Googleに広告事業の「強制売却」を欧州委員会が警告、独占禁止法調査の予備的見解で
欧州委員会が2023年6月14日に、Googleが広告技術(アドテク)業界の競争をゆがめ、反トラスト法に抵触している疑いがあるとの見解を発表しました。この申し立てが認められた場合、Googleは広告事業の売却を余儀なくされると欧州委員会は指摘しています。
Commission sends Statement of Objections to Google
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_3207
Remarks by Executive Vice-President Vestager
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/speech_23_3288
Today’s European Commission announcement about our advertising technology
https://blog.google/around-the-globe/google-europe/todays-european-commission-announcement-about-our-advertising-technology/
EU suggests breaking up Google’s ad business in preliminary antitrust ruling - The Verge
https://www.theverge.com/2023/6/14/23759094/european-commission-google-antitrust-advertising-market-antitrust
欧州委員会は、Googleがアドテク業界での支配的地位を乱用してきたとして再三にわたりGoogleを非難しており、過去3件の反トラスト法違反で同社に罰金を科していますが、これまでは「行動的問題解消措置(Behavioral Remedies)」、つまりGoogleのビジネス慣行の是正を要求するにとどまっていました。
しかし、Googleの広告事業に関する実態の調査を進めてきた欧州委員会は、Googleがアドテク業界における優位な立場を利用して自社サービスに不当な便宜を与えたのではないかとの疑いを強めており、これにより広告ビジネスの一部を切り離すよう迫るのではないかとの公算が高まっていました。
Googleの広告テクノロジー事業は独占禁止法違反だとしてビジネスの一部売却をEUの規制当局が命じる可能性 - GIGAZINE
欧州委員会で競争政策担当副委員長を務めるマルグレーテ・ベスタガー氏は声明で、「Googleはオンライン広告の仲介役として機能しており、いわゆるアドテクノロジーのサプライチェーンのほぼすべてのレベルに介在しています。私たちの予備的懸念は、Googleがその市場での地位を利用して、自社の仲介サービスを優遇したのではないかということえす。これはGoogleの競合他社のみならず、パブリッシャーの利益も損ない、同時に広告主のコストも増大させます。従って、これが事実として確認されれば、Googleの行いは私たちの競争規則への違反となります」と述べて、改めてGoogleが反トラスト法に違反しているとの見方を示しました。
以下は、欧州委員会が問題視しているGoogleの支配構造を図式化したものです。Googleは広告主向けに「Google Ads」と「DV 360」という2つの広告枠購入サービスを提供するかたわらで、広告を掲載するパブリッシャーとなるサイト運営者向けの「DoubleClick For Publishers(DFP)」というサービスを手がけています。その上でGoogleは、オークション制度を通じて広告を売買する広告取引所(アドエクスチェンジ)の「AdX」も運営しています。
つまり、Googleは広告を買うプラットフォームと売るプラットフォーム、そしてその取引を仲介する場所のすべてを押さえているということになります。これ自体は違法なことではありませんが、欧州委員会はGoogleが少なくとも2014年から、次の2つの方法でこの支配的地位を乱用してきたと暫定的に認定しました。
まず、Googleはパブリッシャー受け広告サーバーであるDFPで行われる広告オークションでは、競合他社の最高入札額を事前にAdXに通知するなどして自社のアドエクスチェンジが有利になるように便宜を図りました。その上で、広告購入ツールであるGoogle AdsとDV360での入札では、競合する広告取引所を除外しAdXで入札を行うよう仕向けていました。
欧州委員会は、Googleが自己優遇行為を継続したり、新たな自己優遇行為を行ったりするのを防ぐ上で、もはや慣行を改めさせる是正措置では効果がないと判断しました。そのため欧州委員会は、Googleの広告サービスの一部を強制的に分離させることでしか、競争上の懸念を解消できないとの予備的見解を示しています。
今回の異議申し立ては、EUの調査における重要な一歩となりますが、必ずしも当局の訴えが認められるとは限りません。Googleには今後、欧州委員会からの異議告知書に書面で回答し、公聴会での口頭審理を要求する機会が与えられます。Googleがこうした防衛権を行使した後で、欧州委員会が改めて独占禁止法違反の十分な証拠があると結論付けた場合、Googleには全世界での年間売上高の最大10%の罰金が科される可能性があります。
欧州委員会の発表を受けて、Googleのグローバル広告事業ヴァイスプレジデントであるダン・テイラー氏は「欧州委員会の調査報告は、当社の広告ビジネスの小さな側面に焦点を当てたもので、目新しいものではありません。私たちには欧州委員会の見解に同意することはできないので、欧州委員会の異議申し立てに応じて対処をしたいと思います」と反論して、争う姿勢を明確に示しました。
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