「先住民族に伝わる伝承」をもとに科学的新発見につなげる取り組みは有効なのか?
by Thierry Leclerc
人類が大きく進化した理由として「火を使うようになった」ことが挙げられますが、オーストラリア北部には「火を使って狩りをする鳥」が存在することが確認されました。研究者たちによって「発見」されたこの現象ですが、オーストラリア北部のアボリジニは古くからこの現象を知っていて、研究者たちはアボリジニの伝承をもとに研究を行ったそうです。
When Scientists "Discover" What Indigenous People Have Known For Centuries | Science | Smithsonian
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/why-science-takes-so-long-catch-up-traditional-knowledge-180968216/
かつては道具を使う動物は人間だけだ、と信じられていた時代もありましたが、近年の研究によって動物たちが道具を使う事例が次々と発見されているとのこと。チンパンジーはシロアリを捕獲するために小枝をアリ塚に差し込んで「アリ釣り」を行い、タコは半分に割れたココナッツを運んで自分の隠れ家として利用します。しかし、「鳥が火を使う」という発見は非常に大きな衝撃を学者たちに与えました。
マーク・ボンタ氏とロバート・ゴスフォード氏らの研究チームは、オーストラリア北部に生息する「Milvus migrans(トビ)」「Haliastur sphenurus(フエナキトビ)」「Falco berigora(チャイロハヤブサ)」の3種類の猛禽類が火の付いた枝をくわえて運び、餌となる小動物をあぶり出していることを発見しました。鳥が火災に乗じて逃げる動物を捕獲していることは知られていましたが、実際に鳥が木の燃えさしを使って火事を拡大させている事実は西洋の科学者たちを驚かせました。
しかし、「鳥が火を使って狩りをする」という現象はオーストラリア北部のアボリジニにはよく知られており、部族の儀式や習慣にも「火を使う鳥」のモチーフが取り入れられていたとのこと。このアボリジニの伝承は西洋の人々も知っていたものの、「鳥が火を使って狩りをするわけがない」として、ただの迷信として扱われてきました。鳥が火を使う現象を発見したボンタ氏とゴスフォード氏はアボリジニの伝承を前向きに研究し、アボリジニの伝承を元に火を使う鳥の存在を発見したとのこと。先住民族に伝わる伝承を非科学的だとして切り捨てるのではなく、「伝承には理由があるはずだ」として西洋的な科学研究に生かしたのです。
火を使う鳥の事例は、全世界の科学者たちに「先住民族の伝統的知識を科学的新発見に生かすことができるのでは?」というアイデアを与えるものです。同様に、先住民族に伝わる伝承を科学研究に生かしている例として、海氷の観測に関する気候学研究において、過去の海氷状態の変化を知るためにイヌイットの伝統的知識が使われているとのこと。
しかし、先住民族の知識が科学的研究に有効であるという実例があるにもかかわらず、多くの科学者は先住民族の知識を研究に持ち込むことを避けています。それらの知識は科学的な考証に沿っているときには「この現象は先住民族にも知られていた」と補足的に使われますが、伝承が「科学的に信じられていること」と食い違っている場合、それらは単なる伝説や神話として切り捨てられてしまいます。「火を使う鳥」の伝承も、今回の発見が公表されるまでは単なる伝承として信じられてきたのです。
Smithsonian.comは「しかし、果たして科学だけが真に客観的で定量可能、人類の知識を進歩させるものであり、伝統的知識はそうでないと切り捨てるのは正しいのでしょうか。先住民族の伝統的知識は、私たちが世界に関する知識を手に入れるための入り口を提供してくれるのではないでしょうか」として、先住民族の伝統的知識は科学的に考えるに値するかもしれないとしています。
by Ron Knight
最新科学が先住民族の知識に追いついたパターンとして、カナダの先住民族クワキウトル族や他の北アメリカ大陸先住民族が行っていた貝の養殖活動が挙げられます。クワキウトル族は海の中に岩で囲んだテラスを作り、その中で貝の養殖を行っていたとのこと。この方法によって貝類の収穫量が大幅に向上し、同時に海産資源の保護にもつながります。先住民族が何百年も昔から行ってきた資源管理のシステムは、現代における資源保護活動を先取りするものだったといえます。
また、1876年に発生したアメリカ陸軍と北米先住民族間に発生したリトルビッグホーンの戦いにおいて、ラコタ族とシャイアン族に伝わる口伝が、戦闘直後にアメリカ陸軍によって残された記録よりも正確であった事例も挙げられます。1984年に戦場跡地で発生した火災により、戦場に残された軍の持ち物や兵士の遺体など考古学的な物証が発見されたことで、バイアスのかかった白人の記録よりも先住民族の記録が正しいと判明しました。しかし、これも実際の物証が発見されなければ、歴史学者たちも先住民族の記録のほうが正しいと認めなかっただろうとのこと。
by Tom Driggers
先住民族の伝統的知識と西洋の知識は一見かけ離れたものに思えるかもしれませんが、それが反復と検証、推論と予測、パターンイベントの経験的観察と認識を通して絶えず検証されるものだという点は共通しています。伝統的知識は時として実証不可能で、物理的証拠もないことが多いため、あまり重きを置かれていません。しかし、先住民族の知識は西洋の知識にはない「文脈依存性」があり、これは西洋科学からは発見しづらい洞察をもたらす可能性があります。長年の経験と観察により得られた文脈は、時として科学的予測の範囲外に飛躍した結論に達していることもあるというのです。
アボリジニに伝わっていた「火を使う鳥」の伝承と今回の「新発見」の事例は、先住民族の伝統的知識と西洋の科学知識を組み合わせることで、さらに人類の知識が進展する可能性を示す点でも重要だったとSmithsonian.comは述べています。
・関連記事
火を使って狩りをする鳥の存在が確認される - GIGAZINE
サルが「数」の概念を完全に理解していて足し算もできることが判明 - GIGAZINE
サルが野生のオオカミを飼い慣らして集団生活しているのが確認される - GIGAZINE
鳥類の同性愛は生存戦略に基づいているという説が提唱される - GIGAZINE
かつて西半球最大の帝国を築いた「インカ帝国」の興亡をアニメで解説 - GIGAZINE
・関連コンテンツ
in メモ, サイエンス, Posted by log1h_ik
You can read the machine translated English article Based on the "tradition transmitted to i….