サイエンス

人間が月面で生活する上で克服しなくてはいけない課題とは?


約半世紀ぶりに人間を月周回軌道に送り込んだアルテミスIIミッションが成功し、NASAは月面に人間を長期滞在させる計画を進めています。人間が月で生活する上で克服しなくてはいけない課題について、イギリスのサウスウェールズ大学で生理学および生化学教授を務めるダミアン・ベイリー氏が解説しました。

The unseen challenges of life on the Moon
https://theconversation.com/the-unseen-challenges-of-life-on-the-moon-273370

1960年代から70年代にかけて行われたアポロ計画では、月面に人間を着陸させることが何よりの目的でした。しかし、記事作成時点で進行中のアルテミス計画は持続的な有人月面探査の基盤とノウハウを構築することが目的であり、NASAは将来的に人類が長期滞在できる月面基地の建設を目指しています。

アルテミスIIでは宇宙飛行士が月周回軌道を行き来する宇宙船の生命維持システムや航行システム、耐熱システム、深宇宙探査システムなどが安全に機能するかどうかが検証されました。しかし、人類が月面に滞在するには、さらに多くの健康上の懸念に対処する必要があるとベイリー氏は指摘しています。

月面での生活は宇宙飛行士を独特な環境にさらし、人体のあらゆる臓器系に負担をかけます。これには地球のわずか6分の1という小さな重力、慢性的な宇宙放射線への暴露、極端な温度変化、吸い込むと人体に有害な月のチリ、睡眠覚醒サイクルの乱れ、長期にわたる孤立状態などが含まれます。


たとえば、国際宇宙ステーション(ISS)で地球低軌道を周回する宇宙飛行士は、ある程度は地球の磁場によって宇宙放射線から守られていますが、月面にはその保護効果がないため宇宙放射線への暴露が増加します。これにより、DNA損傷や免疫機能障害、脳や心血管系への悪影響などが生じる可能性があるとのこと。

また、重力が減少すると血液・酸素・体液が体内を循環する方法も根本的に変化します。微小重力環境は血液・酸素・ブドウ糖を脳に供給する方法を阻害し、時間経過とともに神経系や血管系の機能障害が生じるリスクがあるそうです。


宇宙空間でのリスクを知る上での課題としては、「宇宙に関する多くの生理的変化が徐々に進行する」という点が挙げられます。宇宙飛行士自身は体調に問題がないと感じていても、実はひっそりと問題がくすぶり続けており、数カ月あるいは数年後に被害が顕在化する可能性があります。

ベイリー氏は、「これらのリスクを正しく理解するためには個々の臓器だけでなく、脳・心臓・血管・筋肉・骨・免疫系・代謝系の統合的なシステムが、宇宙空間でどのように相互作用するのかを考慮する必要があります。ひとつのシステムにわずかな乱れが生じると、他のシステムにも波及効果があるのです。そのためNASAはアルテミス計画の科学戦略において、長期的な生理学的モニタリングと人体リスクの軽減を非常に重視しているのです」と述べました。


月面滞在のリスクを軽減する方法としては、依然として運動が基本となります。ISSに滞在する宇宙飛行士も筋肉量・骨密度・心血管機能を維持するため、トレッドミルなどを使って1日に2時間程度の運動を行っています。月面でも同様に、小さな重力に対応した運動システムを設計する必要があります。短半径遠心分離機を用いて人工的な重力を発生させ、宇宙飛行士を重力負荷の高い環境にさらすことも、心血管系や神経系の安定に役立つかもしれません。

栄養も宇宙飛行士の骨・筋肉・免疫力・放射線への対応などに影響する要素であり、個々の生理機能に合わせた栄養戦略は、長期的な月面ミッションにおいて重要性が高いとのこと。

また、宇宙放射線からの防護は複数の防御層に依存することになります。これには居住空間そのものの遮蔽(しゃへい)や太陽嵐の早期警報システム、高リスク期間中の被ばくを制限する運用戦略などが含まれます。

これらのリスク軽減対策における重要な点として、いずれも事後対応ではなく事前対応であるべきことが挙げられます。ベイリー氏は、「継続的な生理学的モニタリング・ウェアラブルセンサー・高度なデータ分析を活用することで、ミッションチームは早期の兆候を検知し、小さな問題が任務遂行を阻害する前に介入できるようになるでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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