「マンツーマンの個別指導を受けた学生の98%は平均よりも優秀になる」という研究結果の実情とは?
1984年、アメリカの著名教育学者のベンジャミン・ブルーム教授は、「『マスタリー・ラーニング(完全習得学習)』という指導法に基づいたマンツーマンの個別指導を受けると、98%の生徒が平均よりも優秀になる」という研究結果を発表しました。この結果について、科学技術などのさまざまな教養に関するトピックを論じるブログNintilが、完全習得学習の基礎となる「ダイレクト・インストラクション」という教育法の重要性について解説しています。
Nintil - On Bloom's two sigma problem: A systematic review of the effectiveness of mastery learning, tutoring, and direct instruction
https://nintil.com/bloom-sigma/
1984年にブルーム教授が発表したのは、「一般的な授業に比べて、完全習得学習は生徒のテストの得点を標準偏差分上昇させる。さらに、完全習得学習に基づいたマンツーマンの個別指導は、テストの得点を標準偏差2つ分上昇させる」という研究結果です。この結果は、「完全習得学習による個別指導を受けた生徒の98%は、授業ベースの指導を受けた生徒の中央値を超えた点数を出せる」ということを意味します。
完全習得学習とは、学習の過程で受講内容について簡易テストを行い、教育目標を達成できているかを順次確認し、達成できていない場合には再テストに合格するまで居残り補習、宿題などのフォローアップを課すという教育法です。
完全習得学習と形成的テスト
https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/03/1_text.html
ブルーム教授の発表は、時の教育学会に対して大きな影響を与え、多くの検証試験が実施されることとなりました。完全習得学習に基づいたマンツーマンの個別指導の効果は、学習単元などの諸条件によってさまざま変化しますが、2000年から2014年までの研究101件を総合的に解析したメタアナリシス分析の結果によると、平均して0.79標準偏差分だったとのこと。ブルーム教授が提唱した「2標準偏差分」という結果よりもはるかに劣っていますが、それでもこの効果は多大だといえます。
一方で、完全習得学習の効果は、1983年に行われた中学校における調査を対象としたメタアナリシス分析では0.05標準偏差分、大学における調査を主な対象とした1990年に行われたメタアナリシス分析では0.52標準偏差分と、研究によって効果に大きなばらつきが見られました。このばらつきがなぜ生まれたかについて、Nintilは「完全習得学習は一貫した指導法が存在していないことがばらつきを生んでいる」と主張しています。
Nintilが完全習得学習において重要だと主張しているのは、「ダイレクト・インストラクション」の方法論です。ダイレクト・インストラクションは「指導中の教師のアドリブを排して、完全に台本通りの指導を行う」という教育法。ダイレクト・インストラクションでは、教師はセリフだけでなく、「間の取り方」までも徹底的に規定されます。ダイレクト・インストラクションの実例などは、以下を参照してください。
教材:基礎学力を向上するディレクトインストラクション
https://www.workitout.jp/simamune/contents/s_DI.html
ダイレクト・インストラクションについても数多くのメタアナリシス分析が行われており、その効果はおよそ0.5標準偏差分だとされているとのこと。
一連の結果を受けて、Nintilは「コンピューターシステムによる個別指導」について言及。2010年に国防高等研究計画局(DARPA)が実施した海軍向けデジタル個別指導システムによって指導された学生が、人間の教師によって指導された学生を1.25標準偏差分、授業だけを受けた学生を2.81標準偏差分も上回っていたという実例を挙げて、この結果にはサンプルサイズが50人未満という問題があると指摘しながらも、コンピューターシステムによる個別指導を有望視していると記しています。個別指導のためのコンピューターシステムはほぼ実用化されていないほど設計が困難とのことですが、人間によるマンツーマンの個別指導はコストが掛かるという問題点があることから、Nintilはコンピューターシステムに対して期待していると語っています。
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