サイエンス

男性の宇宙飛行士は「勃起不全」に悩まされるリスクが高いことが判明、「抗酸化物質」が有効との希望も


2024年中に最初の女性を月に降り立たせるアルテミス計画や、2040年までに火星に進出すると意気込むNASA局長の演説など、宇宙を目指す機運が高まっています。しかし、宇宙での長期ミッションに挑む男性の宇宙飛行士は、無重力と放射線がもたらす男性機能の低下に直面するおそれがあることが、ラットを用いた実験で示されました。

Neurovascular dysfunction associated with erectile dysfunction persists after long‐term recovery from simulations of weightlessness and deep space irradiation - Andrade - 2023 - The FASEB Journal - Wiley Online Library
https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1096/fj.202300506RR

Erectile dysfunction risk may rise on lengthy space missions, rat study reveals | Live Science
https://www.livescience.com/health/sex/erectile-dysfunction-risk-may-rise-on-lengthy-space-missions-rat-study-reveals

地球上では、分厚い大気の層が宇宙から降り注ぐ放射線を防ぐため、人類を含む地上の生命は銀河宇宙線(GCR)の高エネルギー粒子に直接さらされることなく命をつなぐことができます。

しかし、地球外で活動する宇宙飛行士はそうはいかないため、例えば国際宇宙ステーション(ISS)で6カ月間過ごすだけで、宇宙飛行士は地上で25回の生涯を送るのに匹敵する宇宙線を浴びてしまうとのこと。高レベルの放射線にさらされると、がんや神経障害、心血管疾患などさまざまなリスクが高まります。


想定される問題のひとつは、勃起不全です。地上でさえ、40~70歳の男性の半数以上が勃起不全に悩まされているといわれており、深宇宙探査に乗り出す男性の宇宙飛行士にとって宇宙空間が生殖機能に与える影響は重大です。

今回、2023年11月22日に査読付き科学ジャーナル・The FASEB Journalで発表された新しい研究は、宇宙環境がシミュレートされた環境で成体のオスのラット86匹を飼育し、低重力や放射線が生殖機能に与える影響を調べるというもの。


低重力の再現には、尻尾でつるすようにして下半身を持ち上げる「後肢免荷」という手法を使い、4週間体に体重がかからないようにしました。これにより、「低重力がもたらす体液や体内の圧力の変化」と、「筋骨格に負荷がかからないこと」という2つの宇宙環境が再現されます。

また、ラットにはNASA宇宙放射線研究所にあるGCRシミュレーターで低線量(0.75Gy)または高線量(1.5Gy)の放射線が照射されました。参考までに比較すると、地球上に住む人間が日常生活で浴びる放射線は年間0.002~0.006Gyとされています

実験から約12~13カ月後、研究者らはラットを安楽死させ、生殖器の海綿体と勃起の際に重要な血管である内陰部動脈のサンプルを採取して分析しました。その結果、GCRとGCRより影響は小さいもの無重力状態の両方が、海綿体と血管の両方の機能を損なうことが確認されました。


オスのラットたちの性的機能にダメージを与えていたのは、主に酸化ストレスでした。酸化ストレスとは、不安定になった電子を持つ原子や分子であるフリーラジカルが体内に蓄積することで起きる細胞や遺伝子の損傷のこと。フリーラジカルは、体内の日常的な代謝活動でも発生していますが、放射線が体内の水分と反応することによっても発生します。

また研究チームが行った追加の実験では、ある種の抗酸化物質で治療することでGCRによる影響の一部を緩和させることが可能なことも示されました。

論文の著者の1人であるフロリダ州立大学のJustin D. La Favor氏は、「銀河宇宙線の悪影響は長期的でしたが、体組織の酸化反応を焦点とした治療を行うことで機能の改善が促されたことから、勃起不全は治療可能であることが示唆されました」と話しました。

研究チームは今後、原因のさらなる究明とその影響を防ぐ方法に関する調査を進める予定とのこと。また、将来の宇宙ミッションには女性宇宙飛行士も参加するため、深宇宙探査が女性の生殖機能に及ぼす影響を調べることも重要だと、研究者らは記しています。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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