サイエンス

注射を使わず冷蔵も不要なワクチンが開発される


インフルエンザやはしか、おたふくかぜなどの感染症にかかる前にあらかじめ免疫をつけるため、病原性を弱めたり不活化させたりしたウイルスや細菌を体内に送り込むのが「ワクチン」です。ワクチンは通常、注射器を使って接種しますが、ワクチンテキサス大学オースティン校の薬学教授であるマリア・クロイル氏が「注射を使わないワクチン」の開発に成功したと報告しています。

Novel technology for storage and distribution of live vaccines and other biological medicines at ambient temperature | Science Advances
https://advances.sciencemag.org/content/6/10/eaau4819


Vaccines without needles – new shelf-stable film could revolutionize how medicines are distributed worldwide
https://theconversation.com/vaccines-without-needles-new-shelf-stable-film-could-revolutionize-how-medicines-are-distributed-worldwide-132479


一口にワクチンといってもさまざまな種類があり、代表的なものとして「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」があります。生ワクチンは病原体となるウイルスや細菌の病原性を弱らせて接種するもの、不活化ワクチンは病原性をなくしたウイルスや細菌を接種するもの、トキソイドは細菌の産生する毒素を使って毒性をなくした上で接種するものです。


いずれにしてもワクチンは生物由来の原料を使用しているため、紫外線や温度による影響を大きく受け、時間と共にその効力を失ってしまいます。そのため、ワクチンの保管・管理には冷蔵保存が可能な設備が必要。しかし、こうした設備の用意と維持には一定のコストがかかり、一部の地域では用意することがほぼ不可能です。

また、ワクチンの接種は基本的に注射で行われます。注射の針は正しく管理されなければ肝炎やエイズといった感染症の感染経路となり得ることが指摘されています。

クロイル教授が2007年から開発を進めているワクチンは、砂糖や塩などの天然成分を含む薄いフィルムでワクチンを挟み込み、経口による接種が可能。コストは安価で、製造プロセスも比較的簡単であることから、手頃な価格でワクチンを提供することが可能になるとのこと。また、平らで場所を取らなくなるため、大量のワクチンを保管し配布することが可能になるとクロイル教授は主張しています。


クロイル教授によれば、この研究プロジェクトにおける最大のブレイクスルーは、エボラウイルスのワクチン開発の一環でウイルスをフィルムに挟んでいたところ、3年間も放置されていたにもかかわらず、ワクチン内のウイルスの95%以上が活動しており、ワクチンとしての効果を失っていなかったことがわかったことだったそうです。


クロイル教授は「2004年にフィリピンで1カ月に1800万人の子どもたちへ予防接種を行ったキャンペーンでは、1950万本の注射器が廃棄されました」と語り、フィルムによる針なしのワクチンが普及すれば、ワクチンの保管だけではなく医療廃棄物の問題も解決されると述べました。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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