火星での生活を想定して1年間も狭いドーム状の施設に6人で引きこもるNASAの長期ミッションがついに終了
火星に人類を送り込む計画はロケット技術の進歩によって、一気に現実味を帯びています。地球とはまったく異なる環境の火星に人類が滞在するためには、限られた資源と空間を有効活用する必要があり、ハワイの火山の大地を火星に見立てて、なんと1年もの間、6人のクルーたちが狭いドーム状の施設内で共同生活するというプロジェクトが敢行され、ついに長期ミッションが終了しました。
Nasa ends year-long Mars simulation on Hawaii - BBC News
http://www.bbc.com/news/world-us-canada-37211051
1年間にわたり、火星を想定したハワイの火山で6人の科学者が「HI-SEAS(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation)」と呼ばれる小さなドーム状の施設内で共同生活するHI-SEASプロジェクトの始まりは以下のムービーで確認できます。
The Hawaiian dome where Nasa prepares humanity for life on Mars | Guardian Docs - YouTube
火星での生活は快適とはほど遠いものです。呼吸するための大気はほとんど存在せず、植物を育てる土壌もありません。
そのためHI-SEASの外に出歩く場合は宇宙服を着る必要があります。
HI-SEASプロジェクトはハワイのマウナロア火山の大地を火星に見立てて、長期間にわたって6人のクルーが狭いHI-SEAS内で共同生活をするというプロジェクトです。
HI-SEASには階段や……
個室もあり。
お互いの状況を把握できるようにホワイトボードも用意されています。
個室があるとはいえプライバシーはほとんど確保されません。
クルーたちは狭い空間で他のメンバーと長期間共同生活するという、火星での生活の難しさを体験することになります。
2015年8月29日にHI-SEASプロジェクトはスタート。
6人のクルーたちが仮想「火星生活」を送り始めました。
2016年8月29日についに1年間の長期ミッションが終わり、クルーたちが地球に「帰還」する様子は以下のムービーで確認できます。
Six Scientists Lived in a Tiny Pod for a Year Pretending They Were on Mars - YouTube
「3、2、1、Come On!」のかけ声で……
「HI-SEAS」と呼ばれるPodの中から6人が登場。1年間の火星移住シミュレーション・ミッションがついに終了した瞬間です。
6人とも健康な状態の模様。
実験はこんな環境で行われました。
「HI-SEASプログラムはNASAとハワイ大学の国際共同プロジェクトで、仮想火星のハワイを舞台に1年間にわたって6人の科学者たちが共同生活をするというものです」と話すのはハワイ大学のキム・ビンステッド氏。
HI-SEASの中ではトレーニング設備があり、6人のクルーは火星を想定してトレーニングを行いました。
トレーニングは小さなHI-SEAS内だけでなく、外部で行う火星探索ミッションもあり。HI-SEASの外に出るときは火星と同じく宇宙服を着ることが義務づけられました。
火星でのミッションは1年から3年の長期間にわたると予想する科学者がいるように、長期間、地球とは異なる世界で仲間と協力して共同生活することが求められます。今回の実験は、火星を想定したトレーニングとしてはこれまでで2番目に長期間の実験です。
なお、最も長いものはロシアで行われた以下の実験。
520日間のひきこもり生活で「火星」への有人飛行をシミュレーションする実験に挑んだ6人の男たち - GIGAZINE
夜のHI-SEASは幻想的です。
HI-SEAS内にはキッチンやテーブルなどもある模様。
1年間のシミュレーションでは火星での生活を想定した環境が与えられました。
例えば通信環境は非常に遅いことが想定され、Eメールの送受信には20分のタイムラグが設けられたとのこと。
与えられた食料も、ツナ缶、小麦粉、制限された量の水など。
また、電力は太陽光による発電でまかなわれました。
火星で作物を育てる仮想実験も行われ、想像以上に少ない水でも植物を育てられることが分かったとのこと。
1年間の実験は大成功に終わりました。ちなみにクルーたちが地球に「帰還」して最初に食べたものは火星では決して食べることのできないピザとバナナだったそうです。
6人のクルーたちは、限られた空間というリソースを有効活用するために、スペースの競合を極力避けるように心がけたとのこと。1年間の長期ミッションを終えて、司令クルーのカーメル・ジョンソン氏は、「HI-SEASでの生活は、常にルームメイトがそばにいるようなものです」とプライバシーの確保が1番難しかったと述べています。もっとも、クルーの一人であるシプリアン・ベルセウクス氏は「技術的・心理的な障害は克服できると思います」と述べ、近い将来に火星でのミッションが現実的に可能になるとの印象を抱いたそうです。
ちなみにNASAは火星に人類を送り込むべく新型宇宙船「Orion」を開発中で、2020年に火星へ向けて打ち上げる計画です。
NASAが火星宇宙船「オリオン」の飛行テストをまもなく実施、新しいイラストも発表 - GIGAZINE
火星への有人探索を計画するのはNASAだけではなく、SpaceXも有人タイプの宇宙船「Crew Dragon」を開発中です。
民間の有人宇宙船「Crew Dragon」の乗組員カプセル内部が公開、2017年の初飛行へ - GIGAZINE
さらに2018年とNASAよりも早く新型宇宙船「Red Dragon」を打ち上げるとSpaceXのイーロン・マスク氏はツイートしています。
Planning to send Dragon to Mars as soon as 2018. Red Dragons will inform overall Mars architecture, details to come pic.twitter.com/u4nbVUNCpA
— SpaceX (@SpaceX) 2016年4月27日
なお、SpaceXはFalcon 9やRed Dragon用に、アルミよりも軽く強い炭素繊維を大量に使用することを決め、炭素繊維最大手の東レと2000億円以上の巨額の長期供給契約を締結しており、マスクCEOの本気度が伝わってきます。
東レ、宇宙船に炭素繊維 スペースXと基本合意 軽量で高い耐久性 長期供給で2000億円超 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDZ16HI4_W6A810C1MM8000/
とはいえ、火星に人類を送り込むために、宇宙船などの技術的な問題は早晩クリアされると考えられていますが、人間の肉体が追いつかないのではないかという指摘もあります。人間の体は宇宙空間では筋肉が衰え、1カ月に1.5%の割合で骨密度が減ってしまい、眼球に病気を発症しやすくなるなどの問題を抱えており、火星到着までに6カ月から8カ月という時間がかかる長期の宇宙飛行で人間の肉体の限界が来るのではないかと考えられています。火星へ人類を送り込むためには、技術的な問題だけでなく人間の体をいかに適応させるのかという大きな問題があるようです。
Why the Human Body Isn't Ready to go to Mars…Yet | WIRED Lab - YouTube
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