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「免疫を獲得すること」が人種や階級と同じく価値を持った19世紀の黄熱流行からわかる新型コロナウイルス対策の問題点とは?


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)対策の1つとして、「既に感染し免疫を得た人から外出制限を解除して社会に復帰させる」という方法が各国で検討されています。しかし、致死率50%越えという黄熱が流行した19世紀のアメリカ・ニューオリンズでは「免疫があること」が社会的地位の1つになり、格差を広げ、一部の人々を不平等に危険にさらすことになったと指摘されています。

The Privilege of Immunity - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/science/archive/2020/04/immunity-divide/610054/


In Antebellum New Orleans, Immunity From Yellow Fever Was A Form Of Privilege. Could That Happen With COVID-19? | Here & Now
https://www.wbur.org/hereandnow/2020/04/17/coronavirus-immunity-privilege-yellow-fever

医療や公衆衛生が現代のように整っていなかったこともあり、1803年のルイジアナ買収から1865年に終結した南北戦争までの約60年間で、アメリカの都市ニューオリンズでは実に22もの感染症が流行し、毎年人口の10%が死亡したといわれています。

このとき流行した感染症の1つが黄熱です。黄熱はネッタイシマカなどの蚊によって媒介される感染症で、致死率は30~50%と非常に高く、人々に大いに恐れられました。スタンフォード大学の歴史学准教授であるキャサリン・オリヴァリウス氏によると、このような環境の中で「黄熱の免疫を獲得していること」は人種や階級のような1つの社会的地位になったそうです。当時、免疫を獲得することは「Acclimated」(順化)と呼ばれ、ニューオリンズ社会への参加の鍵、市民権の洗礼とみなされていたとのこと。


黄熱の免疫を持たない新しい市民は、住む家や仕事、銀行ローン、結婚などが困難でした。雇用主はアウトブレイクの犠牲になる可能性がある新人を訓練することを嫌い、一家の父親も娘を突然死ぬかもしれない夫に嫁がせることを避けたがったためです。19世紀当時、黄熱について理解されていないことも多くありましたが、「一度黄熱にかかった人は免疫を獲得する」ということは理解されていました。

19世紀のニューオリンズでは、既に存在した不平等がアウトブレイクによって拡大しました。新しく都市にやってきた移民たちは強く仕事を求めるあまり、「黄熱で亡くなった友人に抱きつく」といった感染リスクにあえて身をさらすことも。一方で裕福な人々は流行が起こりやすい夏の間、ニューオリンズを離れました。奴隷は奴隷でない人に比べて25%も黄熱にかかりやすいにも関わらず、奴隷が働いて得た利益はすべてオーナーの利益となりました。白人のオーナーは「黒人は生来的に黄熱の影響を受けない」と語っていたそうです。


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行する現代のアメリカでも、「全犠牲者のうち約72%が黒人」というデータが示されています。これは黒人のアメリカ人が白人よりもサービス業に就く割合が高く、社会的距離を取ったり自宅作業をしたりするのが難しいためだとみられています。これについてオリヴァリウス氏は「今日の状況との類似点を見逃すのは難しい」と述べています。

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また、COVID-19についても「抗体が確認された人から職場に復帰していく」という方法が検討されています。イギリス政府は検査で抗体が確認された人に証明書やリストバンドを発行し、外出制限を解除していく方法を考えており、ドイツ政府も同様に「免疫パスポート」を発行する計画を立てています。アメリカでも同様の議論が存在することが4月10日の時点で報道されました

問題は、このような大規模な新しいシステムをどのように運用するのかということ。証明書や免疫パスポートを偽造する人も必ず出て来ます。そして、免疫がある人から職場に復帰することを政府が認めた場合、19世紀のニューオリンズと同様に、雇用者は免疫がついている人を好んで雇います。既にパンデミックによって多くの人が働き口を失っており、「免疫を獲得すれば仕事を得られる」と考えた人々が自らを危険にさらすことも考えられます。黄熱は、19世紀当時の移民の死因のうち、実に75~90%を占めていたとのことです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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