メモ

「神の罰」を信じる宗教は人口が急激に増加した後に登場していることが明らかに


「宗教」について考えた時、悪い人間には神の罰が下るといったイメージを浮かべる人も多いはず。しかし、実際に偉大な存在が人間の道徳心を監視するという要素はそれほど普遍的ではないそうで、オックスフォード大学や慶應義塾大学の研究者らが「神の罰を信じる宗教が現れるタイミング」について研究しています。

Complex societies precede moralizing gods throughout world history | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-019-1043-4

Big gods came after the rise of civilisations, not before, finds study using huge historical database
https://theconversation.com/big-gods-came-after-the-rise-of-civilisations-not-before-finds-study-using-huge-historical-database-113801


一般的に多くの人々が連想する「神」とは、人々の行いを監視して場合によっては神罰を下す存在です。しかし、小規模な伝統的社会においては、超常的な存在が人間の道徳心を気にかけない精神世界が想定されているケースが多いとのこと。小規模な社会における精神世界は人間社会の営みを監視するものではなく、あくまで個人が超常的な存在に対する義務を遂行し、敬意を払うかどうかに焦点を当てていると研究チームは指摘しています。

それにもかかわらず、現代社会に生きる多くの人が慣れ親しんでいる主要な宗教は、邪悪な者を罰するために神罰や地獄カルマといったメカニズムを用いています。この点について、ある有力な仮説は「大規模な社会が発展するには道徳心を求める宗教が必要である」と主張しています。この仮説によると、小さな集団はお互いの存在をよく知っているため、不正をすればすぐに集団的な粛正や追放の対象となり、「神による監視の目」は必要ありません。一方、社会が大きくなると見知らぬ人との相互作用が増えて不正が見逃される可能性も増加するため、不正を行う人間を監視する存在として「神による監視の目」が必要になるとのこと。

別の仮説としては、「『神による監視の目』を信じる宗教を信仰することが、社会の複雑さが増加した状況において有利になる」というものもあります。取引において、「全知全能の神を信仰していて、不正をすると罰が下る」と信じている人は、不正をする可能性が低いと見なされる傾向があります。そのため、社会が複雑になって見知らぬ相手との取引を行う機会が増えた結果、相手に安心感を与えられる「道徳心を求める宗教」の人気が高まった可能性もあります。


道徳心を求める宗教と社会の複雑さに関する多くの仮説が存在していますが、「道徳心を求める宗教が登場したことによって社会的な複雑さが増したのか、それとも社会的な複雑さが増したことで道徳心を求める宗教が登場したのか」という点については、これまでの研究で一貫した結論が得られていませんでした。太平洋の島々における信仰を調査したある研究では、超自然的な存在による罰が集団を治める首長の台頭に先行している可能性が示唆されましたが、別の研究では社会的な複雑さの増加が道徳心を求める宗教の台頭に先行していることが示唆されました。

そこで研究者らは、一体どのようにして「道徳心を求める宗教」が誕生したのかを調査するため、大規模なオープンアクセスのデータベース「Seshat(セシャト)」を利用して分析を実施したとのこと。「セシャト」という名称は古代エジプトの知恵、知識、記述を司る女神であるセシャトにちなんだもので、10年にわたって多くの学者らが協力してデータを追加してきたそうです。


セシャトには世界各地の文明における社会の複雑さ、宗教、戦争、農業、その他の文化や社会機能に関するデータが、最大で1万年前までさかのぼって記録されています。研究チームはこの広範なデータベースを用いて、道徳心を求める宗教が登場したことによって社会的な複雑さが増したのか、それとも社会的な複雑さが増したことで道徳心を求める宗教が登場したのかについて調査を行いました。

研究チームは過去1万年の歴史の中で存在した30の地域における414の社会集団について、社会的複雑さを示す51個の尺度と、「超自然的存在による道徳心の強制」を示す4個の尺度を用いて分析を行いました。その結果、「道徳心を求める宗教が登場するのは、社会的な複雑さが急激に上昇した後である」ことが明らかになったとのこと。

以下のグラフは、縦軸が上になるほど社会的な複雑さが増していることを示しており、横軸は時間を表わしています。社会的な複雑さが低いうちは儀式的な要素が強い宗教のままですが、社会的な複雑さが急激に上昇した後のタイミングでのみ、「道徳的であることを求める神」が登場していることがわかります。研究チームによると、社会集団の全人口が100万人を超える前後のタイミングで、道徳心を求める宗教が登場する傾向があるそうです。


研究チームは社会的な複雑さが増した要因についてもセシャトを利用して研究しており、「毎日または毎週の定期的な集会」が、社会的な複雑さが上昇する初期のタイミングで現れる傾向なども発見しているとのこと。また、現代社会における宗教の衰退が多様な集団の協力体制を崩す原因になっているのか、あるいは神の存在を他の形態の監視体制に置き換えられるのかといった疑問を解明するヒントも、セシャトを用いて得られる可能性があると研究チームは述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「賢くなればなるほど神を信じる可能性が低くなる」という研究結果 - GIGAZINE

「神が存在する」と数学的に論理展開できるか? - GIGAZINE

「ネコ好きは無神論者」「神に求めるものをネコで代用している」という研究結果 - GIGAZINE

すべての文化に共通な7つの道徳的規範とは? - GIGAZINE

人間は夜の闇の中で何をして過ごしてきたのか?という歴史 - GIGAZINE

「宗教を信じること」が長寿につながるかもしれないという研究結果 - GIGAZINE

宗教の分布と信者の人数が一目で分かる地図 - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.