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Appleのプライバシー強化でFacebookと広告主がパニックに、実際のインパクトはどれほどだったのか?


Appleが2021年4月26日にリリースした「iOS 14.5」では、広告目的のユーザー追跡を許可するかどうかをユーザー自身が選択できる「App Tracking Transparency(ATT)」が有効化されました。ATTの導入により多くのユーザーが追跡を拒否した結果、Facebookやその広告主がパニックに陥っているとBloombergが報じています。

Facebook (FB) Advertisers Impacted By Apple (AAPL) Privacy iOS 14 Changes - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-07-14/facebook-fb-advertisers-impacted-by-apple-aapl-privacy-ios-14-changes

AppleはiPhoneやiPadなどの端末に「IDFA」と呼ばれる広告識別子を割り当てており、アプリ開発者や広告主はIDFAを利用してユーザーの行動を追跡し、広告表示に役立てることができます。ところが近年、広告のためにユーザーを追跡する慣行はプライバシーの懸念があるとして問題視されています。

そこでAppleはiOS 14.5からATTを導入して、アプリを利用するユーザーに「広告目的の追跡の許可を求めるポップアップ通知」を表示しています。モバイルビジネスの分析企業・Branchが行った調査によると、ポップアップが表示されたユーザーのうち、広告追跡を許可しているのは全体の25%に過ぎないとのこと。これにより、ユーザーごとに調整したターゲティング広告に必要なデータ供給が遮断されているそうです。

モバイル業界のアナリストであるEric Seufert氏は、「これは広告主の大部分にとって、壊滅的なものだったと言えるでしょう。この変化が一時的なものでありやがて平均化されるのか、それとも『新しい通常』なのかという点が問題です」と指摘しています。Seufert氏の推定によると、ポップアップが表示されたユーザーのうち追跡を許可した割合が20%だった場合、Facebookの四半期収益が7%減少する可能性があるとのこと。もし追跡を許可したのが10%だった場合、四半期収益は13.6%も減少するとSeufert氏は予想しました。


Facebookのユーザー追跡はプラットフォーム上だけでなく、Facebook製ソフトウェアが埋め込まれた外部の小売サイトにまで及んでいます。これにより、Facebookはユーザーが商品を購入した際の顧客データやウェブサイト上での行動を収集し、同じ商品を買う可能性が高い顧客層(類似オーディエンス)を把握することができました。類似オーディエンスを作成することで、特定の商品に対する潜在的なターゲットに広告を表示し、高い費用対効果を実現することが可能でした。

ところが、人々がFacebookやその他のアプリによる行動追跡を拒否したことにより、重要なデータへのアクセスが失われ始めています。広告代理店・Run DMGのメディアバイヤーであるGil David氏は、同社がクライアントのFacebook広告に毎月100万ドル(約1億1000万円)を費やしており、クライアントの売上についても大部分を把握できていたと述べています。しかし、ATTの導入によりデータの一貫性が損なわれ、記事作成時点では大きなクライアントで売上の64%、小さなクライアントで売上の42%しか把握できていないとのこと。


広告代理店・Homestead StudioのメディアバイヤーであるZach Stuck氏も、以前はFacebookが報告する売上と実際にShopify上で記録された売上のギャップが5%だったのに対し、ATTの導入によって40%以上に広がったと報告しています。「Facebookが得意だったのは、誰が商品を購入したのかを確認し、その人物が他のウェブサイト上でどのように行動したのか、購入以外に何をしたのかを見つけることでした」とStuck氏は述べていますが、データを収集する能力が制限された結果、その精度が低下しているそうです。

データが欠如していると、ターゲッティング広告を表示する際の判断材料が減るだけでなく、「表示した広告にどれほどの効果があったのか」を測定することも難しくなります。かつてFacebookは、「広告から商品を購入した人の年齢層や性別、住んでいる地域」といった情報を広告主と共有していたそうですが、記事作成時点では詳細な情報共有を取りやめているとのこと。一方、Facebookの広報担当者はBloombergに対し、ターゲティング広告のパフォーマンスはiOSの影響で変動すると認めたものの、長期的にはそれほど大きな影響を受けないと主張しています。

また、Facebook広告の重要な部分として、過去に業者のウェブサイトやアプリ、店舗、Facebookページなどを訪れたことがある顧客に広告を表示する「リターゲティング」があります。衝動買いしにくい高価な商品を販売する企業にとって、興味を持っているユーザーに繰り返し広告を表示するリターゲティングは重要ですが、これもユーザーがFacebookによる追跡を拒否した場合は困難になるとのこと。


Facebookの広報担当者によると、同社は効果測定に必要なデータが少ない新たな広告機能の開発に取り組んでいるほか、デバイスに保存されているデータを基にターゲティング広告を表示する技術も検討しているとのこと。その一方で、AppleによるATTの導入は企業が広告予算を効率的かつ効果的に使う能力を阻害していると非難し、「私たちはパーソナライズされた広告とプライバシーが共存できると信じています」と述べました。

Appleは長年にわたってユーザープライバシーの保護を掲げる姿勢を打ち出しており、ユーザーデータを活用するFacebookとは対立状態にあります。Facebookは、広告予算の限られた中小企業にとってターゲティング広告が重要であると主張しており、ATTは小規模ビジネスに壊滅的な影響をもたらすと訴えています。

Herrmann Digitalという広告代理店を経営し、1カ月に250万ドル(約2億7500万円)をFacebook広告に費やしていたというDave Herrmann氏は、ATTの影響が明らかになるまでFacebookへの支出を減らしているとのこと。代わりにインフルエンサーに商品を紹介するための費用に割り当てるなど、小規模クライアントの広告を別の場所に移し始めたそうです。「世界でどれほど多くの企業がFacebookに100%依存しているのかを知っている人はいないでしょう」「(Facebook広告の効果が)40%も低下し、効果が時間と共に低下し続けたら、パニックを引き起こすでしょう」と、Herrmann氏は述べています。

また、Run DMGのDavid氏も、「中小企業は犠牲者です。私はAppleがそのことを十分に考えたのか、それとも中小企業への影響を知っていながら、『私たちは気にしません。これがわたしたちのやることです』と考えたのかはわかりません」と述べました。

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in モバイル,   ネットサービス, Posted by log1h_ik

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