鼻からミストで投与する「点鼻タイプの新型コロナワクチン」のメリットとデメリットとは?
新型コロナウイルスワクチンの接種が日本を含む世界中で行われている中、現在使われているワクチンの他にも新たな種類のワクチンの開発が着々と進んでいます。そんな多数の開発中ワクチンの中でも「注射を伴わず、鼻から吸引するタイプのワクチン」のメリットやデメリットについてアラバマ大学の研究チームが解説しています。
Scent of a vaccine | Science
https://science.sciencemag.org/content/373/6553/397
Making the case for intranasal COVID-19 vaccines
https://medicalxpress.com/news/2021-07-case-intranasal-covid-vaccines.html
研究チームによると、記事作成時点で臨床試験中の新型コロナウイルスワクチンは約100種類ありますが、そのうち7種類が鼻から吸引するタイプのワクチン(点鼻型ワクチン)であるとのこと。研究チームは「新型コロナウイルスの特性や、点鼻型ワクチンの『針を使わない』『感染部位への抗原送達能力の高さ』などのメリットを考えると、点鼻型ワクチンが7種類しか臨床試験されていないことは驚くべきことです」と述べ、点鼻型の新型コロナウイルスにメリットがあることを強調しています。
点鼻型ワクチンは新しいものではなく、1960年代から使われているインフルエンザワクチンの1種である弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)も点鼻型です。LAIVは呼吸器における免疫機能を担う免疫グロブリンA(IgA)の気道と血清内での生成を誘発することが知られています。これに対して、注射タイプのインフルエンザワクチンは主に血清内での免疫グロブリンG(IgG)の生成を誘発するとのこと。研究チームは「IgAは気道や鼻腔内でウイルスからの攻撃を効果的に防御します。一方でIgGが気道や鼻腔を保護するためにはIgGの毛中濃度が十分に高い必要があります。このため点鼻型ワクチンの方が筋肉注射ワクチンと比べてウイルスに対する防御効果が高い可能性があります」と主張しています。
また、研究チームはワクチンを投与した患者の気道で、B細胞やT細胞といった免疫細胞を素早く産生するためのメモリーB細胞・メモリーT細胞の産生が誘発されることも点鼻型ワクチンのメリットであると解説しています。
上記のように点鼻型ワクチンには多くのメリットが存在しています。しかし一方で、点鼻型ワクチンの材料には「弱毒化されたワクチン」が使われているため、mRNAワクチンでは生じない「ワクチン接種によるウイルスへの感染リスク」が生じるというデメリットが存在します。さらに、研究チームによると点鼻型ワクチンは筋肉注射ワクチンと比べて獲得できる免疫の持続期間が短い可能性があるとのこと。
以上のメリットとデメリットを踏まえて、研究チームは筋肉注射ワクチンによって長期的な免疫を獲得しつつ、点鼻型ワクチンも併用することで局所的・効果的な免疫も獲得することが望ましいと締めくくっています。
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