注射ではなく「肌にステッカーを貼る」だけで接種できる麻疹ワクチンが臨床試験で有望な結果を出す、多くの子どもが救われる可能性
麻疹(はしか)は高熱やせきといった症状が現れ、最悪の場合は死に至る危険な感染症です。適切なワクチン接種を受けていれば発症を防ぐことができるものの、免疫を持っていない人が感染者と接するとほぼ100%発症する強力な感染力を持っています。そんな麻疹の発症・流行を防ぐワクチンを、注射ではなく「肌に貼るステッカー」で接種するという臨床試験が西アフリカのガンビアで行われ、有望な結果が得られたことが報じられました。
A measles vaccine delivered via sticker shows promising early results : Goats and Soda : NPR
https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2023/05/26/1177678380/virtually-ouch-free-promising-early-data-on-a-measles-vaccine-delivered-via-stic
麻疹の流行を防ぐにはワクチン接種が有効ですが、発展途上国ではワクチンが行き渡らない地域も多いほか、近年ではワクチン忌避の風潮からアメリカなどの先進国でも麻疹の流行が起きていることが問題視されています。2019年3月にはニューヨーク州ロックランド郡で非常事態宣言が発令され、麻疹の予防接種を受けていない18歳以下の子どもが公共の場に出ることが禁じられました。
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一般的に麻疹ワクチンの接種には注射が用いられますが、ここ20年近くにわたり「肌に貼るステッカータイプのワクチン」が開発されています。ステッカータイプのワクチンは、乾燥したワクチンを「小さな針」として絆創膏(ばんそうこう)のような粘着パッチに並べ、この粘着パッチを肌に貼り付けるというものです。
バイオテクノロジー企業のMicron Biomedicalが開発したステッカータイプの麻疹ワクチンは、硬貨ほどの小さなプラスチック製ディスクであり、子どもの手首に押しつけて数分ほどで小さな針となったワクチンが投与されるとのこと。Micron Biomedicalのスティーブ・デイモンCEOによると、ステッカータイプの麻疹ワクチンは投与するにあたって専門的な技術は必要ないとのことで、「親指でワクチンを皮膚に押し込むことで、注射針や注射器を使用せずに、注射と同じ量のワクチンを投与することができます」と語っています。
ステッカータイプの麻疹ワクチンでは、小さな針となったワクチンが貫通するのは痛みの受容体がない皮膚の外層だけであり、子どもは接種時に痛みを感じません。また、貼った時の感触もせいぜいマジックテープが触れた程度だとのこと。
Micron Biomedicalはステッカータイプの麻疹ワクチンの有効性を調べるため、ガンビアの医学研究評議会と協力して臨床試験を実施しました。臨床試験には45人の成人と、生後15~18カ月の幼児120人、生後9~10月の乳児120人が参加し、従来の注射またはMicron Biomedicalのステッカーで麻疹ワクチンを投与されました。
研究チームが、ワクチン接種から1カ月半後に被験者の免疫反応を評価したところ、注射とステッカーのどちらの接種方法においても、同様に強固な免疫反応が確認されたとのことです。臨床試験に参加した子どもの親を対象にしたアンケートでは、大多数が「ワクチンステッカーは痛みを感じない」と評価し、90%が注射よりもステッカーの方がワクチン接種方法として優れていると回答したとのこと。
臨床試験の結果は2023年5月に開催されたマイクロニードルに関する学術会議・Microneedles 2023で発表され、間もなく査読付きの医学誌にも論文が掲載される予定だそうです。ガンビア医学研究評議会で乳児免疫学のディレクターを務めるエド・クラーク氏は、「これは、マイクロパッチアレイがワクチンを効果的かつ安全に送達する可能性を示す、初めてのエキサイティングな結果です」とコメントしています。
ステッカータイプのワクチンは麻疹だけでなく、狂犬病や結核、B型肝炎といったその他の感染症にも応用することができるとのことで、さらなる期待が寄せられているとのことです。
今回の臨床試験には関与していないメイヨークリニックのワクチン研究者であるグレゴリー・ポーランド氏は、「これは長年の夢だった技術です。もしもMicron Biomedicalが納得のいく価格帯で導入できれば、ワクチンを投与するために訓練を受けた医療従事者が必要なくなり、注射針から血液や体液が出てくるという恐怖も排除できます。注射針のように医療廃棄物を出すこともありません」と述べました。
WHOのワクチン製品・配送リサーチユニットのディレクターを務めるビギッテ・ギージング博士は、ステッカータイプの麻疹ワクチンは医療施設が乏しかったりアクセスが困難だったりする地域への配達が容易であり、冷蔵保存する必要性もないという利点があると述べています。また、通常の注射器で注入するワクチンは複数回分をきれいな水で希釈する必要がありますが、ステッカータイプであれば清浄な水がなくでも使用でき、余った分を捨てることにもならないとのこと。
臨床試験への資金提供を行ったビル&メリンダ・ゲイツ財団のワクチン開発および監視担当ヴァイスプレジデントであるデビット・ロビンソン氏は、「ワクチンパッチはより多くの子どもたちに手を差し伸べ、命を救うという私たちの使命を達成するのに役立つ可能性があると考えています」と述べました。
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