約4000年前の粘土板に記されていた「古代メソポタミアの人々が作った料理のレシピ」が研究者らによって再現されている


チグリス川ユーフラテス川に挟まれたメソポタミアは現代のイラクやシリア、トルコの一部に当たり、古代メソポタミアの人々は農業を行って高い文明を発展させていました。そんな古代メソポタミアの人々が「料理のレシピ」を記した粘土板が現代にも残っており、世界最古ともいわれるレシピをもとに料理を作る試みが研究者や一般の人々によって行われています。

Cook Like an Ancient Mesopotamian With the World’s Oldest Recipes - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/mesopotamian-recipes


約4000年ほど昔の時点でメソポタミアには非常に優れた文明が存在しており、大きな都市や確立した書記体系なども存在されていました。当時の文書が記された粘土板のうちいくつかは、現代に至るまで残存しており、研究者らは文書を解読して古代文明に関するさまざまな情報や手がかりを得ようとしています。

1980年代、フランスの歴史家であるジャン・ボテロ氏がイェール大学に所蔵されていた粘土板を一部解読することに成功し、記されていた内容が「料理のレシピ」であることを突き止めました。1911年にイェール大学のコレクションに追加されて以来、この粘土板は数十年にわたって医療や医薬品に関連するものだと考えられてきたそうですが、実際には世界最古ともいえる料理のレシピ集だったとのこと。

料理のレシピが記されている粘土板は4枚あるそうで、そのうち3枚は紀元前1730年に、残りの1枚は紀元前700年頃に記されたとみられています。最も完全な状態で残っている粘土板には合計で25個のレシピが含まれており、そのうち21個が肉料理、3個が肉と野菜を使った料理、1個が野菜のみを使った料理だそうです。

by Mary Harrsch

粘土板に記された文字は一部が欠けるなどして不完全なものであり、いくつかの材料名は何を指しているのか不明だとのこと。その一方で学者らは古代のレシピと現代のレシピに共通点を見いだしているそうで、イラクの学者であるNawal Nasrallah氏は古代のレシピで使われる材料がわからないケースもあると認めつつも、現代のイラクに伝わるレシピに類似点があると指摘しています。

なお、レシピのボテロ氏が発見した中で最も簡単なレシピはわずか2行しか書かれていないそうです。解読された内容は「肉のスープ。肉を取ります。水を用意します。脂肪を加えます。(文字が欠けている箇所)とネギとニンニクを一緒に砕き、そのままの『shuhutinnu』と一緒に」といったものであり、指示は大ざっぱで食材の量や調理の時間は記されていません。それでも、料理には複数の食材が使われており、おそらく調理には長い時間がかかったとのこと。


上記のレシピに登場する「shuhutinnu」という食材が一体何を指しているのか、タマネギやハーブ、根菜といった候補が挙がっているものの、これまでのところ答えは出ていないそうです。また、使う肉の種類なども指定されていないことから、現代の人々が古代メソポタミアのレシピをもとに料理を作ろうとする場合、行間を読んで想像力を働かせる必要があります。

なぜ古代の人々がこうした料理のレシピを書き記したのか、記事作成時点では明確な理由はわかっていません。しかし、高価な肉を使う上に複雑な技術を要し、さまざまな調味料を使ったこれらの料理は、自分たちだけでなく神々にささげる目的で作られたのではないかとも指摘されています。古代メソポタミアのレシピにはナツメヤシやハチミツを使ったお菓子も含まれており、ナツメヤシを使った「qullupu」という甘いクッキーは、新年と春の祭りの間にシュメール神話の女神イナンナにささげられたとの記録があること。

by max nathans

なお、ボテロ氏は古代メソポタミアのレシピについて記した「The Oldest Cuisine in the World: Cooking in Mesopotamia」という本の中で、ニンニクを大量に使った上に塩気が薄い古代メソポタミアの料理は現代人の舌に合わないだろうと指摘しています。しかし、現代の人々は古代メソポタミアのレシピを改良し、できるだけおいしい料理を作ろうと試みているとのこと。2018年にはイェール大学とハーバード大学が協力して、古代メソポタミアのシチューを再現するイベントも行われました。

Interdisciplinary team cooks 4000-year old Babylonian stews at NYU event - YouTube


サイエンス系メディアのAtlas Obscuraが紹介している「古代メソポタミアのレシピ」が以下。

◆肉のスープ
材料:スライスされたニンニク(8片)、スライスされたネギ(1カップ、およそ240cc)、スライスされたニンジン(1と2分の1カップ、およそ360cc)、ローストした牛の肩ロース肉(1ポンド、約450g)、水(3カップ。およそ720cc)、お好みで塩、コショウ(メソポタミア人は使わなかった)

・1:ニンジン、ニンニク、ネギをスライスし、スプーンなどを使ってネギとニンニクをボウルでつぶす。牛肉を1インチ(約2.5cm)四方にカットし、好みに応じて塩、コショウで味付けをする。広い鍋に油を引き、肉を焼く。

・2:肉に焦げ目がついたら中火にして、ニンジンとつぶしたニンニク、ネギを投入。3カップの水を入れ、泡立ち始めたら弱火にする。

・3:鍋にフタをして、時々かき混ぜながら2時間ほど煮込む。食べる前に牛脂を取り除いて、お好みで塩、コショウによる味付けをする。


◆mersu(ナツメヤシを使ったお菓子)
材料:乾燥ナツメヤシ(1カップ、およそ240cc)、ピスタチオ(2カップ、およそ480cc)、溶かしたバター(大さじ1)

・1:乾燥したナツメヤシを半分に切ってボウルに移し、2カップの熱湯を注いでフタをする。30分ほどナツメヤシを熱湯につける間にピスタチオの殻をむき、ミキサーでよく砕く。

・2:30分たったらナツメヤシが入ったボウルから熱湯を捨て、ピスタチオパウダーとバターをボウルに追加して、全体をつぶしながら混ぜる。この際、ピスタチオパウダーは全部をボウルに投入するのではなく、ある程度は残しておく。また、少量の熱湯を残しておくと混ぜやすい。

・3:材料をつぶし終わったら手で球形に丸め、12個ほどのボールにする。残しておいたピスタチオパウダーをまぶし、冷蔵庫で冷やして完成。

by Jess Eng

なお、新型コロナウイルスの流行によるロックダウンで暇を持てあましたのか、実際に古代メソポタミアのレシピで料理を作った人も登場しています。材料にある「羊の血」をトマトソースに置き換えるといった工夫も取り入れた結果、かなりおいしい料理に仕上がったとのことです。

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in , Posted by log1h_ik

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