サイエンス

騒音は動物たちに深刻な被害を与えている、どうすれば悪影響を抑えられるのか?


人間社会では都市部や鉄道の線路沿い、空港の近くなどさまざまな場所で騒音が問題となっており、人々の健康悪影響及ぼしていることが知られています。ところが、騒音が動物たちにも深刻な被害を与えることはあまり知られていないとのことで、アングリア・ラスキン大学の生命科学研究者であるフェイ・クラーク氏らが動物への騒音被害について解説しています。

Frontiers | From Soundwave to Soundscape: A Guide to Acoustic Research in Captive Animal Environments
https://doi.org/10.3389/fvets.2022.889117

Noise pollution is hurting animals – and we don't even know how much
https://theconversation.com/noise-pollution-is-hurting-animals-and-we-dont-even-know-how-much-186408

建設現場や混雑した道路、飛行機、鉄道など人間による騒音は至るところにありますが、騒音を防ごうとする試みの多くは人間を保護するためのもので、動物を対象にしたものは少数です。しかし、人間と密接に関わりながら暮らす家畜やペットなどの動物にとって、騒音は重大な影響を及ぼしているとクラーク氏は主張しています。


人間にとっての騒音を考える際には、音の大きさをdB(デシベル)で表して騒音レベルを測定することが一般的ですが、動物にとっての騒音被害はデシベルのみで測れるものではありません。人間の可聴領域は周波数が20Hz~2万Hzの範囲とされていますが、コウモリやイルカなどは人間に感じ取れない高周波でコミュニケーションを取るほか、ゾウは10~40Hzという超低周波を発して遠く離れた個体ともコミュニケーションを取っているとのこと。また、クモの中には足の毛で音の振動を感じ取る種類がいるなど、人間では感じ取れないような音でも動物にとっての騒音となり得るそうです。

クラーク氏は、「動物の騒音に対する感度を見極めるのは困難ですが、最も重要なのは周波数が高いか低いかではなく、周囲の騒音が動物の可聴域に収まっているかどうかです」と述べています。


動物に対する騒音の研究では、ラットを用いた研究で騒音によって聴覚に永久的な損傷が残ることが確認されたほか、鎮痛剤投与の有無で騒音に対して異なる行動を取ることから、騒音が何かしらの痛みを伴う影響を及ぼす可能性も示唆されています。また、輸送中の家畜は耳に聞こえない高レベルの騒音(振動)を経験しているとの研究結果も報告されています。

さらに、実験室やケージに閉じ込められていない野生動物においても、人間が発する騒音が慢性的なストレスや不妊をもたらし、移動経路や生息域の変更を引き起こしている可能性があるとのこと。水中の魚においても、極端な騒音が浮袋を傷つけて聴力や浮力に影響を及ぼすという研究結果があります。

他にも、騒音に暴露されたマウスでは一時的に学習・記憶力が増加したものの、暴露期間が延びるにつれて学習・記憶力が有意に低下したという研究結果が報告されています。人間を対象にした研究では騒音と認知症の関係が示されており、マウスでも同様に騒音が認知能力を低下させている可能性があるとのこと。


もしペットや家畜が騒音によるストレスを受けている場合、合成フェロモンやおもちゃを使って気分を落ち着かせることもできますが、クラーク氏は「予防は治療よりも優れています」と述べ、まずは騒音対策を実施するべきだと訴えています。

たとえば、屋内で動物を飼育する際は騒音が発生する掃除やガーデニングといった作業に細心の注意を払い、動物の周辺環境が音をどのように反射するのかをチェックした方がいいとのこと。また、花火大会や雷なども動物に悪影響を及ぼす可能性があるため、枕やブランケットなど音を吸収するのに役立つものを用意し、動物が怖がっていたらこれらで体やケージを包んであげることも有効かもしれません。

クラーク氏は、「建設工事や騒音の出るイベントから動物を守るために、より良い規制が必要です。建築プロジェクトや音楽コンサートがどのように行われるのかを動物が決めることはできませんが、結果として動物が苦しむことはあり得ます」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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