使い捨ての紙コップ「Dixie Cup」はどのようにして生まれて広がっていったのか
円盤状の底に円筒形の胴が貼り付けられている現在の「使い捨て紙コップ」は、原型が誕生しておよそ110年が経過しています。それまで主に使われていた共用のコップやひしゃくに取って代わったのは、わりと切実な理由からでした。
Dixie cups became the breakout startup of the 1918 pandemic
https://www.fastcompany.com/90520298/how-dixie-cups-became-the-breakout-startup-of-the-1918-pandemic
「紙で使い捨てのコップを作る」という発想は決して最近出てきたものではなく、古くは紀元前2世紀の中国でお茶を飲むときに使われていた記録があるとのこと。ただし、このころの紙コップは大きさも色もまちまちで、装飾が施されたものでした。
現代的な紙コップの発想は20世紀に入ってから誕生しました。当時、列車内でたるに入った水を飲むときや学校で蛇口から水を飲むときは、共用のコップやブリキのひしゃくを使うのが当然のことでした。それゆえに伝染病も広がりやすく、ラファイエット大学のアルビン・デヴィソン教授は1908年8月のテクニカル・ワールド誌に「学校の飲用コップによる死者」という論文を掲載しています。このころ、アメリカでは結核が流行しており、その原因が共用のコップであると考えられたわけです。
デヴィソン教授が論文を発表するちょっと前の1907年、ボストンの弁護士で発明家のローレンス・ルーレン氏も「共用コップこそが衛生問題の原因である」という考えにたどり着き、使い捨てできる紙製のコップを発明しました。ルーレン氏のコップは、円盤状になった紙に円筒状にした紙を巻き付けるという、現代まで変わりないシンプルな構造で、防水のために内側にパラフィンが塗られていました。ルーレン氏は1908年にこの紙コップの特許を出願、1912年7月に取得しました。
US1032557A - Cup. - Google Patents
https://patents.google.com/patent/US1032557A/en
同じボストン出身の実業家ヒュー・ムーア氏と組んだルーレン氏は、ニューヨークでコップ製造会社を設立し、紙コップを「Health Kup」の名前で販売しました。主な顧客は鉄道会社で、多くの州で共用コップが禁止されたことから事業は安定。初期に紙コップを導入した鉄道としてはデラウェア・ラッカワナ・アンド・ウェスタン鉄道が知られています。やがて、1917年には鉄道から共用のコップは姿を消したとのこと。
「Health Kup」時代の広告
さらに、紙コップの普及を後押ししたのは第一次世界大戦後に流行した、「スペインかぜ」と通称される1918年のインフルエンザのパンデミックです。このパンデミックにより、商業施設では現代のウォータークーラーと同じような仕組みが導入されました。
「Health Kup」は1919年に「Dixie Cup(ディキシー・カップ)」と改称しました。「Dixie」という名称の由来は、工場の隣人で当時人気を博していた人形を作っていたというアルフレッド・シンドラー氏の「Dixie Doll Company」にあやかって、許可とともに名前をもらったという説があります。
「ディキシー・カップ」へ改称後の広告。「衛生時代、ディキシー・カップの時代」と、衛生面を前面に押し出しています。
なお、「パンデミック対策として一気に普及した」ということであれば、このコロナ禍でのZoomの躍進とも重なる部分があって興味深いところですが、ディキシー・カップの場合、パンデミックの影響はそれほど大きくなく、1923年以降、アイスクリームを自動的にカップに盛り付ける機械が現れるとともに「2種類のアイスクリームを入れても崩れないカップ」を作ったことで一気に人気になったとのこと。
その後、1930年代にはカップのふたを集めるとプレゼントがもらえるキャンペーンが大成功。1946年にはコカ・コーラと組んでリキッドベンダーを開発しました。会社としてのディキシー・カップの歴史は1957年、アメリカ最大の製缶メーカーであるアメリカン・キャンに買収されたことで幕を閉じましたが、その後もディキシー・カップは作られ続けており、2020年現在、ジョージア=パシフィックの一部門として存続しています。
Dixie® Paper Products & Disposable Dinnerware | Dixie®
https://www.dixie.com/
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