優れた意思決定を行って間違いを減らす思考法「チェスタトンのフェンス」とは?
「ミステリーの女王」アガサ・クリスティや「ノックスの十戒」で知られるロナルド・ノックス、「密室の王者」とうたわれたディクスン・カーなどの著名な推理作家を輩出したイギリスの推理作家クラブの初代会長を務めたG・K・チェスタトンは、「ブラウン神父」シリーズなどの推理小説のみならず、批評家としても有名でした。そんなチェスタトンが唱えた「なぜフェンスが建てられたのかわかるまで、決してフェンスを撤去してはならない」という考え方を指す「チェスタトンのフェンス」について、教養をテーマにするブログFarnam Streetが論じています。
Chesterton’s Fence: A Lesson in Second Order Thinking
https://fs.blog/2020/03/chestertons-fence/
チェスタトンが指摘したのは、改革を行うときの「二次的思考」の重要性です。チェスタトンは「道路に設けられたフェンス」という例を挙げて、「近代的な改革者ならば、『このフェンスが使われているのを見たことがない。だから撤去しても問題はない』と気軽に主張します。しかし、賢い改革者はそういった人に対して『このフェンスが使われたところを見たことがないというのは、撤去する理由にはなりません。あなたがこのフェンスが置かれた理由を理解したとき、撤去について検討しましょう』と応じるはずです」と著作の中で論じました。
「二次的思考」は何か解決策を考え出した後に、「その解決策が与える影響は何か」「その手段を採ったとき、その次に起こりうる問題はどうか」まで考え抜くという思考法です。
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これについて、「フェンスは地面から生えてきたわけでもなく、狂った人々が建てたわけでもないため、フェンスを建てた人たちは『こうしたほうが良い』と思うだけの理由があったはず」とチェスタトンは説明します。過去にフェンスを建てた人の動機を理解しないと、いつか意図しない結果が生じるというのがチェスタトンの主張です。Farnam Streetはこのチェスタトンの主張について「フェンスが存在するのならば、そこには何かしらの理由がある」と解説し、この主張から得られる教訓を「そもそもフェンスが設置された理由を理解するまで、フェンスを撤去するな」と簡潔に要約しました。
Farnam Streetによると、チェスタトンは「昔の人々が愚かで、ところ構わずフェンスを建設しただけなのでは?」という一般的な疑念についても言及しているとのこと。この疑念に対し、チェスタトンは「人というのはものぐさで、無駄なフェンスのために時間とリソースを無駄にしたくないものです。フェンスを建てた理由が理解できなかったとしても、それが無意味なものだとは限りません」と述べています。
Farnam Streetは、現代的な「チェスタトンのフェンス」の例として、「組織内の序列」を挙げています。厳格な序列が存在する場合、平社員が良い改善案を提出したとしても取り入れられる可能性は低いといった問題点が存在します。しかし、Farnam Streetは「決定を下すということは結果に対して責任を負う必要があり、混乱時には人は自然と序列の高い者に指示を求めるという傾向が存在します」と述べて、序列の存在が指示系統をうまく機能させていると主張。「正式な序列がなくても自然と序列が形成することもあります」と述べて、組織内の序列が偏在しているのには理由があり、これを取り除くのは「チェスタトンのフェンス」に他ならないと説明しました。
起業家教育の旗手、スティーブ・ブランク氏が「スタートアップ企業で何度も見たことがある」という事例もFarnam Streetは取り上げています。ブランク氏によると、多くのスタートアップ企業は成長した際に、自社の財務を管理させるために最高財務責任者(CFO)を雇おうとするそうです。そして雇われたCFOは「すぐに結果を出さないと」と考えるため、今までは会社持ちだった「お菓子代」などの細々とした経費を削減するようになります。
従業員は自分でお菓子を買えるだけの十分な給料をもらっていますが、「会社に変革が生じている」と察知します。そして、最も優秀な社員から順に辞めていき、年間数万円か数十万円で済むお菓子代が取り返しの付かない痛手となります。ブランク氏によると、以上のようなケースは「常に同じ結末をたどる」そうです。Farnam Streetは「新しく雇われたCFOが『お菓子代』というフェンスが建てられた理由を考えない場合、このような結末になります」と解説しています。
Farnam Streetは「改善を試みようとする人に対して警告したいわけでなく、実行の前には『二次的思考』を行うべきです。私たちは、私たちの前にその決定を下した人よりも賢く、物事をよくわかってるとは限りません。誰かが決定を下した理由を理解しない限り、変更したり、間違っていると結論を下したりすべきではありません」と述べました。
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