サイエンス

コンピューターの冷却コストを算出するためには現代物理学の進歩が不可欠だった


Microsoft・Google・Facebookなど、大規模なコンピューター企業は巨大なデータセンターを運用しています。大量のコンピューターやサーバーを抱えるデータセンターでは「冷却」の問題が重要で、海底・川沿い・北極圏など、少しでも冷却コストが低く抑えられるような場所に建設されます。アメリカに設立された非営利組織であるサンタフェ研究所が、こうしたコンピューターの熱問題について取り組んでいるとコメントしています。

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https://www.santafe.edu/people/profile/artemy-kolchinsky


Microsoftは、2018年6月にスコットランド沖の海中にデータセンターを建設したと発表しました。このデータセンターは、864台のサーバーと27.6ペタバイトのストレージを配置したサーバーラックを、密閉した金属製のコンテナに積み込んで海底に沈めたものとなっています。


Microsoftが海底にデータセンターを建設した理由の1つは、海底にデータセンターを設置することで、サーバーの冷却が低コストで済むことです。アメリカのエネルギー消費量のおよそ5%がコンピューターを稼働させるために使われているといわれていますが、このエネルギーのほとんどが最終的に熱に変換されてしまいます。そのため、データセンターのように大量のコンピューターやサーバーを動かす場合、膨大な熱エネルギーによってマシンが壊れてしまわないよう努める必要があり、その冷却コストは決して無視できない規模の額となります。

コンピューターによるエネルギー消費の問題は、人工のデジタルコンピュータに限ったものではありません。例えば、人間の脳も生体コンピューターの一種で、人間が消費するカロリーのおよそ10~20%を使用するといわれています。しかし、人間の脳は、人工のコンピューターよりもはるかに熱力学的効率に優れていて、健康である限り、熱暴走をすることもありません。現在の進化論では「人類の脳がいかにして優れた効率を手に入れたのか」という熱力学的帰結についての説明がほとんどされていない、とサンタフェ研究所は指摘しています。


こうしたコンピューターによる熱力学的コストを正確に算出するための理論が確立したのは比較的最近のことだとサンタフェ研究所は述べています。

コンピューターの熱力学的コストを正確に計算するためには、計算情報科学と熱力学を融合した「情報熱力学」と呼ばれる分野の研究が必要となります。情報熱力学は、「分子の動きを観察できる存在を仮定した場合、熱力学の第2法則が破綻するのでは」という、いわゆる「マクスウェルの悪魔」のパラドックスを解決するために生まれた学問といわれています。


情報熱力学が登場したことによって、情報処理の熱力学コストを計算しようという研究者が現れました。例えば、1960年代から1970年代にかけて、2元消失通信路に伴う基本的な熱力学コストについての計算の研究が行われました。ただし、当時の物理学では明確に定式化を行うことができず、コンピューターの熱力学的効率を正式に分析することはできなかったといわれています。

しかし、その後「非平衡統計力学」と呼ばれる分野が大きく進歩し、この非平衡統計力学の世界に「情報」の概念を取り入れることで、「マクスウェルの悪魔」のパラドックスはひとまずの解決をみました。また、サンタフェ研究所によると、非平衡統計熱力学はまだ理論としては完全には確立していないとのことですが、それでも非平衡統計熱力学と従来の情報科学・コンピューター科学を組み合わせることで、コンピューターの基本的な熱力学的特性を分析することが可能になったそうです。

科学と工学が交わる部分で、情報熱力学の追究が進んでいます。情報熱力学の発展によって、コンピューターの冷却にかかるコストを正確に分析することが可能になり、そのおかげで大規模なデータセンターを海底や北極圏に建設するメリットを数値化できるようになりました。現代の情報熱力学では、従来のコンピュータ科学における「リソースと時間のトレードオフ」だけではなく、計算の物理的な速度・ノイズレベル・計算システムが特定の環境に対して熱力学的に調整されているのかという「熱力学的なトレードオフ」もテーマとして取り扱われます。

by by Fir0002

サンタフェ研究所は、情報熱力学のさらなる発展によって、人間の脳など生物学的システムにおける熱力学的コストの分析も進み、次世代コンピュータの設計・開発がより有利になるだろうとコメントしています。

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in ハードウェア,   サイエンス, Posted by log1i_yk

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