ICチップを一から設計して自分で製造までするツワモノが登場、自家製チップはこんな感じ
集積回路(IC)はあらゆる電子機器に用いられるもので、非常に洗練された製造工場で大量生産されています。そのICチップを、設計からシリコンのマスクやドープ、蒸着、エッチングなども含めてすべてガレージで作業したというツワモノが現れて、その様子をブログで公開しています。
First IC :) – Sam Zeloof
http://sam.zeloof.xyz/first-ic/#
自宅ガレージでICチップを製造したのはサム・ゼローフ氏。アメリカ・ニュージャージー州で、大学などの研究者向けにSEMの貸し出しやスパッタリングのサンプル作成などをサポートするサービスを提供しているとのこと。ゼローフ氏は、自身のガレージにある機材を使って、一からICチップを設計して製造するというチャレンジを行いました。
ICチップ「Z1」の設計では、Magic VLSIを使ってアクティブ/ドープ領域、ゲート酸化膜、コンタクトウインドウ、トップメタルの4つのマスクをデザインしたとのこと。
アクティブ/ドープ領域
ゲート酸化膜
コンタクトウインドウ
トップメタル
ゼローフ氏によるとガレージでのICチップ自作では、イオン汚染の観点からNチャンネル型よりもPチャンネル型のMOSの方が作りやすいとのこと。マスクは簡単に投影できるようにすべて16:9のアスペクト比で設計したそうです。
デザインを基にしたICチップ製造では66段階の製造プロセスを経るとのこと。ICチップ製作にはトータルで約12時間かかるそうで、「プロセスの歩留まりは、その日のコーヒー摂取量に大きく依存する」とゼローフ氏は述べており、かなり根気のいる作業のようです。
Epilogファイバーレーザーで、50mmのN型シリコンウエハーを5.08mm×3.175mmの長方形に切り分けます。
ダイサイズは京セラの24ピンDIPキャリアに適合するように決められているとのこと。
ピラニア溶液(H2SO4:H2O2)、RCA1(H2O:NH3:H2O2)、RCA2(H2O:HCL:H2O2)で洗浄後、薄いHF液に浸けて自然酸化膜を作ります。
フィールド酸化膜は蒸着による湿式酸化を採用。酸化膜は5000~8000オングストローム(500~800nm)の厚さまで成長するとのこと。
酸化されたウエハーはこんな感じ。
レジストパターン
90度のホットプレートで30分間ソフトベークし、さらにハードベークして酸化物層を転写します。
次にリソグラフィのプロセス。アクティブ領域を Mark IV maskless photolithography stepper(365nm)にさらして、KOH液に浸けます。
続いてドーピング。固体ソースはホウ素窒化物で、標準的な「Spin-On Glass & Spin-On Dopants Application Procedure」でドープするそうです。
さらに、パターニング工程をゲート酸化膜層に対して2回、コンタクト層に対して2回繰り返します。ドープ工程でウエハー全体が酸化されているため、メタル層にソース/ドレインドープ領域との接触を作るため、コンタクトウインドウが掘られる必要があります。
すべてのトランジスタが形作られて相互に接続されると、アルミニウム層をスパッタリングします。
そして、メタル層をフォトグラフィーでパターン処理し、高温のリン酸中でエッチングしてICチップが完成。
設計通りにできているようです。
なお、ゼローフ氏はワイヤーボンダーを所有していないので、テストは限定されているとのこと。
MOSFETのIds/Vds曲線は、理想とはかけ離れているものの、適切なワイヤーボンディングができれば改善すると予想できるそうです。
ゼローフ氏は、自分で設計したICチップを製造することで、物理、化学、光学、電気学などをこれまで以上に学習することができたとのこと。ICチップ自作に協力してくれた多くのサポーターに感謝しつつ、自身の試みが他の人を刺激して、ホームチップ製造革命の一助になれば幸いだと述べています。
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