AppleはFacebookに「広告なしの有料プラン」を提案する秘密会議を開いていた
iPhoneにアプリをインストールすると、アプリの初回起動時に「アプリにアクティビティの追跡を許可しますか?」という選択項目が表示されることがあります。この選択項目からトラッキング拒否を選択することで「広告表示のためのユーザー追跡」を無効化できるのですが、トラッキング拒否設定の追加によってMeta(旧Facebook)を含むを多くの企業が売上を減少させていることが報告されており、Facebookは拒否機能の発表時からAppleに対して反対キャンペーンを行うなどユーザーのプライバシーを巡った全面対決に発展しています。しかし、新たにトラッキング拒否設定の導入発表以前にAppleとFacebookが売上向上のための話し合いを行っていたことが明らかになりました。
The Secret Talks That Could Have Prevented the Apple vs. Facebook War - WSJ
https://www.wsj.com/articles/inside-the-apple-vs-facebook-privacy-fight-11660317376
Appleは2021年4月にリリースした「iOS 14.5」から強固なプライバシーポリシー「App Tracking Transparency(ATT)」を有効化しました。ATTの有効化によって広告表示のためにユーザーを追跡していた企業は、アプリ内に以下のような「トラッキングの可否を尋ねる設定項目」を用意することが必須となりました。
上記の通り、ATTはアプリ開発企業にとってはユーザーの行動追跡を困難にするものであり、ユーザーごとに最適化したターゲティング広告の配信を難しくするものでした。このため、FacebookはATTの発表時から「Appleの試みは、Facebookや広告で成り立っているその他の無料アプリのビジネスモデルを弱体化させる」「さまざまなインターネット体験が有料化することになる」と主張し、Appleを非難していました。
しかし、Facebookによる非難キャンペーンもむなしくATTは有効化され、7割を超えるユーザーが「トラッキング拒否」を選択したことが報じられました。その後、2022年にはMetaのデイブ・ウェイナーCFOが「(ATTの影響で)年間売上高が100億ドル(約1兆3000億円)減少する」と発言し、Metaが大きな打撃を受けたことが明らかになりました。さらに、Facebookのターゲティング広告を用いてマーケティングを行っていた中小企業も大幅な減益を報告しており、ATTの影響は非常に広い範囲に及んでいることが判明しています。
「広告のFacebookの離れ」が加速、「広告戦争の敗者」と大手紙 - GIGAZINE
上述のように、AppleのATT導入によってFacebookは大きな打撃を受けていますが、実はATTの導入前に当たる2016年~2018年にAppleとFacebookが話し合いの場を設けていたことがウォール・ストリート・ジャーナルによって報じられました。報道によると、AppleはFacebookに対して「有料の広告非表示プランの追加」を提案していたとのこと。AppleはApp Storeで配信されるアプリの売上の一部を手数料として徴収しており、仮にFacebookが有料プランを追加した場合、Appleは「アプリ内課金の一部」として有料プランの売上の一部を獲得できるというわけです。
また、FacebookやInstagramには「投稿の宣伝」と呼ばれる投稿表示頻度を増加させる有料機能がありますが、「投稿の宣伝」はアプリ内購入とみなされておらずAppleが売上一部を得ることができません。そこで、Appleは「投稿の宣伝」をアプリ内購入とみなすように求めたとのこと。
Appleの広報担当者は「私たちは、あらゆる規模のの開発者と協力し、ビジネスの成長を支援しています。アプリに関するルールはすべての開発者に公正に適用されます」「(Facebookとの)パートナーシップに関する議論と、ATTの実装には関係がありません」と述べ、Facebookとの話し合いとATT導入の関連を否定しています。また、Metaの広報担当者はウォール・ストリート・ジャーナルに対して「私たちはユーザーのデータを保護しつつあらゆる規模の企業が成長できるような変更を過去5年で行いました。私たちの意志決定は他の企業に左右されるものではなく、私たちの信念によるものです」と語っています。
なお、AppleはATTの導入以降に自社広告の表示領域を拡大しており、App StoreやNewsといった純正アプリに広告が表示されるようになっています。海外メディアのBloombergは「将来的にApple純正マップアプリなどにも広告表示が拡大されるでしょう」と述べ、Appleが広告事業を拡大していくと推測しています。
iPhoneのアプリストアで広告の表示場所が拡大される - GIGAZINE
・関連記事
Facebookが「iOS 14のプライバシーポリシー改訂でターゲティング広告が難しくなり広告収入が激減する」と警告 - GIGAZINE
「Appleがインターネットを悪い方に変える」とFacebookが新聞に全面広告を出す - GIGAZINE
AppleとFacebookはなぜ全面対決しているのか? - GIGAZINE
Appleのプライバシー強化でFacebookと広告主がパニックに、実際のインパクトはどれほどだったのか? - GIGAZINE
アプリのトラッキングを制限するAppleのプライバシー強化で中小企業が大打撃を受けている - GIGAZINE
・関連コンテンツ