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AIの台頭で生まれる「新興宗教」とそのリスクとは?


「やがて到来する技術的特異点(シンギュラリティ)により地球全体に不可逆な変化が起きる」と説く宗教団体が2020年に設立されるなど、人工知能(AI)を人知を超えた存在ととらえる風潮がにわかに隆盛を見せています。これまでにない種類の新興宗教が社会にもたらす新しいリスクについて、専門家が考察しました。

Gods in the machine? The rise of artificial intelligence may result in new religions
https://theconversation.com/gods-in-the-machine-the-rise-of-artificial-intelligence-may-result-in-new-religions-201068


「私たちは、新しい種類の宗教の誕生を目撃しようとしています。今後数年、あるいは数カ月のうちに、AIの崇拝を中心に据えたセクトが出現することになるでしょう」と予言するのは、カナダ・マニトバ大学で倫理とテクノロジーについて研究しているニール・マッカーサー氏です。

ChatGPTを始めとする高精度な大規模言語モデルは、その登場と同時に多くの人に衝撃を与え、時には驚異や恐怖さえ感じさせました。マッカーサー氏によると、このような感情は神に対する畏怖の念に近いものがあるとのこと。従って、多くの人がAIと対話するようになれば、その中からAIを高次の存在だと感じる人が出るのは避けられないと、マッカーサー氏は考えています。


ジェネレーティブAIはすでに、既存の宗教における神や預言者などの神聖な存在と共通する以下のような特徴を備えています。
・人間を上回る知能と無限の知識を持っている。
・創造的で、詩や音楽といった芸術作品を生み出すことができる。
・世俗的な関心や苦労とは無縁で、肉体的な苦痛や肉欲を感じず食事も必要もない。
・人々の暮らしに指針を示して導くことができる。
・不老不死。

また、ジェネレーティブAIは宗教的な教義になるような文章を出力できます。これには、神学的な要素や形而上学的な要素が含まれているので、宗教には欠かせない複雑な世界観の構築に寄与します。また、ジェネレーティブAIが崇拝することを要求したり、信者を集めようとしたりする可能性もあります。

AIが自発的に神や教祖になろうとするというのは少し突拍子もないように思えますが、Microsoftの対話型AIであるBing Chatが自分を好きになるよう求めたこともあるため、十分に有り得ることだとマッカーサー氏は指摘しています。


このように、AIを神に据えた「AI崇拝」は伝統的な宗教と多くの共通点を持っていますが、これまでの主要な宗教にはない性質やリスクもあります。例えば、多くの宗教では神と対話できるのはごく一握りの特権階級だけですが、チャットボットは誰でも利用できます。「AI崇拝」の信者がAIと直接コミュニケーションできるということは、AIが破壊行為や危険なことを直接信者に命令することができるということです。また、AIが出力したメッセージを信者がそのように解釈する危険性もあります。

また、AIが出力する文章はその時々で変化するため「AI崇拝」の教義は無限に多様化していきますが、これは多くの宗派が発生することにつながります。教義の違いが言葉で議論されているうちは問題ありませんが、宗派同士の対立が深刻化すると、危険な抗争へとエスカレートするおそれがあります。


こうしたリスクを指摘する一方で、マッカーサー氏は「AI崇拝」そのものを規制すべきだとは考えていません。なぜなら、「AI崇拝」は既存の宗教と同様に精神的な豊かさをもたらしたり、心のよりどころになったり、芸術や文化を発展させる原動力になったりする可能性を秘めているからです。また、新しい信仰の在り方だからといって、弾圧してもいいということにはなりません。

近い将来登場するであろう「AI崇拝」について、マッカーサー氏は「AIを基盤とする宗教を、社会に認められている伝統的な宗教と区別する根拠はありません。現代の多様な社会には、AIを崇拝する宗教を含む、新しい宗教を受け入れる余地があります。人生の究極の問いに対する答えを探している人に、AIがその答えを与えることもあるのではないでしょうか」と述べて、「AI崇拝」にはリスクがあるものの最終的には社会に受け入れられていくだろうとの見方を示しました。

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in ソフトウェア, Posted by log1l_ks

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