにしてホメオパシーは、人気の代替治療となったのでしょうか。また、現代医学がホメオパシーから学ぶことはあるのでしょうか。
まずは、ホメオパシーがどのようにして病気を治療するのかについて説明します。ホメオパシーは「症状の元となる物質を用いて治療する」というのが大きなコンセプト。
たとえば、発熱の場合にホメオパシー医療で使われるのが……
ベラドンナです。これはヨーロッパに自生する植物ですが、全体に毒を持っている「毒草」として知られています。ベラドンナの毒は副交感神経を麻痺させ、異常興奮などの症状を引き起こし、多量に摂取すると最悪の場合は死に至ることもあります。ホメオパシーではベラドンナを毒の効果が出ないほど少量だけ用い、発熱の治療に使用するのです。
さらに、ハチの毒をほんの少量混合した薬は……
腫れの治療に用いられるとのこと。「毒をもって毒を制す」といった考え方は、一定の科学的根拠に基づくものでもあります。たとえばベラドンナは用量を守って服用すれば鼻水を抑える効果があり、ベラドンナの成分は市販の鼻炎薬に含まれていることがあるそうです。
しかし、ホメオパシーの治療に関するもう1つのコンセプトに、「元の成分を希釈することで効果が増大する」というものがあります。
まずは薬効があるとされる成分をアルコールや蒸留水に溶かし……
溶液の一部を抜き取り、蒸留水で10分の1に希釈します。
そして、希釈した溶液を勢いよく振ることで、ホメオパシー医療で呼ぶところの「1X」治療薬が完成。この「X」とは、ローマ数字で「10」を表します。
ホメオパシー医療ではこのプロセスを繰り返し、どんどん元の成分を希釈した治療薬を作り出していきます。
「2X」「3X」「4X」と次々に元の成分が希釈された治療薬が作られ、数字が大きくなるほど効果が高いとされています。
このプロセスで生産された薬は、「レメディ」と言われる砂糖コーティングの薬として、世界中で販売されています。
「20X」の治療薬に含まれる元の成分は、大西洋にアスピリンを溶かしたようなもの。
最もよく使われる治療薬は「30X」を意味する「30c」の治療薬。
「30c」の治療薬に含まれる元の薬効成分を真珠と同じ大きさだとして、「30c」の治療薬に含まれる水を球形で表すと……
球の直径は1億5000万キロメートルにもなります。これは太陽と地球の距離と同じくらい。
科学的に考えると、「30c」ほどのホメオパシー治療薬には何の薬効も残っていません。砂糖コーティングされたホメオパシーの丸薬は、単なる砂糖の塊に過ぎないのです。この点が、ホメオパシーに対する批判を強めている理由になっています。
物理的に考えれば、希釈した後にいくら思いっきり振ったとしても、単に水が増えているだけ。「30c」にもなると、元の成分の原子は1個も残っていないとのこと。
海の水はありとあらゆる成分が含まれ、希釈されていますが、いったいどのようなホメオパシー治療薬になっているのでしょうか。
では、どのようにしてホメオパシーが誕生し、一定の人気を得るに至ったのかについて説明しましょう。ホメオパシーが誕生した18世紀末から19世紀初頭にかけての医学は、現在と全く違ったものでした。
「病気の治療には悪い血を抜けばいい」という考えから、患者は医師の治療を受けてより悪化するというパターンが多かったとのこと。
ドイツの医師ザムエル・ハーネマンは患者の体を傷つけない治療法を模索し、ホメオパシーにたどり着きました。
ホメオパシーを実践したハーネマンの病院はすぐに成功し、ホメオパシー医療が広まるきっかけになります。
当時はまだ、患者に手術を施すような治療の成功率は、非常に低いものでした。
ハーネマンは患者に対し、非常に厳格なルールを課しました。コーヒー、紅茶、アルコールを禁止し、スパイシーな食べ物、甘い食べ物を禁止。
羊毛の服は禁止、座ることも禁止、外気に触れるのも禁止、乗馬も禁止。
昼寝もゲームも、読書やマスターベーションも禁止。本来のホメオパシーとは、治療薬に対する考え方だけでなく、生活習慣に対しても規制を作っていたのです。
しかし、現代のホメオパシーにこのエッセンスは残っていません。
ホメオパシーが誕生してから、医療技術は非常に発達しました。ホメオパシー医療にはプラシーボ効果以上の効果はないと、科学的に検証されています。
しかし、たとえプラシーボ効果であっても、ホメオパシー医療が多くの人々を救っているのは確かなのです。
「ホメオパシー治療薬で体調がよくなった」と感じた人も、「ホメオパシー医療中に難病を克服した」という人もいます。たとえホメオパシー医療がプラシーボ効果であったとしても、それらの実体験とは関係ありません。
私たちの体は多くが思い込みで作動しているのも事実で、「気分がいい」と脳が感じていれば、体も調子がよく感じられるもの。
病気の赤ちゃんに対し、最も身近な存在である親が「これはいいものだ」と信じてホメオパシー治療薬を与えれば……
親の信頼する気持ちが赤ちゃんにも伝わり、快方に向かうことは少なくありません。
ホメオパシーは感染病にも有効で、「病気に感染したかも」とウイルスの潜伏期間中に対策を取れば、発症しないパターンもあります。
ホメオパシー医療は高い利益率を誇り、世界的に見ても非常に大きな業界になっています。
2024年までに、世界的な市場が170億ドル(約1兆9000億円)を超えると推定されているとのこと。
ホメオパシー医療に対しては、「本当に現代医学の力を借りるべき時に、頼ることを躊躇させる」などの批判があります。
しかし、ホメオパシー医療には現代医療にない、大きなアドバンテージがあります。
それは、1人の患者に対する診療時間が非常に長いという点。
これは診療機関に対して不信感を抱き、ドクターショッピングを繰り返してしまう患者にとって大きな助けとなります。
ゆっくりと患者の話を聞き、共感を持って接してくれるホメオパシー医療者の存在は、一種のセラピーの役割を果たし、精神的に非常に有効な存在だといえます。
医療技術の発展に伴い、短時間でとても多くの患者を救うことができるようになりましたが……
巨大なシステムの中で流れ作業のように病気のレッテルを貼られた患者の中には、「十分な診療を受けていない」と感じる人もいます。
そんな思いを抱いたまま治療のラインから放り出されてしまった人にとって、ホメオパシー医療の丁寧な診療は救いになるのです。
しかし、ホメオパシー医療を考える際に重要なのは、「ホメオパシー医療の共感を引き起こすシステムは実際の医療の代替ではない」という点。
信じる力は山を動かすこともできますが、砂糖コーティングの丸薬でガンが治癒することはないのです。
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