フィッシュ&チップスがイギリスのEU離脱から受ける悪影響とは?
白身魚であるタラのフライにポテトを添えた「フィッシュ&チップス」はイギリスで長く親しまれるファストフードです。そんなフィッシュ&チップスが、2020年1月31日に完了したイギリスのEU離脱(Brexit)の影響を大きく受けてしまうと指摘されています。
Brexit Deal May Actually Mean Less British Cod for Fish & Chips - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-01-13/brexit-deal-may-actually-mean-less-british-cod-for-fish-chips
Farewell fish and chips? UK super trawler unable to fish since Brexit
https://www.thelondoneconomic.com/news/farewell-fish-and-chips-uk-super-trawler-unable-to-fish-since-brexit/12/01/
イギリスがBrexitを受け入れる上で最も交渉が難航するといわれていた理由の1つが、漁業問題です。ブリテン諸島はユーラシア大陸に近い位置にある島国であり、オランダ・ベルギー・フランス・デンマーク・アイルランド・スペイン・ポルトガルなどと漁業権を争ってきました。例えば、1958年から1976年にはアイスランドとイギリスの間で領海や漁業専管水域を巡った「タラ戦争」と呼ばれる紛争が3度も起きています。
Brexit自体は2016年の国民投票で決定しましたが、EU側との合意がまとまらず、何度も延期しており、その理由の1つが漁業権の交渉でした。2020年12月末にイギリスのボリス・ジョンソン首相は、EUによるイギリス水域での年間漁獲高を25%削減する旨で合意。これはイギリスにとっては大きな譲歩となる合意内容でした。
英EU通商交渉が大枠合意、漁業権で英譲歩-ジョンソン氏会見へ - Bloomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-12-23/QLSU5MT1UM1801
ジョンソン首相は漁業専管水域の管理を取り戻すことができたと主張しましたが、当初イギリスが要求していた漁獲高80%減よりもはるかに低い削減量だったため、イギリスの漁師の間では「漁獲量が少なくなるのではないか」と不安がられています。
政府は1億4600万ポンド(約200億円)の魚を水揚げでき、1970年代以降衰退した水産業界を支援できるとしていますが、2020年12月末の合意ではサバやニシンの水揚げ量は増えるものの、フィッシュ&チップスで使われるタラの水揚げ量は減ってしまうとみられています。
スコットランドの漁師から水産起業家に転身したジミー・ブッチャン氏は「イギリスが共通市場へのアクセスのために広大な漁場を取引して、過去50年間に被った損失をBrexitで補うことを望みましたが、それは実現しませんでした。また、イギリスの漁業専管水域でも外国の船が依然として漁業を続けることができるという失望感もあります」と語っています。
また、Brexitによって関税の処理が発生し、新鮮な魚をヨーロッパへ輸出する上で時間がかかりすぎてしまうリスクが発生してしまうという指摘もあります。イギリスの水産グループであるScotland Food&Drinkのジェイムズ・ウィザーズCEOは「税関が混乱しているため、水産業者は1日あたり100万ポンド(約1億4000億円)の輸出を失うこととなります」と見積もっています
ただし、漁業権の合意は段階的なものであり、年次交渉でより良い条件を求めることができるとジョンソン首相は述べています。EUを離脱したことで、イギリスは報復関税をEUに強いることもでき、交渉次第ではいつも通りフィッシュ&チップスを食べられるようになるかもしれません。
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