サイエンス

これまで存在しなかった新しい色「olo」を視神経への刺激で見せることに成功


人間の目には光受容体と呼ばれる光感受性細胞があり、光感受性細胞は桿体(かんたい)細胞と錐体(すいたい)細胞の2種類に分かれます。そのうち錐体細胞は明るい光の中で赤、緑、青を感知することで、3色を組み合わせて色覚を脳に解釈させています。カリフォルニア大学バークレー校の科学者は、錐体細胞に与える光の刺激をコントロールすることで、自然な人間の視覚の範囲を超えたまったく新しい色を見せることができる手法を発表しました。

Novel color via stimulation of individual photoreceptors at population scale | Science Advances
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adu1052

Scientists hijacked the human eye to get it to see a brand-new color. It's called 'olo.' | Live Science
https://www.livescience.com/health/neuroscience/scientists-hijacked-the-human-eye-to-get-it-to-see-a-brand-new-color-its-called-olo


カリフォルニア大学バークレー校のコンピュータサイエンス博士課程の学生であるジェームズ・フォン氏らは、錐体細胞ごとに光をとどけることで人間の目の光受容体の活動を直接制御する「Oz(オズ)」という技術を発表しました。Ozという名前は、街の輝きが目をくらませないようにするためにかける緑色のメガネが登場する「オズの魔法使い」に由来しています。

錐体細胞は、感度のピークを短波長に持つS錐体、中波長に持つM錐体、長波長に持つL錐体の3種類に分類されます。以下は、波長ごとに活性化する錐体の種類とその波長が示す色を表したイメージ図。例えば、M錐体は緑色に最も敏感ですが、厳密にはL錐体とS錐体が反応する波長と重なっており独立しているわけではないため、「M錐体だけが活性化する色」というものは自然環境では存在しません。


Ozは、錐体細胞の種類を分類した上で細胞スケールで追跡し、各錐体細胞に波長レーザーを毎秒1万回照射して刺激します。これにより、「M錐体のみに光を照射して活性化し、L錐体やS錐体は活性化しない」ということが可能なため、原理的には「自然な視覚では決して発生しない色信号」が脳に送られることになります。

研究では実際に、Ozによってオレンジから黄色、緑、青緑まで、さまざまな色相を正常に表示できることが確認されました。さらに、M錐体のみを刺激する試みによって、自然な人間の色域を超えた新しい色が表示されることが示されました。被験者は「これまでにない彩度の青緑色に見える」と報告しています。


研究者たちはこの色を「olo」と名付け、oloの理想的なバージョンを「純粋なM錐体活性化」と定義しています。oloというのは「0,1,0」という3D色の座標に由来しており、M錐体のみが活性化していることを示しています。

フォン氏は「最終的な目標は、網膜のすべての光受容体をプログラム可能な制御にすることです。まだそのレベルには達していませんが、今回の研究で提示した手法は、多くの重要な原理が実際に可能であることを示しています。このシステムを使って脳に新たな視覚データと網膜刺激のパターンを導入することで、色覚異常の人が色の新たな次元を見ることができる可能性があります」と実験の成果を語りました。

一方で、Ozの設定にはいくつかの制限があることをフォン氏は認めています。例えば、研究者たちは数千ある錐体細胞を含む網膜のごく一部しかマッピングしていないため、Ozが狙った錐体細胞に光を照射するためには、ユーザーが視線を一点に固定する必要があります。自由に動く眼球を追跡しながらOzを機能させるためには、相当な技術的課題が生じるとフォン氏は述べています。

フォン氏らは引き続き、Ozを用いて色覚異常の研究と治療を行うとともに、様々な眼疾患のモデル化も行っています。また、ごく一部の人は「第4の錐体細胞」を持っており色に対する感度が高い「テトラクロマシー(四色型色覚)」の能力を有すると考えられていますが、研究チームは第4の錐体細胞を獲得する体験をOzで提供するための手法を検討しているとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1e_dh

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