二酸化炭素をプロパン燃料へ効率的に変換する革新的な電解装置が考案される、温室効果ガスの削減と再生可能な化学品製造に大きな可能性
温室効果ガスの中で最も排出量が多い二酸化炭素を、大規模かつ経済的に実行可能な方法で燃料として用いられるプロパンに変換する電解装置を、アメリカ・イリノイ工科大学の研究チームが発表しました。
Imidazolium-functionalized Mo3P nanoparticles with an ionomer coating for electrocatalytic reduction of CO2 to propane | Nature Energy
https://doi.org/10.1038/s41560-023-01314-8
Illinois Tech Engineer Spearheads Research Leading to Groundbreaking Green Propane Production Method | Illinois Institute of Technology
https://www.iit.edu/news/illinois-tech-engineer-spearheads-research-leading-groundbreaking-green-propane-production-method
Revolutionary Electrolyzer Efficiently Converts CO2 into Renewable Propane Fuel – ScienceSwitch
https://scienceswitch.com/2023/08/22/revolutionary-electrolyzer-efficiently-converts-co2-into-renewable-propane-fuel/
二酸化炭素は主要な温室効果ガスの一つであり、産業革命以降の地球温暖化に対する寄与率は約76%に達し、日本においては温室効果ガス排出量の約90%を二酸化炭素が占めています。アメリカ政府も2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標を掲げており、電力および産業部門から排出される二酸化炭素を削減する革新的な方法が求められています。
そこで、イリノイ工科大学で化学工学の助教を務めるモハマド・アサディ氏が主導する研究チームは、安価で入手可能な材料を使用して二酸化炭素をプロパンに変換する電解装置の研究を行いました。プロパンは天然ガスの成分の一種であり、日常生活にとどまらず幅広い産業分野で燃料として用いられています。
近年は二酸化炭素をさまざまな化学物質に変換する電極触媒の研究が進んでいますが、二酸化炭素から3つ以上の炭素原子からなる分子を直接製造することは困難だったとのこと。プロパンも3個の炭素原子と8個の水素原子が結合したアルカンであるため、これまで効率的に二酸化炭素をプロパンに変換するのは難しかったそうです。
この問題を解決するため、研究チームはモリブデンとリンを組み合わせた、モリブデンリン化物(Mo3P)のナノ粒子を用いた新しい触媒系を考案。コンピューターモデリングと実験を組み合わせて、この触媒系の反応活性や選択性について分析しました。
研究チームはバッチ単位での処理ではなく、連続フローによるプロパン生成を可能にする電解槽設計を実装したため、プロパンを継続的かつ大規模に生成できると主張しています。研究チームによると、この触媒系は電解槽内で100時間にわたって効率的に二酸化炭素をプロパンに変換可能で、生成物に寄与した割合を示すファラデー効率は91%に達するとのことです。
アサディ氏は、「再生可能な化学物質の製造は本当に重要です。これは現在私たちが日常的に使用している化学物質を失うことなく、炭素循環を閉じる最善の方法なのです」とコメントしています。
イリノイ工科大学は今回のイノベーションを最適化して普及させるため、世界的なプロパン企業であるSHVエネルギーと提携しています。SHVエネルギーで持続可能燃料の開発責任者を務めるキース・シモンズ氏は、「これは目的に応じたプロパン生産の道を切り開くエキサイティングな開発であり、プロパン燃料を利用する世界中のユーザーのためになるものです」と述べました。
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