サイエンス

超人的な能力を持つ「シャーマン」は人類史上最初の「専門家」だったという研究

by Just Marti

「シャーマン」という存在について、霊的な存在とやりとりして使役する姿や祈りの踊りをする姿など、なんとなく魔術的なイメージを思い浮かべるものの、詳しくはよく知らないという人も多いはず。そんな超自然的な力を操るシャーマンが人類社会において初めての「知的職業階級(professional class)」だと言えると研究により指摘されています。

Study suggests shamans acted as the first professional class in human society – Harvard Gazette
https://news.harvard.edu/gazette/story/2018/12/study-suggests-shamans-acted-as-the-first-professional-class-in-human-society/

人間進化生物学を研究する大学院生、マンビル・シン氏によりBehavioral and Brain Sciencesへ掲載された論文では、数多くの分野の研究者から解説を集めつつ、シャーマニズムがコミュニティにおいて専門家として重要な地位へと発展することを主張しています。

そもそもシャーマンとは、祈とう師や呪術医、聖人、預言者など、呼び方はさまざまですが、一般的に「超自然的な部分に交わり、超現実的な力を使用して現実へと変化をもたらす存在」だと理解されています。このシャーマンの概念は、熱帯雨林の狩猟採集部族から近代都市に住む人々まで、すべての文化的境界を横断するものです。


シン氏は「シャーマンとは何なのか?」という問題は非常に議論の余地がある人類学の難問だと述べつつ、一般的な認識としてシャーマンを「コミュニティにサービスを提供するために、異質な振る舞いや心理状態を見せる一種のトランス状態に入る存在」と表しています。シン氏によると、彼らは病気の治癒から邪悪な精神の浄化、天候の操作まで可能とのことです。

by tommy

シャーマニズムがコミュニティの中で発展した背景には、天候や呪術的儀式などの不確定なものをコントロールできるというシャーマンの能力を人々が信じたがる傾向があるとシン氏は述べます。雨を降らせ、動物を召喚し、病気を治すという、重要だが不確実なことは、不可視の力、すなわち神、魔女、祖先、妖精などの影響を受けていると人々は信じています。そんな中シャーマンは、「私は妖精や神と対話することができるから、超自然的なことをコントロールできるのです」と言います。

コミュニティがシャーマンのこのような能力を信用しているのは、シャーマンが人間以上の何かに変身することで超自然的な力と関わるというイメージから来ているのだそうです。シャーマンが何時間も踊って疲労しきったとき、トランス状態に入り人類を超越した存在になるのだと理解されています。シン氏はスーパーヒーローの物語を例に挙げ、人々は超人的な存在に変身する人のことを信じる傾向にあるとしています。


注目すべきポイントとして、「シャーマンは生物学的または生理学的に異なる種類の存在です」とシン氏は強調しています。彼らは超人的な力を持った人間なのではなく、超自然に関わる中で人間とは別の種類の存在になるのだそうです。この変容プロセスこそ、シャーマンがどのように人類社会において初めての知的職業階級になったかを説明するのに役立つとシン氏は主張しています。

ここで言う専門性とは、小規模な社会で見られる「カヌーを作る職人」「弓を作る才能」というような緩やかな専門性とは区別されるとシン氏は説明しています。コミュニティの一部のメンバーはカヌーや弓を作る才能を持っているかもしれませんが、他の人が自分のカヌーや弓を作れないようにする参入障壁はありません。一方でシャーマンにとっては、シャーマンになるためには変革の儀式を経なければならず、「専門家(シャーマン)ではないが力は扱える」ということはありえません。その意味でシャーマンは人類史で初めて極めて専門的な知的職業階級を獲得していたと言えるそうです。

シン氏は今後の研究の中で、シャーマンが超自然的な能力を発揮することで主張する様々な権力が地域社会の中でどのような形をとるかを探求したいと語りました。また、音楽や魔法信仰などの近代的な文化的実践がなぜ発展するのかを理解することにも取り組んでいるそうです。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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