「フェイクニュースの戦術を解説する動画」をYouTube広告で流してフェイクニュースを見抜く能力を高める試み
近年はフェイクニュースの拡散が世界的に問題視されており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックや2020年アメリカ大統領選挙においてもフェイクニュース対策が課題となりました。ケンブリッジ大学やGoogle関連シンクタンクの研究チームが発表した新たな研究では、「フェイクニュースの戦術や特徴を解説する動画」をYouTubeの広告として流すことで、人々のフェイクニュースに対する意識を高められるとの結果が示されました。
Psychological inoculation improves resilience against misinformation on social media | Science Advances
https://doi.org/10.1126/sciadv.abo6254
Short animations could ‘inoculate’ YouTube users against fake news | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2335170-short-animations-could-inoculate-youtube-users-against-fake-news/
Google is trying out ‘pre-bunking’ in an effort to counter misinformation
https://www.nbcnews.com/tech/misinformation/google-trying-pre-bunking-effort-counter-misinformation-rcna43818
ケンブリッジ大学のSocial Decision-Making Lab(社会意思決定ラボ)や、Googleの親会社・Alphabet傘下のシンクタンクであるJigsawの研究チームは、陰謀論やフェイクニュースにみられる「感情に訴えかける言葉を使用する」「一貫性が欠如している」「誤った二項対立を設定している」「スケープゴートを作り出す」「議論の内容ではなく個人攻撃を行う」といった戦術や特徴を解説する90秒の動画を作成しました。
各トピックについて解説する5本の動画には特定の政治家などは登場せず、代わりに「ザ・シンプソンズ」「スター・ウォーズ」「サウスパーク」のキャラクターが登場しています。実際に作成された動画は、以下のサイトで公開されています。
Inoculation Science - Video Resources - Truth Labs for Education
https://inoculation.science/inoculation-videos/
研究チームはまず5つの異なる実験を行い、合計で約6400人の被験者を対象に動画の効果を確かめました。被験者は「フェイクニュース対策動画を見るグループ」と「関係ない無害な動画を見るグループ」に分けられ、動画視聴後に架空のソーシャルメディア投稿を見せられて、「この投稿が信用できるかどうか」の評価を求められました。実験の結果、フェイクニュース対策動画を見た被験者は、初めて見るフェイクニュースもうまく見抜けたとのことです。
5つの実験から1年が経過したタイミングで、研究チームは再び同条件の実験を行って効果の再現性を確かめました。その後、「YouTubeの動画再生前に流れる広告」としてフェイクニュース対策動画を見せ、実際の環境において動画がどのような効果をもたらすのかを調べる実験を行いました。
YouTubeの実験では、研究チームは通常の広告企業と同様のシステムでフェイクニュース対策動画を流したそうで、1再生あたり5セント(約7円)ほどの費用がかかったとのこと。合計で約100万人近いユーザーが90秒の動画のうち少なくとも30秒を視聴し、ランダムで選出された視聴者の約30%には、1日後にフェイクニュースの戦術や特徴について尋ねるアンケート広告が表示されました。また、対照群として事前にフェイクニュース対策動画を視聴しなかったユーザーにも、同じアンケート広告が表示されたとのことです。
アンケート広告の結果を分析したところ、事前にフェイクニュース対策動画を視聴したユーザーは、フェイクニュースの戦術や特徴を見抜く能力が対照群より5%高いことが判明しました。ケンブリッジ大学の心理学者で論文の筆頭著者であるJon Roozenbeek氏は、「これらのフェイクニュース対策動画が現実世界で測定可能かつ有意な効果を持っていることを示しました」と述べています。
特定のフェイクニュースについて否定する「ファクトチェック」方式の対策では、実際にフェイクニュースが拡散してしまった後にしか働きかけられません。しかし、フェイクニュース対策動画を見せる今回の実験のようにフェイクニュースが流れる前にユーザーへ働きかけることで、より幅広いフェイクニュースに対応することが可能です。また、特定のトピックに関するファクトチェックはどうしても政治的な意味合いを帯びることが多いため、フェイクニュースによく見られる戦術や特徴を周知するという対策は、フェイクニュースの政治化という問題を回避できるという点でも有益だとのこと。
今回の研究結果を受けて、すでにGoogleはポーランド・スロバキア・チェコの3カ国でこのアプローチを採用し、ウクライナ難民への反発感情を抑えるために利用しています。2022年秋のアメリカ中間選挙でこの手法が採用される予定はないものの、将来的にはスタンダードな選択肢になり得ると研究チームは述べています。
一方で、事前にフェイクニュース対策動画を見せる手法は、そもそも政府が発信する情報を信用しない人々にはあまり有効とは言えず、極右や陰謀論のインフルエンサーなどが発するフェイクニュースを止めるには役立たない可能性も指摘されています。また、今回の研究に関与しなかったノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者・Shannon McGregor氏は、研究チームがSNSのフェイクニュース拡散を抑えるため、プラットフォームでの広告掲載に資金を費やすべきだと主張している点を問題視しています。「多くの点で、プラットフォームを除くすべての利害関係者にとって満足いくものではありません」と、McGregor氏は述べました。
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