サイエンス

人類社会の大きな進化には「農業」と「軍事(鉄製武器&騎兵)」が強く影響したという研究結果


この1万年の間に、人類の社会は巨大かつ複雑に進化しました。なにが進化を促したのか、さまざまな要因が考えられていますが、コネティカット大学ストーズ校の進化人類学者ピーター・ターチン氏らは定量的な検証のため、文化的大進化の理論的枠組みに基づく一般的力学モデルを開発。このモデルと国際的科学研究プロジェクト・Seshat:Global History Databankのデータベースを用いて、「農業生産性の向上」と「軍事技術(特に鉄製武器と騎兵)の発明・導入」の組み合わせが社会の複雑化と強い因果関係を持つという結論を導きました。

Disentangling the evolutionary drivers of social complexity: A comprehensive test of hypotheses
https://doi.org/10.1126/sciadv.abn3517


Does warfare make societies more complex? Controversial study says yes | Science | AAAS
https://doi.org/10.1126/science.add7042

農業の生産性が向上したことで、定住人口の増加と分業が可能になり、社会の複雑化が進んでいったという点について、学者たちの意見は一致しているそうですが、戦争が社会の複雑化を促したという主張には大多数の考古学者が否定的な見方を示しているとのこと。このことについてターチン氏は「戦争は恐ろしいものであり、よい影響を与える可能性があると思いたくないのでしょう」と述べています。


ターチン氏らは、「社会の複雑さ」を測るにあたり、「その社会の領域の大きさ」「支配階級の複雑さ」「職業軍人・司祭・官僚の存在や法典・裁判制度の複雑さなど、政府がどの程度専門化されているか」という、定量化可能な3つの指標を設定。世界の400以上の社会についての情報が集うSeshatに、古代生活の側面をさまざまな変数に分解するように依頼しました。たとえば「12世紀に南イエメンを支配したアイユーブ朝にフルタイムの官僚はいたか?(答:いた)」や、「今のペルーあたりに存在したワリ帝国の人口はどれぐらいだったか?(答:10万人~50万人)」といった具合です。

研究チームは何百もの社会を地域ごとに30にグループ分け。そして、軍事の進化度合いや農業の発展具合などの社会的変数を17のバケットに分類し、それぞれのバケットから得られるデータが、社会の複雑さとして定義した3つの指標の成長をどの程度予測できるか、判断するアルゴリズムを開発しました。

この結果、複雑化した社会で際立っていた要因が「農業」と「軍事(特に鉄製武器と騎兵)」だったとのこと。優れた鉄製武器を装備し、騎兵を編成した社会は、ライバルから自らを守り、さらに相手を圧倒する力を持ちます。この競争が、社会をより複雑にして、複雑化する戦いのために階層的な軍隊を構築し、多様な資源と増大する人口を管理するため、官僚的な政府を組織するようになる、というわけです。


ただし、サハラ砂漠以南のアフリカやアメリカ大陸、太平洋の島々では、「複雑化した社会」が何千年にもわたり繁栄した事例があるものの、ユーラシアや北アフリカでみられるような広大な領土を征服する巨大帝国はほとんどありません。これは政府が階級的・専門的ではなかったためと考えられます。

また、インカ帝国も例外で、鉄と馬なしで膨大な人口と複雑な統治を行っていましたが、これはラマを輸送に用いることでライバルを圧倒したものと考えられています。

本研究に関与していない、ピッツバーグ大学の考古学者ロバート・ドレナン氏は「説得力のある研究だと思う」と一定の評価をした上で、「農業と軍事がどのように社会を形成してきたかについて、かなり限定的な考察にとどまっている」と指摘。

また、「社会変革の担い手として、馬の重要性を強調する研究」と評価する、コロラド大学ボルダー校の人類学者ウィリアム・テイラー氏も、本研究で「乗馬(騎乗)」が紀元前1000年ごろにポントス・カスピ海草原で始まったものと推定していることについて、正確な年代と場所はまだまだ研究のさなかにあり、初期の乗馬社会の多くは考古学的な手がかりをほとんど残さなかったことから、考古学に大きく依存するSeshatのようなモデルでは過小評価されている可能性が高いのではないかとくぎを刺しています。


また、カリフォルニア大学デービス校の人間行動生態学者モニーク・ボルガーホフ・マルダー氏も、今回の研究は「歴史に対して、革新的なマクロレベルの定量的なアプローチを行ったもの」と評価した上で、「農業と軍事技術の進歩と社会的複雑さの進展の間には、影響を確信するにはあまりにも長い時間がかかると考えられます。軍事技術は予測因子として、かなり遠いものとみなければなりません」と述べています。

ターチン氏は「最終的に、戦争が人類社会の複雑化に影響を与えたのだとしても、喜ぶべきことではありません。進化に不可欠なのは『競争』であり、『暴力』ではありません」と述べました。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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