サイエンス

飛行機や鉄道の騒音が心血管系に与えるダメージは非常に深刻、わずか数日で血管に問題が生じることも


飛行機や鉄道の騒音は人々の心をかき乱すだけでなく、難聴を引き起こしたり、認知症リスクの増加と関連したりしています。近年の研究では、騒音は人間の心血管系にも重大な悪影響を及ぼすことが明らかになっているとのことで、騒音が身体にもたらす悪影響について科学系メディアのKnowable Magazineがまとめています。

Sounding the alarm: How noise hurts the heart
https://knowablemagazine.org/article/health-disease/2021/how-noise-pollution-affects-heart-health

騒音への暴露が難聴と関連していることは広く知られていますが、飛行機や列車、車による交通騒音は大気汚染に次ぐ主要な生理学的ストレス要因にも位置づけられており、過去10年間で交通騒音を心血管疾患のリスクの高まりと結びつける研究結果が多数報告されています。ペンシルベニア大学の疫学者であり、騒音の生理学的影響に関する国際委員会の委員長を務めるMathias Basner氏は、騒音が人体に悪影響を及ぼすことを示す研究結果は増えているものの、多くの人が騒音の危険性に気付いていないと指摘しています。

推定によると、ヨーロッパアメリカに住んでいる人々の3分の1は、通常約70~80dB(デシベル)以上の不健康なレベルの騒音に定期的にさらされているとのこと。多くの研究はこうした環境騒音に対する慢性的な暴露を心血管疾患のリスク増加と結びつけており、「ドイツのフランクフルト空港近くに住む人々は、似た環境で静かな場所に住んでいる人より脳卒中のリスクが7%高い」との研究結果や、「スイスのチューリッヒ空港近くに住む人では、夜間飛行の騒音にさらされた後の死亡リスクが有意に増加する」との研究結果が報告されています。

以下のグラフは縦軸が死亡率、横軸が死亡する2時間前にさらされた騒音レベルを示しており、赤色が女性、緑色が男性を表しています。「All cardiovascular diseases(すべての心血管疾患)」「Ischemic heart diseases(虚血性心疾患)」「Myocardial infarction(心筋梗塞)」「Heart failure(心不全)」では男女ともに騒音レベルの上昇が死亡率の増加と関連しており、「Arrhythmia(不整脈)」では女性の死亡率が騒音レベルの上昇とともに急激に増えていることがわかります。


騒音が身体に問題を生じさせるメカニズムを説明した以下の図を見ると、まずは「Transportation noise(交通機関の騒音)」が人々の活動や睡眠、コミュニケーションを阻害し、気分をいら立たせ、認知や感情的反応を引き起こします。次に「Stress respose(ストレス反応)」として、コルチゾン(コルチゾールの前駆体)・アンジオテンシンIIドーパミンアドレナリンノルアドレナリンといったホルモンが分泌されます。このストレス反応は血液の化学的性質を変化させ、「blood vessel linings altered(血管内皮の変化)」を引き起こすとのこと。


具体的には、騒音が脳に到達すると音をつかさどる聴覚野と、それに対する感情的反応をつかさどる扁桃体が活性化します。騒音が大きくなるにつれて、扁桃体は無意識のうちに戦うか逃げるか反応を活性化し、アドレナリンやコルチゾールといったホルモンが体内に放出されたり、血圧が上昇したり、消化が遅くなったり、血中の糖分や脂肪が増えたりします。

こうした反応は、血中の有害な酸化剤や細胞接着分子と呼ばれるタンパク質の生成を促し、血管内皮を「活性化」させて炎症が生じるとのこと。その結果、機能不全に陥った血管内皮は高血圧やプラークの蓄積といった悪影響を及ぼし、肥満や糖尿病、心血管疾患などを引き起こしたり悪化させたりするそうです。

こうした一連の反応が生じるのは慢性的な騒音にさらされた時だけではなく、人間マウスを対象にした実験では、夜間の飛行機騒音にわずか数日間さらされただけで血管内皮の問題が生じることがわかっています。また、2019年の研究では、健康な被験者であっても夜間に列車の騒音にさらされた直後に血管機能の障害がみられたことが報告されています。

多くの研究データが蓄積されている一方、騒音と身体への悪影響における因果関係を特定することは難しい課題であり、「特定の騒音でも人によって感じ方が違う」という点も研究を困難にしています。それでも、世界保健機関(WHO)が2018年の(PDFファイル)レポートで「毎年、西ヨーロッパに住む160万人以上が交通騒音のために健康的な生活が送れなくなっている」と指摘するなど、交通騒音と身体へのダメージに関する認識は世界的に高まっています。

交通騒音から自分自身を守るための対策としては、窓を遮音性が高いものに変えたり、遮音性が高いカーテンを設置したり、寝室を騒音源から離れた場所に移したり、余裕があれば引っ越したりするなどが挙げられます。また、簡易な方法としては夜間に耳栓を着用することも有効だとのこと。Basner氏は、「マンハッタンに住んでいるなら、うるさい状態が正常であるため、しばらくするとどれほど周囲が騒々しいか気付かなくなるでしょう。しかし、あなたが心理的に慣れているからといって、健康に悪影響がないわけではありません」と述べました。

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in 乗り物,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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