サイエンス

気候変動の悪化でなんと58%の感染症が激化していることが判明


新型コロナウイルス感染症のパンデミックが収束の兆しを見せず、新たにWHOがサル痘で緊急事態を宣言するなど感染症が猛威を振るう中、イギリスやヨーロッパで記録的な熱波が発生し、日本でも人間の体温を超える気温が観測されています。こうした気候変動が人類が直面している感染症の半分以上を激化させているとの研究結果が、科学誌・Nature Climate Changeに掲載されました。

Over half of known human pathogenic diseases can be aggravated by climate change | Nature Climate Change
https://doi.org/10.1038/s41558-022-01426-1

58% of human infectious diseases can be worsened by climate change – we scoured 77,000 studies to map the pathways
https://theconversation.com/58-of-human-infectious-diseases-can-be-worsened-by-climate-change-we-scoured-77-000-studies-to-map-the-pathways-188256


「気候変動が新型コロナウイルスのパンデミックを引き起こした」と言われているように、気候変動が感染症による社会的混乱の引き金になることが近年の研究により明らかになりつつありますが、具体的にどれほどの関連性があるのかを定量化した研究は多くありません。

そこで、ハワイ大学マノア校のカミロ・モーラ氏らの研究チームは、温室効果ガスの排出量増加に関連する10の気象災害、つまり大気の温暖化・海洋の温暖化・熱波・干ばつ・山火事・豪雨・洪水・嵐・海面上昇・土地被覆率の変化(森林の減少)に着目し、これらの災害について論じている文献を調査する研究を行いました。


研究チームによる検索の結果、合計で7万7000件以上の論文が見つかりました。そして、これらの研究データを分析したところ気候変動は1006通りもの感染経路に影響を与えていることが判明。これにより、感染症375種類のうち58%に相当する218種類が気象災害により悪化していることが分かりました。

気候変動によって悪化している感染症は、蚊・コウモリ・ネズミの媒介により感染するものが主でした。また、感染症に影響を与えている気象災害の種類としては大気の温暖化が160種類もの感染症に影響を与えていて最多となっており、豪雨の122種類、洪水の121種類、干ばつの81種類がこれに続きました。

by Camilo Mora, CC BY-ND

研究チームは、気候変動が感染症を激化させるメカニズムは次の4つあると考えています。

◆1:気候変動に関連する災害が病原体を人間に近づける
これは、災害により危険な感染症を媒介する生き物の生息域が移動することにより発生します。具体例としては、温暖化や降水パターンの変化により、マラリアやデング熱など多くの病原体の媒介することで知られている蚊の分布を変化させている可能性が指摘されています。

◆2:気候変動に関連する災害が人間を病原体に近づける
災害により生き物が移動するのと同様に、人間も移動や行動パターンの変更を余儀なくされます。例えば、熱波が発生すると人は水辺で過ごす時間が長くなるので、水を介して感染が広がる水系伝染病が増えると考えられます。

アメリカ疾病予防管理センターは2022年8月に、カンザス州の野生動物公園にある噴水に入った人が相次いで急性胃腸疾患を発症した2021年の事例を取り上げて、噴水などの水を口に入れないよう注意を呼びかけました。

「噴水の水を口に入れないで」とアメリカ疾病予防管理センターが警告 - GIGAZINE


◆3:気候変動に関連する災害が病原体を強化する
気候変動が引き起こす災害により、病原体が媒介となる生物と接触する機会が増加したり、病原体の「人間に感染して重篤な症状を引き起こす能力」が高まったりする可能性があります。

例えば、大雨や洪水の水が蚊の繁殖地となることで蚊が媒介する感染症が増加するケースがこれに該当するほか、気温の上昇がウイルスの耐熱性を高めて人間の発熱に適応するケースもあります。

2005年に日本で発見された真菌の一種であるカンジダ・アウリスは、それまで免疫力が低下している人に感染するケースがほとんどでしたが、近年に入って突然治療への抵抗性を獲得したことが報告されており、研究チームによるとこれも気温の上昇が関係しているとのこと。また、暑い都市部の真菌は、比較的涼しい農村部の真菌より暑さに強いことも分かっています。

by Arturo Casadevall, Dimitrios P. Kontoyiannis, Vincent Robert

◆4:気候変動に関連する災害が病原体に対する人間の抵抗力を弱める
災害が病原体を強化する一方で、人間が感染症を防ぐ能力は低下します。例えば、気候変動による災害で食料や物資が不足すると、栄養失調で体力が落ちたりストレスで人体の免疫力が低下したりするおそれがあります。

また、災害の発生によって避難生活を余儀なくされることで、病原体や病気になった人との接触が増加したり、衛生状態が悪化したりするというケースも考えられます。

このように、気候変動は人々の健康や生命に大きな脅威となることから、モーラ氏らは「私たちは、このリスクを軽減するためには地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出にブレーキをかけなければならないと考えています」と述べて、改めて気候変動対策の必要性を訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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