経済的に苦しい人は「国としては景気が良い」と考えているとより強い無力感を覚えるとの研究結果

たとえニュースで「景気が好調」と報じられていても実際に自分が生活に困っていれば、世間の景気と自分の暮らしの間に隔たりを感じてしまうのはおかしなことではありません。アメリカのイェール大学とカナダのトロント大学の研究チームが、個人の経済的な苦しさと無力感の関係が「自国の景気をどう評価するか」によって変わるのかを調べました。
The Bad Side of a Good Economy: How Perceptions of the Economy Moderate the Relationship between Financial Strain and Powerlessness - Jiarui (Bruce) Liang, Alexander Wilson, Scott Schieman, 2026
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/01902725261421204
When a "good economy" feels worse: How economic optimism can deepen a sense of powerlessness
https://www.scienceofmoney.org/when-a-good-economy-feels-worse-how-economic-optimism-can-deepen-a-sense-of-powe-1085/

イェール大学の社会学博士課程に在籍するジアルイ(ブルース)・リャン氏、トロント大学のアレクサンダー・ウィルソン氏、スコット・シーマン氏らは、無力感を「自分の行動では日常の出来事や結果を左右できないという感覚」だと定義しています。
リャン氏らは経済的に苦しい人と無力感の関係について、「景気が不調だと状況を改善する機会が減って無力感が一層強まる」「景気が好調なら希望を持って無力感が強まりにくくなる」「景気が不調なら苦しいのは自分だけではないと感じて無力感が強まりにくくなる」「景気が好調だと経済的に苦しい原因を自分に求めて無力感が一層強まる」という4つの仮説を立てました。以下の4つのグラフの横軸は経済的な苦しさ、縦軸は無力感を示しており、実線は自国の景気を「普通」と評価した場合、破線は「不調」と評価した場合、点線は「好調」と評価した場合を表しています。

分析には、スコット・シーマン氏が主導する2つの調査プロジェクトで収集された回答データが使われました。カナダの調査は2023年9月、アメリカの調査は2023年11月にオンラインで実施されたもので、対象となったのは各国の労働者人口を代表するよう集められたアメリカの労働者2466人とカナダの労働者2501人です。
それぞれの調査には、「過去1年間に請求書の支払いに困った頻度」「生活必需品を買うお金が足りなかった頻度」「月末にどの程度お金が残るか」という経済的な苦しさに関する3項目、「自分に起きることをほとんどコントロールできない」「人生の問題に対処するとき無力だと感じることが多い」といった無力感に関する項目、自国の景気を尋ねる項目が含まれていました。今回の研究では、調査への回答を基に各回答者の経済的な苦しさと無力感のスコアが算出され、景気への回答は「不調」「普通」「好調」の3グループに分類されました。
分析の結果、アメリカとカナダのどちらでも経済的な苦しさが強い人ほど無力感も強い傾向にありました。中でも経済的に苦しい人では、景気を「好調」と答えた人の方が「普通」や「不調」と答えた人よりも無力感が強くなったとリャン氏らは報告しています。なお、景気について「普通」と答えた人と「不調」と答えた人の間には明確な差がなかったとのことです。以下のグラフは上段がカナダ、下段がアメリカで、横軸が経済的な苦しさ(0~4点)、縦軸が無力感(1~4点)を示しています。また、実線は自国の景気を「好調」と評価した人、破線は「不調」と評価した人、点線は「普通」と評価した人を表しています。

経済的に苦しい人が景気を「好調」と評価すると無力感が強まる理由について、リャン氏らは「周囲の人は経済的な安定を得ているのに自分だけが取り残されている」と感じる相対的剥奪感と、「能力や努力によって成功するかどうかが決まる」と考える人が、好景気なのに自分の生活が苦しい原因を自分の性格や行動に求め、自分では人生の出来事を左右できないと感じる可能性を挙げています。
ただし、今回の研究は一時点の回答を分析した観察研究であるため、好景気という認識が無力感を強めたとは断定できません。研究チームは、景気の客観的な指標だけでなく「人々が景気をどう認識しているか」も生活の質に関わる可能性があると指摘しています。
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