サイエンス

人工細菌に糖分を与えるだけで温室効果ガスの大幅削減につながる化学反応を行えることを科学者が発見


温室効果ガスの排出量を大幅に削減できる、人工細菌を用いた「カルベン転移反応」の経路を研究者らが発見しました。この発見により、持続可能なバイオ化学燃料の生産に向けた有望な道が開かれるとのことです。

Complete integration of carbene-transfer chemistry into biosynthesis | Nature
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06027-2


Engineered Bacteria Offer a Powerful New Way To Combat Climate Change
https://scitechdaily.com/engineered-bacteria-offer-a-powerful-new-way-to-combat-climate-change/


これは、ローレンス・バークレー国立研究所とカリフォルニア大学バークレー校の共同研究によって見つかったもの。

以前から研究者らは、価電子を6個しか持たず電荷を持たない、二価の炭素化学種「カルベン」を、燃料や化学物質の製造、創薬や合成に利用したいと考えてきました。しかし、カルベン反応は試験管を用いて少量ずつしか行うことができず、かつ、反応を促進するためには高価な化学物質が必要でした。

今回、研究チームはこの「高価な化学物質」をストレプトミセスという細菌の遺伝子組み換え株で生産可能な天然物に置き換えました。

この人工細菌は糖を使って細胞代謝により化学物質を生産します。論文の筆頭著者でバークレー国立研究所キースリングラボ博士研究員のJing Huang氏は「この研究により、化学合成で一般的に用いられる有毒な溶媒や有毒ガスを使用せずにカルベン反応を行うことが可能になります。この生物学的プロセスは、今日の化学物質の合成方法よりはるかに環境に優しいものです」と述べました。研究の主任研究者でエネルギー省ジョイント・バイオエネルギー研究所CEOのジェイ・キースリング氏は「糖分を加えるだけで、あとは細胞がやってくれます」と表現しています。


研究で用いられた人工細菌は、糖を代謝してカルベン前駆体とアルケン基質に変換したほか、進化したP450酵素を発現し、カルベン前駆体とアルケン基質を用いて、新たな生物活性化合物や高度なバイオ燃料の持続的生産に使用できる可能性のある高エネルギー分子・シクロプロパンを生成しました。

キースリング氏は「我々はいま、細菌の細胞内でこの興味深い反応を行うことができます。細胞がすべての酵素と補因子を生み出すので、この反応を大規模にスケールアップすることで大量生産につなげられます」と述べました。ただし、Huang氏によると商用化の準備はまだできていないとのこと。

Huang氏は「新たな進歩のたびに、誰かが最初の一歩を踏み出す必要があります。科学では成功するまでに何年もかかることがありますが、努力を続けなければいけません--我々には諦める余裕はないのです。私は、私たちの仕事が、より環境に優しく、持続可能なバイオ製造の解決策を探し続けるように他の人を鼓舞するものであることを願っています」と語っています。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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