生き物

人間が生み出した「夜の光」が動物に及ぼす悪影響とは?


人間は都市部の建物から郊外の道路に至るまでさまざまな場所に照明を設置して、夜でも明るくて安全な生活空間を生み出しています。ところが、人間が生み出している「人工的な夜の光」が動物のさまざまな行動に悪影響を及ぼしていると、メルボルン大学の進化・行動学准教授を務めるテレサ・ジョーンズ氏らが解説しています。

Artificial light at night can change the behaviour of all animals, not just humans
https://theconversation.com/artificial-light-at-night-can-change-the-behaviour-of-all-animals-not-just-humans-183028


人間が生み出す夜間の光の強度や光が届く範囲は、年間2~6%ほどの割合で増加していると推定されており、「世界で最も急速に成長している汚染物質の1つになっています」とジョーンズ氏は指摘。多くの生物は太陽や月などの光に応じた生活サイクルを確立していますが、夜間に本来は存在しない光が生み出されることで概日リズムやホルモンが変化し、睡眠・採餌・交配といったさまざまなものに影響が及ぶとのこと。

たとえば、卵からふ化したばかりのウミガメの赤ちゃんは、海に反射する月の光を頼りに海へ向かいますが、浜辺沿いに街灯があるとその光に引きつけられて内陸に向かってしまう場合があります。その結果、車にひかれてしまったり、スイミングプールに落ちて溺れ死んでしまったりすることがあるそうです。また、ガをはじめとする走光性を持つ昆虫は方向感覚を失い、延々と街灯にぶつかり続けることがあるほか、メスのホタルがオスを引きつけるために発する光が街灯に紛れ、うまく交配できないこともあるとジョーンズ氏は述べています。


他にも、毎年数百万羽もの鳥が都市の光に閉じ込められ、何らかの害を被ったり死んだりしているとの研究結果も報告されています。さらに、光を避けるコウモリや一部の小型哺乳類にとって、人間の光が届く環境はもはや生息地にはなりません。この場合、街灯の増加は生息地破壊の一形態といえるとのこと。

一方、本来であれば日中しかエサを採らない動物たちにとって、夜間の光は採餌行動の延長を引き起こします。これには捕獲できるエサが増えるというメリットもあるものの、昆虫やクモを用いた研究では夜間の光が免疫機能を低下させたり、成長や発達、繁殖に悪影響を及ぼしたりするといった研究結果も報告されています。


近年では人間の光がもたらす悪影響が広く知られるようになり、動物たちへの影響を軽減する試みも進んでいます。アメリカ・フロリダ州では、都市部にある浜辺付近の街灯の色がより動物への影響が小さい琥珀(こはく)色のものに替えられているほか、カメの繁殖期には街灯を消しているとのこと。

また、最も長距離の渡りをする渡り鳥の一種、ハシボソミズナギドリが立ち寄るオーストラリア・ビクトリア州のフィリップ島でも琥珀色のライトを採用しているほか、渡りの期間には移動経路に沿って消灯する試みも行われています。これらの戦略は夜間照明が動物にもたらす影響を軽減し、無数の動物の命を救ったとジョーンズ氏らは主張しています。

加えてジョーンズ氏らは、以下のような行動が動物たちへの影響を軽減することにつながると述べています。

・本当に照明が必要な特定の領域だけを照らすように、デフォルトの明るさを弱める。
・センサーと調光器を使って照明をつけるタイミングと明るさを調節する。
・なるべく照明を地面に近いところに設置し、背部にはシールドを設置して不必要な範囲に光が届かないようにする。
・野生生物は青・紫・紫外線といった波長の長い光に敏感なため、赤・オレンジ・琥珀色など野生生物への影響が少ない光を選択する。
・建物の外壁をなるべく低反射素材で仕上げ、照明が乱反射しないようにする。

ジョーンズ氏らは、光による害を減らすには単に照明をつけなければいいものの、人間の仕事・余暇・娯楽のための利益が大きいため、実際に照明をつけないようにすることは難しいと指摘。その代わり、動物たちに壊滅的な影響を及ぼす可能性を少しでも減らすために、照明の量を減らしたり色味を変えたりすることができると主張しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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