サイエンス

宇宙での生活が「脳の位置」を変えて地球帰還後もしばらくその状態が続く


NASAが有人月面着陸を目指すアルテミス計画を推進し、月面基地の建設も現実味を帯びつつある中で、長期間にわたる宇宙生活が人体に及ぼす影響を把握することの重要性が高まっています。26人の宇宙飛行士の脳をMRIスキャンした新たな研究では、宇宙で生活することで「脳の位置」がどのように変わるのかが明らかになりました。

Brain displacement and nonlinear deformation following human spaceflight | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2505682122


Living in space can change where your brain sits in your skull – new research
https://theconversation.com/living-in-space-can-change-where-your-brain-sits-in-your-skull-new-research-273663

地球上では重力が働いており、常に体液や脳を地球の中心へと引っ張っていますが、宇宙空間では重力が極端に弱くなります。その結果、体液が頭部に移動して顔がむくんだり、地球では安定していた脳・脳脊髄液・周囲の組織のバランスが崩れたりします。

重力がなくなると脳は頭蓋骨の中で浮遊したような状態になり、周囲の軟部組織や頭蓋骨からさまざまな力が加わるとのこと。過去の研究でも、宇宙飛行後の脳は頭蓋骨内でより高い位置になっていることが示されていますが、これらの研究は脳全体の平均値に焦点を当てたものであり、脳の異なる領域ごとの影響はよくわかっていません。

そこで、フロリダ大学応用生理学・運動学教授のレイチェル・サイドラー氏らの研究チームは、数週間から1年間までさまざまな期間宇宙に滞在した宇宙飛行士26人の脳をMRIスキャンしました。研究チームは脳の動きに注目するため、宇宙飛行前後で撮影したスキャン画像の位置合わせを行い、頭蓋骨に対して脳がどのように移動したのかを領域ごとに分割して調べたとのこと。


分析の結果、宇宙飛行の後は脳が上方向および後ろ方向に移動しているパターンが一貫して観察され、その変化量は宇宙空間の滞在時間が長いほど大きくなっていることが判明しました。

約1年にわたり国際宇宙ステーション(ISS)に滞在した宇宙飛行士の脳は、上部の領域が2mm以上も上方向に移動していましたが、残りの領域はほとんど移動していませんでした。2mmという量は少ないように思うかもしれませんが、頭蓋骨という狭い空間内で見れば大きな意味を持っているとのこと。


また、運動および感覚に関わる脳の両側にある領域は、それぞれ体の中心線(正中線)に向かって移動していました。これは、脳の左右が反対方向に移動したことを意味しており、この相反するパターンが変化を打ち消し合ったため、以前の研究では見逃されていたと推測されます。

宇宙飛行士の脳の移動は、地球に帰還してから6カ月以内でほぼ正常に戻りました。後方へのずれは回復するのにやや時間がかかりましたが、これは地球の重力が後方ではなく下方向に脳を引っ張るからだと考えられます。


また、研究チームが宇宙飛行後のバランス機能と脳の移動との関連を調べたところ、感覚処理をつかさどる脳領域の位置変化が、飛行後のバランス機能の変化と相関していることがわかりました。しかし、宇宙飛行士らは頭痛や認知機能の低下といった、脳の位置変化に関連しそうな明白な症状は経験していませんでした。

サイドラー氏らは、今回の研究結果は直接的な健康リスクを示すものではないと主張。「宇宙飛行中の脳の移動およびその後の回復を知ることで、研究者は微小重力が人体の生理機能に及ぼす影響を理解できます。これは、宇宙機関がより安全なミッションを設計する上で役立つでしょう」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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