AIの普及は自己啓発本を駆逐してしまったのか?AI時代に作家はどうすればいいのか?

自己啓発本はビジネスや日常生活に役立つさまざまなアドバイスやヒント、目的に向けた方法論や思考法などを記した書籍であり、世界中の人々に読まれてベストセラーとなったものも多くあります。邦訳もされたベストセラー『「週4時間」だけ働く。』『巨神のツール 俺の生存戦略』シリーズなどの著者であるティモシー・フェリス氏が、「AIの普及は自己啓発本を駆逐してしまったのか?」という問いについて記しています。
Has AI Already Killed How-To Nonfiction? Sales Trends, My Personal Data, and What It Might Mean for the Future - The Blog of Author Tim Ferriss
https://tim.blog/2026/06/12/has-ai-already-killed-nonfiction/
AIの普及によって多くの人が「自分の仕事に悪影響が出るのではないか」と考えていますが、その影響を肌で感じているかどうかは個人によってまちまちです。フェリス氏は、自身の自己啓発本の売り上げがAIの普及によって大幅に落ち込んでおり、変化の激しさを実感したと述べています。
まず、書籍関連メディアであるPublishers Weeklyによると、2026年の第1四半期には「成人向けノンフィクション」の販売部数が前年同期比で9%も減少したとのこと。中でも大きな落ち込みを見せたのが自己啓発分野で、販売部数は前年同期比で26.3%となりました。
実際に、フェリス氏の著書の中でもよく売れている『「週4時間」だけ働く。』『巨神のツール 俺の生存戦略』『The 4-Hour Body』『The 4-Hour Chef』『Tribe Of Mentors』の紙書籍について、国内販売部数を前年比でまとめた表が以下。いずれも大手日刊紙のニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルでベストセラー第1位を獲得した作品であり、長年にわたり驚くほど安定した売上をキープしていたそうですが、2023年以降は年々売上が低下していることがわかります。

フェリス氏の著書は2023年に前年比5%、2024年に前年比13%と徐々に売上が低下した後、2025年には前年比46%、2026年の最新データでは前年比57%という大幅な落ち込みを見せています。なお、電子書籍やオーディオブックについても同様の減少傾向であり、2025年の下半期における紙書籍・電子書籍・オーディオブックの合計販売部数は、上半期と比較して約45%減少したとのこと。
フェリス氏は、「アップデートされたGPT-3.5モデルを搭載したChatGPTは、2022年11月30日にリリースされました」「このペースが続けば、私の著書の紙書籍版における販売部数は2022年と比べて、2026年には約80%も減少することになります。これはすべて、ClaudeやChatGPTといった大規模言語モデルの利用が爆発的に増加したことが原因です」と述べています。
これらの売上減少について、「パンデミック後の消費動向の変化」「たまたまフェリス氏の著書が例外的だった」「異常値発生後の平均への回帰」といった理由付けをすることもできますが、いずれも希望的観測に過ぎないとフェリス氏は指摘しています。フェリス氏以外の有名なベストセラー自己啓発本の傾向を見ても、2026年の販売部数は2025年の40~60%ほどに落ち込むと予想されるそうです。
フェリス氏は、「数十年にわたる実績を比較できる私の代理人は率直に、『2025年が最初の大きな落ち込みで、2026年はさらに深刻になりそうです。そしてこの期間に本当に変化した唯一のことは、AIの加速です』と述べました。一部の出版社はYouTubeやポッドキャストの成長を指摘しており、確かにそれらも影響していますが、これは相対的な誤差範囲に過ぎないと思います」と述べています。

そもそも自己啓発本はさまざまな目標を達成したり、有効なマインドセットを獲得したりするために活用されるものです。数年前まではこれらの目的において「本」が最も適したインターフェースでしたが、記事作成時点では大多数の人々が、「フェリス氏の著書をはじめとする数万冊の自己啓発本で訓練されたチャットAI」が最適なインターフェースだと信じている可能性があります。チャットAIはユーザーの性格やスケジュール、体質、好みなどに合わせて、達成までの道のりやアドバイスを与えることができます。
チャットAIの影響を受けるのは自己啓発本だけではありません。フェリス氏はハウツー系のYouTube動画や実践的アドバイスを与えるポッドキャスト、オンライン講座、ニュースレター、アドバイスブログなどの「クリエイターの頭の中にある指示を顧客に与えること」を中心的な価値とするあらゆるものが、チャットAIに取って代わられる可能性があると指摘しています。
フェリス氏は、「私の見解では規範的なノンフィクションは炭鉱のカナリアであり、その炭鉱は巨大だということです。大規模言語モデルはあらゆるものインターフェースになると考えています。検索や購入だけでなく動画の閲覧、ポッドキャストの要約、講座のナビゲーション、さらには書籍の閲覧にも利用されるでしょう。オリジナルのコンテンツが完全に消滅するわけではありません。ただ、『ほとんどの人が直接触れることのない生の素材』になるだけです」と述べました。

しかしフェリス氏は、AIの普及によって自己啓発本の購入者層が激減するという見通しにもかかわらず、パニックにはなっていません。その理由としては、そもそも本を書き始めたのは収益性のためではないという点に加え、成功のこつは本の要点をまとめただけのアドバイスではなく、「本の論理的構成やそこに含まれる個人的なエピソード」にあるとフェリス氏が考えているためです。
フェリス氏が2010年に608ページにもわたるダイエット本『The 4-Hour Body』を出版した際、一部の友人は「分厚すぎて読む時間がないから、減量するためのコツを教えてくれないか」とお願いしてきたとのこと。これらの中には糖尿病予備軍だったり、結婚を控えていたりと、真剣にダイエットに取り組む理由がある人もいました。
そこでフェリス氏はこの問い合わせに応じ、箇条書きのアドバイスを与えました。しかし、短いアドバイスを求めてきた人の中で実際に行動を起こした人は、ただの1人もいなかったとのこと。一方、書籍を購入した多くの読者はこれまで数多くのダイエットに失敗してきたにもかかわらず、書籍に書かれている綿密なアドバイスを実践し、劇的な減量に成功したそうです。つまり、書籍に記された綿密なアドバイスや実話には、チャットAIの箇条書きのアドバイスにはない多くの魅力があり、それによって人々を動かせるというわけです。
近年は多くの人々がチャットAIにさまざまなアドバイスを求めており、情報市場は次第に縮小しています。一方で、あるテーマについてじっくりと語り合う「変革の市場」は、小さいながらも興味深い場所になる可能性があるとのこと。
フェリス氏は、「というわけで、少なくとも今のところ私がたどり着いた結論は『私は1000万人のためにショート動画を作るよりも、1万人のために本を書く方がいい』というものです。もう少し付け加えると、『数日あるいは数分で忘れ去る1000万人のためにショート動画を量産するよりも、1万人の読者が真に人生を変えるような本を書く方がいい』ということです」と述べました。
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