世界中で食べられる「パン」の歴史とは?
by Yutaka Seki
世界中で広く食べられているパンは、その歴史を紀元前にまでさかのぼることができます。パンは文明の発展にも大きく関わってきた重要な食品であり、そんなパンの歴史について解説した記事が、科学系のウェブメディアであるLIVE SCIENCEに掲載されています。
Who Invented Bread?
https://www.livescience.com/62536-who-invented-bread.html
「パン」という食品は数千年以上の年月をかけて現在の状態に進化してきたため、誰か特定の人物を「発明者」として特定することはできません。2004年、イスラエルのガリラヤ湖南岸周辺にあるオハロII遺跡の掘削現場から、砥石(といし)でひかれた2万2000年以上前の大麦が発見されました。これは人間が穀物を処理して食べようとした最初の痕跡とされていますが、この時代はまだひいた穀物を熱した石や火で直接熱して食べていたと考えられています。
最初に穀物を栽培して原始的な農耕を行ったとされているのが、パレスチナ付近に存在したナトゥフ文化の人々です。ナトゥフ文化は狩猟採集の食料体制から農耕による食料体制へ移行した最初の文化だとされており、大麦を砕いてパンにするためのインフラを整えていたことが知られています。当時のパンは小さなピタのようなもので、直接火であぶっていたそうです。
by Wenchao Wang
その後数千年にわたり、穀物の栽培は中東と南西アジアに広がっていきました。「パンは広がった場所の国家や政治の発展につながった、火花のような存在です」と食料にまつわる歴史を研究しているウィリアム・ルベル氏は語り、穀物をパンにすることで余剰財産の蓄積を促進し、村が都市になるまで拡大する一つの契機になったとしています。
ナトゥフ文化が原始的なパンを作り始めてから5000年後の青銅器時代には、エジプト・メソポタミア・インダスという3つの文明が発達しますが、それらすべての文明がパンに依存していたとのこと。ルベル氏は「パンは人々が摂取するカロリーの大部分を占めており、富の蓄積と社会階級の形成を促しました。パンがなければ、フルタイムの労働者というものも存在していませんでした」と述べています。
by UNAMID
最初に天然の酵母を用いて発酵させたパンを作ったのは、紀元前1000年ごろと考えられています。エジプト文明が最初に発酵パンを作ったという説もあれば、同時期にメソポタミア文明でも発酵したパンを作っていたという説もあり、どちらが先だったのかははっきりしていないそうです。
また、「発酵パンのルーツはビールのルーツと同一である可能性が高い」とされています。古代エジプト人は大麦と小麦を使ってサワードウと呼ばれるパン種を作り、サワードウを焼いたものを細かく砕き、水につけることでビールを作っていました。パンとビールは水・穀物・酵母という同じ材料の比率を変えた存在であり、「ビールは液体のパン」と言っても過言ではないほどだとのこと。
人間の文明の発展と社会構造の形成に大きく関与してきたパンは、現在では洗練された工法で大量生産が可能になっていますが、初めから現在のような作り方で作られていたわけではなく、何千年にもわたる進化の産物です。
by Sam Beebe
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