長期間の宇宙旅行に人間の体は耐えることができるのか?
これまで到達した月を超えて火星に人類を送り込む計画が発表されたように、過去40年間ほど停滞していた人類の宇宙進出の計画が次々と広げられる状況が訪れています。しかし、月を超えて遠い天体にたどり着くには何年もの時間をかけて宇宙を旅する必要があります。そんな宇宙空間で人体に起こる影響や、それらの解決方法はどのようなものが考えられるのかについてまとめたムービーが公開されています。
Could we survive prolonged space travel? - Lisa Nip - YouTube
長期間にわたって宇宙空間に居続けると、人間の体には重大な影響が現れてきます。
極小重力の環境にさらされることで、骨や筋肉が退化してしまうことがすでに判明しており……
地上よりも放射線量が多い環境にいることで、未知の変化が人体に生じる可能性もあります。
宇宙開発が進み、人類が月よりも遠い惑星などへ何年もかけて向かう時代が到来しつつあります。この時に問題になってくるのが、はたして数年にわたる宇宙空間での生活に人体が順応することができるのか、という問題です。
人間を含む生き物には本来、さまざまな環境に順応する能力が備わっています。その順応力のおかげで、生き物は地球上の暑いところから寒いところ、空気の薄い高地などでも生きていくことが可能です。
例えば、普段は低地に住む人がいきなり高い山に登ると、体が悲鳴をあげてしまいます。
空気中の酸素が少ないために呼吸に障害が起きるほか、血中の赤血球が増えすぎることで、血流が妨げられるといった問題が生じます。いわゆる「高山病」もこのような問題の1つです。
しかし、普段から高地に住む民族だと、同じ環境でも問題を生じることがありません。これは、長い時間をかけて体が環境に順応したこと、そして、何世代にもわたって特定の環境で暮らすことで、遺伝子レベルで環境に順応してきたからです。
特定の環境に順応することで、いわば「スーパーマン」ともいえる生き物に変化してきたわけですが……
この変化には、数百年や数千年、あるいはもっと長い時間が必要です。
しかし、これから宇宙に飛び出そうとする人類にその時間はありません。そこで考えられているのが、科学の力を借りることで「順応」を人工的に作り出すという考え方です。
これはつまり、生き物の遺伝子を人工的に操作する「遺伝子エンジニアリング」で身体の特徴に変化を加えようというもの。
例えば、宇宙空間には地球に比べて非常に強い放射線が飛び交っています。
地球上に住んでいる状態であれば、地球の大気や地磁気などが放射線を弱めてくれるため、特別な防御なしに暮らすことができます。
しかし、放射線を遮る地磁気などない宇宙船の環境では、生き物は強い放射線にさらされることになります。
ここで、放射線を「害のあるもの」から「利用するもの」へと変えるパラダイムシフトが起きたらどうなるでしょうか。例えば、生き物の多くには太陽からの紫外線を受けると黒い色素「メラニン」が生成されます。これは「日焼け」の原因となり、DNAを紫外線から守るためのもの。
微生物の中には、この色素を使って放射線を化学的エネルギーに変換するものも存在しています。
遺伝子エンジニアリングを行うことで人体にもその能力を備えることができると、放射線はもはや「逃げるもの」から「取り入れるもの」へと正反対の変化を遂げることになります。
その際には、化学的エネルギーを使うことでDNAを守る仕組みを備えておけば、放射線の問題は解決されるというわけです。
しかし、「神の領域」とも言われる遺伝子に手を加えることについて、安全面や倫理面での議論が激しく交わされており、この問題が解決するまでにはまだまだ時間がかかりそうです。
放射線の問題とは別に、宇宙の微小重力空間も人体に大きな影響を与えます。
地球表面の重力が1Gであるのに対し、月は0.17G、木星は2.5Gの重力がはたらきます。これに比べ、まわりに天体がない宇宙空間だとその重力はわずか0.000001Gに。これはもう「無重力」と呼べる状態。
このような環境になると、人体の骨と筋肉にかかる負担が極めて小さくなります。地上では、重力などの力で痛んだ骨の細胞は自然に再生され、強い組織が作られているのですが……
重力のほとんどない宇宙空間や惑星だと、骨の細胞が骨からはカルシウムが抜け、筋肉は痩せ細っていきます。
そこで考えられるのが、細胞の働きを人工的に作り替えて骨や筋肉の再生を促す物質を通常よりも多く分泌することで、宇宙空間でも丈夫な体を保つという方法です。
あるいは、「遺伝子エンジニアリング」を施すことで、重力が弱くなったら再生物質を多く分泌するといった変化を加えることも考えられます。
ここで取り上げた放射線や重力の問題は、宇宙空間で考えられる問題のごく一部であるということも事実です。
現在交わされている倫理面・安全面の議論が落ち着くことが必要ですが、今後人類が直面することになる宇宙環境の問題は、遺伝子エンジニアリングや細胞エンジニアリングは、多くの問題を解決に導く方法の1つとして考えられています。
近い将来、人類がこれらの技術を使って宇宙に飛び出していくというのは、徐々に現実味を帯びるシナリオとなりつつあるようです。
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