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野菜販売店から世界最大級のハイテク企業にのし上がったサムスンの栄光と影とは?


2020年3月17日に出版された、創業当時は野菜の販売店だったとされるサムスンの歴史についてまとめた書籍「Samsung Rising」の著者であるジェフリー・ケイン氏にIT系ニュースメディアThe Vergeがインタビューを実施。サムスンの裏話について鋭く切り込んだ本についてのよもやま話やサムスンが抱える問題についてまとめています。

Samsung Rising goes deep on corruption, chaebols, and corporate chaos - The Verge
https://www.theverge.com/2020/4/10/21216092/samsung-rising-book-interview-geoffrey-cain

◆Samsung Risingはさまざまな困難を経て出版された
作家であると同時にジャーナリストでもあるケイン氏ですが、Samsung Risingの出版にこぎつけるにはさまざまな苦労がありました。とりわけケイン氏を悩ませたのが、韓国企業の閉鎖的な体質です。ケイン氏はこれについて「主な障害は、韓国でジャーナリストになることの『不透明感』でした。これは日本でも見られることですが、人に会うことがとにかく難しいし、特に経営者やリーダーは外国人記者のインタビューになかなか応じてくれません」と話しました。

また、「経営や内部事情について語った本が無数に存在するAppleとは違い、韓国では現地語の出版物でさえサムスンの実態を明らかにしていないので、事前調査にさえ長い年月と根気を要しました」とケイン氏は述べています。

さらに、Samsung Risingは韓国でも出版されましたが、サムスンについてセンシティブな問題を扱う本書は、14社以上から出版を断られてしまったとのこと。最終的に、大手の出版社が全てこの本の出版を拒んだため、Samsung RisingはJust Booksというインディーズの出版社を通じて韓国で出版されました。

そんなケイン氏は、この本を当初「Republic of Samsung(サムスン共和国)」というタイトルで出版しようとしたとのこと。これは、韓国人の生活のあらゆる場面にサムスンが関わっていることを韓国人自身が批判的に言う際に使われる言葉ですが、この本はサムスンのグローバル企業としての側面も扱っているため、ふさわしくないと考え直したそうです。これとは逆に、2つ目の候補だった「The Battle for Silicon Valley(シリコンバレーの戦い)」は、アジア企業であるサムスンから離れすぎてしまい没になり、今のタイトルに落ち着きました。

Amazon | Samsung Rising: The Inside Story of the South Korean Giant That Set Out to Beat Apple and Conquer Tech | Cain, Geoffrey | South


◆サムスンの成功の要因とは?
「この本にはサムスンが日本企業をお手本にしてのし上がり、最終的にはソニーを打ち負かすまでの軌跡が紹介されています。特に、当時の日本企業に対する文化的な畏敬の念が印象的でした」と切り出したThe Vergeに対し、ケイン氏は「サムスンは長い間、本質的に日本企業のようなものでした。日本にも戦時中から続く財閥企業がありますが、サムスンはそこから、神のごとき企業のリーダーがトップダウンでビジョンを伝えるという考え方をモデルにしました。だからこそ、サムスンの従業員らは韓国の栄光のために何の疑問も持たずに働く事ができたのです」と答えて、上意下達の経営方針がサムスンの成功を支えたとの見方を示しました。


こうした、財閥を中心とした企業文化は「チェイボル文化(財閥文化)」と呼ばれており、特に家族経営の財閥企業によるリーダーシップが特徴だとされています。

また、ケイン氏はここ10年のサムスンの成長を支えたのは、「大型の有機ELスクリーンを搭載したGalaxyシリーズなどの、高級スマートフォンの成功」だと指摘。「半導体や電子レンジの三流メーカーからAppleやソニーに対抗できる高級スマートフォンメーカーになるのは簡単なことではありませんが、軍国主義的な文化があったからこそできたことです」とコメントしました。

一方で、「サムスンの問題は、テクノロジーの世界を一変させるとされるAI・顔認識技術・バイオテクノロジーなどに多額の投資をしてきたにもかかわらず、その開発があまり進んでいないことです」「過去10年間に、中国はAIのソフトウェア分野において、インスタントメッセンジャーアプリであるWeChatで自国民のデータを集めることで、飛躍的な進歩を遂げてきました。また、中国は半導体も作っています。つまり、『韓国にできることは中国にもできる』こと、これが今の韓国の問題です」と話して、中国企業の追い上げに直面していることを指摘しました。

by Michael Newman

◆サムスンは不祥事にも強かった
サムスンの不祥事として特に有名なのが、Galaxy Note 7の爆発問題です。これは、単に生産中止やリコールを招いただけでなく、Galaxy Note 7が煙を出すハロウィンの衣装になったり、大人気ゲームに爆弾として登場したりといった形でも取り沙汰されて、ブランドイメージを著しく損ないました。

