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「伝統は長い歴史の中で人間の文化に適応して進化する」という主張

by ELSIE ZHONG

古来より伝統的に伝わる技術や行事には、科学的に物事を考えるようになるよりもはるか以前から伝わるものもあり、「なぜそんなことをするのか」という合理的な理由が語られないことも多くあります。そんな伝統と合理性について、文化人類学者のジョセフ・ヘンリック氏の主張を、歴史を扱うブログフォーラム「The Scholar's Stage」が取り上げています。

The Scholar's Stage: Tradition is Smarter Than You Are
http://scholars-stage.blogspot.com/2018/08/tradition-is-smarter-than-you-are.html


伝統や慣習について語る上で、ヘンリック氏は南アメリカでのキャッサバの調理を例に示しています。


南アメリカでは、タピオカの原料であるキャッサバが農作物として栽培されており、南アメリカ大陸では主食として重要な存在です。キャッサバは有害なシアン化物を含んでおり、正しく調理されないと高い毒性を示しますが、南アメリカに住む人々は古来から伝統的な調理法で無毒化することに成功しています。

例えば、アマゾン川流域の先住民族であるトゥカノ族は、キャッサバを主食とすることで知られています。トゥカノ族の女性は1日の4分の1をキャッサバの調理に費やすほどで、キャッサバの毒抜きは非常に手がかかるもの。また、キャッサバの調理は、他の作物の栽培が難しいアマゾン川流域で生活するためには不可欠な技術であるにもかかわらず、複雑な工程ゆえに1から習得するのはかなり難しいそうです。

by TOMIRACHIPONGE

もちろんトゥカノ族は「キャッサバが有毒である」と最初から知っていたわけではなく、経験的にこの加工技術を習得してきたわけであり、長い歴史の中でトゥカノ族の女性が自身の母親から習ったキャッサバの調理方法から、一見不必要な工程を省いたり、新しい工程を追加したりすることで、キャッサバからより効率的に毒を抜く方法を確立していったというわけです。しかし、トゥカノ族の女性は、「なぜキャッサバを煮詰めるのか」「なぜキャッサバの芯を取り除くか」など、その調理工程の一つ一つがどのように解毒に貢献するのかを理解しているわけではありません。

キャッサバは干ばつが起こりやすい地域でも高い収穫量を期待できる農作物だったため、アフリカ大陸でも栽培されるようになりました。しかし、栽培が始まってから数百年経っても、アフリカでキャッサバの調理方法はいまだに普及しておらず、慢性的なシアン化物中毒はアフリカの深刻な健康問題の1つとして語られます。アフリカの部族の中には、キャッサバを正しく調理する方法を確立している部族も存在しますが、その技術はアフリカ全体には普及していないのが現状だとのこと。

by ivabalk

また、ヘンリック氏は、インドネシアのボルネオ島南部における農業用地の選定方法も例としてあげています。高温多湿で雨の多いボルネオ島南部では、水害が発生すると農作物が大きな被害を受けてしまいます。そのため、「いかに水害発生率の低い農地を選定するか」が重要となりますが、その際に「予定地に生息する鳥の鳴き声によって水害発生率を予測する」という手法が取られています。鳥の鳴き声で判断するというのは一種の占いのようですが、実際に鳥の鳴き声による農地選定は一定の成果を上げているそうです。

400年ほど前にインドネシアで稲作が盛んとなったタイミングで、この鳥の鳴き声による農地選定システムはボルネオ島南部以外にも伝わったそうですが、ボルネオ島南部以外の地域では、鳥の鳴き声による農地選定システムはあまり役に立たず、結局あまり普及しなかったとヘンリック氏は報告しています。

by Kanenori

キャッサバやインドネシアでの例を受けて、ヘンリック氏は「伝統や慣習はダーウィンの唱えた自然選択説の対象となります」と述べ、固有の伝統は固有の文化に適応して成立するものであり、簡単にコピーできるものではないと主張しています。

ヘンリック氏は「伝統を受け継ぐことがどのようにして私たちの生活に役立っているのかについて、私たち自身は理解していないことがほとんどであり、伝統の代わりとなるものを後から作り出すことは困難です」と述べ、「アメリカやヨーロッパに住む人は、『自分の行動の動機は常に説明可能かつ明確でなければならない』と考えるように生涯を通じて訓練されているため、求められていることについて常に立派な理由を用意する義務があると考える傾向があります」とコメント。「人間は一般的に明確な因果モデルと明確な理由に基づいて物事を行う」というのはアメリカやヨーロッパの間でのみ抱かれる幻想だとヘンリック氏は主張しました。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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