サイエンス

約2年半で217回も新型コロナワクチンを接種した男性が報告される


ワクチンは重要な公衆衛生戦略の1つであり、事前に免疫をつけて感染症の重症化を防ぐことができます。2019年末から猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、ワクチンが急ピッチで開発され、世界中で接種が行われました。そんな中、新型コロナウイルスワクチンを29カ月間で217回も接種した男性が、学術誌・Infectious Diseasesに掲載された論文で報告されています。

Adaptive immune responses are larger and functionally preserved in a hypervaccinated individual - The Lancet Infectious Diseases
https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(24)00134-8/fulltext


Researchers investigate a man who received 217 Covid vaccinations | FAU Erlangen-Nürnberg
https://www.fau.eu/2024/03/05/news/research/researchers-investigate-immune-response-of-a-man-who-received-217-covid-vaccinations/

German man got 217 COVID shots over 29 months—here’s how it went | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2024/03/german-man-got-217-covid-shots-over-29-months-heres-how-it-went/

29カ月間に217回の新型コロナウイルスワクチンを接種したと主張しているのは、ドイツのマクデブルク市在住の62歳男性です。男性はこれまで一度もCOVID-19になったことがなく、ワクチンの副作用もなかったと述べています。


エアランゲン・ニュルンベルク大学(FAU)の研究チームによると、接種されたワクチンは全部で8種類で、134回についてはわずか9カ月で行われ、公式に接種した記録が存在しているとのこと。残り82回については自己申告でした。マクデブルク市の検察はこの男性を詐欺容疑で立件しましたが、不起訴で終わったそうです。

研究チームは、過剰なワクチン接種が免疫システムを疲労させた可能性があると考え、新型コロナウイルスワクチンを3回投与したワクチン接種者29人のデータを対照群としながら、男性の唾液と血液のサンプルを採取して分析しました。

検査の結果、男性の免疫システムにはまったく異常がなく、完全に機能していたことがわかりました。免疫にはさまざまな種類が存在しますが、胸腺で分化成熟したT細胞が活性化し、特定の抗原を排除する「エフェクターT細胞」に分化します。男性は新型コロナウイルスに対応したエフェクターT細胞を対照群よりも多く持っており、その機能は劣化しておらず対照群と同等だったとのこと。

by NIAID

また、抗原に再曝露(ばくろ)されると急速に数が増加する免疫細胞であるメモリーT細胞の数を分析したところ、対照群と同程度であったことも判明しました。

研究チームの1人で論文の筆頭著者であるカタリーナ・コッヘル氏は「男性を検査した結果、全体として過剰なワクチン接種によって免疫反応が弱くなるという兆候は見つかりませんでした。むしろその逆です」とコメントしています。

FAUの臨床微生物・免疫学・衛生研究所のグループリーダーであるキリアン・ショーバー氏は「これだけ過剰にワクチンを接種したにもかかわらず、男性には目立った副作用が引き起こされなかったという事実は、新型コロナウイルスワクチンが十分な忍容性を持っていることを示しています」と述べています。ただし、今回の研究対象はあまりにも特殊な事例であり、男性1人のデータしかないため、分析結果の一般性は高いとはいえません。研究チームも「重要なこととして、私たちは適応免疫を強化する戦略として過剰なワクチン接種を支持しているわけではありません」と論じています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ワクチンを接種する腕を毎回変えること」が新型コロナワクチンの効き目をブーストするという研究結果 - GIGAZINE

「コロナ禍以降にワクチン反対派になった人は陰謀論やスピリチュアリティに傾倒している可能性が高い」と東京大・早稲田大・筑波大の研究者が発表 - GIGAZINE

モデルナのmRNAがんワクチンと抗体医薬品「キイトルーダ」の併用で悪性黒色腫の再発・死亡リスクが半減 - GIGAZINE

新型コロナウイルスワクチン開発に寄与したことでノーベル賞を受賞した研究者カリコー・カタリン氏の研究は苦難の連続だった - GIGAZINE

あらゆる変異株に対応する新型コロナワクチンが登場、新型コロナのみならずSARS全体にも対応 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1i_yk

You can read the machine translated English article here.