女性の宇宙飛行士の方が必要な食料や酸素の面で男性よりも効率的であることが明らかに
アメリカ航空宇宙局(NASA)は月の有人探査計画であるアルテミス計画において、史上初となる女性の宇宙飛行士を月に送り込む予定であり、日本でも米田あゆ氏が宇宙航空研究開発機構(JAXA)の史上3人目となる女性宇宙飛行士候補となるなど、今後さらに女性宇宙飛行士の活躍が増加していくことが期待されています。そんな中、欧州宇宙機関(ESA)の研究チームが発表した論文では、「宇宙飛行士は男性より女性の方が必要な食料や酸素の面で効率的」という研究結果が示されました。
Effects of body size and countermeasure exercise on estimates of life support resources during all-female crewed exploration missions | Scientific Reports
https://dx.doi.org/10.1038/s41598-023-31713-6
Study finds female astronauts more efficient, suggesting future space missions with all-female crews
https://phys.org/news/2023-05-female-astronauts-efficient-future-space.html
火星の探査といった長期的なミッションでは、参加する宇宙飛行士が生命を維持するための水や食料、酸素などの物資を輸送するためのスペースや燃料も必要です。そのため、「どういう宇宙飛行士を選別すればよりエネルギー効率を向上させられるのか?」を考えることは、将来の宇宙探査ミッションにおいて重要な意味を持ちます。
ESAの研究チームは、長期的な宇宙探査ミッションにおいて宇宙飛行士が生き延びるために必要な水分補給量、総エネルギー消費量、酸素消費量、二酸化炭素排出量、代謝熱産生などを男性と女性でそれぞれ分析しました。
生命維持要件に体のサイズがもたらす影響について推定したところ、女性宇宙飛行士は水分補給量、総エネルギー消費量、酸素消費量といった要件において、同じ身長の男性宇宙飛行士よりも少ない量で済むことが判明。つまり、男性宇宙飛行士よりも女性宇宙飛行士の方が、たとえ同じ身長であっても宇宙探査におけるエネルギー効率が優れていることがわかったとのことです。
研究チームによると、総エネルギー消費量は同じ身長であっても女性の方が男性よりも5~29%少なく、アメリカ人女性と男性の中央値で比較した場合の減少率は11~41%に達するとのこと。これは酸素の消費量や二酸化炭素排出量、代謝熱の産生にも影響を与えます。
宇宙飛行士は国際宇宙ステーション内の微小重力下において筋肉や骨の衰えを防ぐため、定期的に運動しなくてはなりません。体が大きいほどより多くのエネルギーが必要となり、消費される酸素や水、食料も増えますが、男性よりも女性の方がこれらの消費量も抑えることができるとのこと。
試算では、国際宇宙ステーションの滞在メンバー4人がすべて女性だった場合、1080日間の長期ミッションで必要な食料重量が合計1695kgも削減できることがわかりました。NASAによると、国際宇宙ステーションに荷物を運ぶコストは1kgあたり9万3400ドル(約1300万円)であるとのことで、ミッションにかかる費用をおよそ1億5800万ドル(約220億円)も節約できる可能性があります。
by NASA's Marshall Space Flight Center
余分な食料は単に重量としての負担があるだけでなく、物理的に国際宇宙ステーション内のスペースを圧迫します。必要な食料が重量にして1695kg分も削減できる場合、2.3m3ものスペースを開放できるとのこと。これは国際宇宙ステーション内の居住可能体積である60m3の約4%に相当する広さです。
国際宇宙ステーションのように狭いスペースでは、複数人の宇宙飛行士が共同して作業するにも工夫が必要とされますが、宇宙飛行士の体が小さければそれだけ余分なスペースが増えることも利点とされています。
研究チームは、「これらのデータは、より直径の小さな宇宙居住モジュールへの移行と相まって、将来の有人宇宙探査ミッション中に、すべての乗組員を女性にすることに運用上の利点がある可能性があることを示唆しています」と述べました。
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