この問題からサムスンが立ちあがった理由を尋ねるThe Vergeに対し、ケイン氏は「とてもいい質問です。これはサムスンが巨大企業であり、回復力があることを示しています」と答えました。ケイン氏はまた、「サムスンは危機の中で成功する会社です。サムスンは幹部らの汚職やセックススキャンダル、政治危機や商品の欠陥といった問題を経験してきましたし、サムスンのリーダーたちは横領や脱税の告発、疑惑のある株取引や財務上の問題の証拠隠滅など、あらゆる種類の罪で法廷に出入りしてきました。しかし、サムスンは失敗しても無傷で乗り切ってきました」と指摘しました。

サムスンがこうした不祥事を乗り切った理由は、単に企業体力があるためではありません。ケイン氏は「消費者はすぐに忘れてしまい、次の物事に気移りしてしまいます。Galaxy Note 7の直後に発売されたスマートフォンは当初こそ厳しい目を向けられたものの、すぐにいい評価を受けるようになりました」「本を書いている間、サムスンはずっと私を攻撃していました。私はスマートフォンでメールを書いていただけの小物なのに、まるで私が彼らのブランドにとって大きな脅威であるかのように、私を黙らせようとしていました」と述べて、消費者の移り気な性質と、問題を取り上げようとする人への積極的な攻撃によりサムスンが危機を乗り切ったことを示唆しました。

また、Galaxy Note 7と同様に「画面が割れやすい」という問題に見舞われたGalaxy Foldについてケイン氏は、「Galaxy Note 7との違いは、運よくレビュアーの手に渡った段階で問題が明らかになったことです。彼らは市場投入を急いでいましたが、もし本当に多くの人に行き渡った後だったら、大惨事になっていたでしょう」とコメント。

さらに、「スマートフォンの前身だった携帯電話でも、折り畳み式のものもあればスライド式のものなど、いろいろな機種が登場し、非常に安く買うことができました。それがスマートフォンにも当てはまると思います」と述べて、サムスン初の折りたたみスマートフォンも、いずれは凡庸なものになるとの予想を示しました。


◆韓国文化を支えるサムスン
ケイン氏は、第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した、韓国映画の「パラサイト 半地下の家族」に象徴される、韓国文化の成功にも独自の目線から分析を加えています。

ケイン氏が、映画「パラサイト 半地下の家族」の成功に特に尽力した人物として挙げているのが、サムスン創業者のイ・ビョンチョルの孫娘であるイ・ミギョン氏です。イ・ミギョン氏が副会長を務める韓国の大手食品メーカーCJグループは設立当初、サムスングループ傘下の第一製糖工業株式会社という製菓メーカーに過ぎませんでした。しかし、アメリカでの生活の中であまりに韓国のイメージが低いという事実に直面したイ・ミギョン氏は、スティーヴン・スピルバーグ監督などハリウッド界の大物を口説き落として設立した映画会社ドリームワークスを通じて韓国映画の版図を広げる役割を果たしました。

こうした事例からケイン氏は「これは、サムスンの創業者一族が持つ影響力の証拠だと思います。それがスマートフォンだろうが映画だろうが、韓国文化が世界に繰り出すところには必ずサムスンがあります」と述べました。

また、サムスンの創業者一族は韓国の国際政治にも大きな影響力を誇っています。ケイン氏は、「韓国のムン・ジェイン大統領が就任して最初にやったのは、サムスンの事実上のトップであるイ・ジェヨン副会長を連れて北朝鮮に行ったことです。これは、イ・ジェヨン氏が贈賄や横領などの罪で逮捕・起訴されていることを踏まえると、信じられないことです。例えていうなら、トランプ大統領が安倍首相と会談する大事なサミットに行く際に、対日親善の象徴として巨額詐欺事件の犯人であるバーニー・マドフを同行させるようなもの。他の国では考えられません」と指摘し、韓国の政治や司法にも、サムスンの力が及んでいることを指摘しました。


◆サムスンの行く末は?
2020年4月の時点では、サムスンの名目上のリーダーはイ・ゴンヒ会長です。しかし、イ・ゴンヒ会長は健康問題により長期にわたって入院をしており、意識がない状態が続いているとされています。

そんなイ・ゴンヒ会長についてケイン氏は「私自身は彼の病室を訪問したことがないので、健康状態はわかりません。しかし、サムスン内情に詳しい人からは、サムスン内部では事実上亡くなったものとして扱われていると聞いています。Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが意識不明になって、生命維持装置に入ったまま6年以上もFacebookを続けていると想像できるでしょうか?これは普通ではないので、とても興味深いです」と指摘しました。

ケイン氏によると、サムスンはイ・ゴンヒ会長の指示がなくとも、学のある有能な幹部によって経営が続けられているとのこと。この点についてケイン氏は「私は、創業者一族を『会長』というよりは、最高事業計画責任者だと考えています。彼らはビジョンを定めますが、サムスンの日常業務は幹部が創業者一族の指示を受けることなく独自に遂行しています。これは、戦前の日本の財閥モデルによく似ています」と指摘。

一方で、事実上のトップであるイ・ジェヨン氏については、「サムスンが彼について出す情報の多くは曖昧で、世界最大のテクノロジー企業の1つを引き継ごうとしている人物としてはあまりいい兆候とはいえません」と評価し、今後のサムスンを率いるイ・ジェヨン氏の経営手腕については未知数だとの見方を示しました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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