核融合エネルギーの開発をNVIDIAの仮想空間「Omniverse」で行う計画が進行中
世界的な地球温暖化を緩和するためのクリーンなエネルギーとして、核融合エネルギーの実現が求められています。しかし、核融合反応の予測不能な振る舞いを見極めるのが難しく、高いエネルギー入力を必要とするため、なかなか大きく前進できない現状があります。そんな核融合反応を効率良く確実に行う「発電所」として、現実世界の物理法則などを仮想空間上に再現するNVIDIA Omniverseが注目されています。
Scientists Building Digital Twins in NVIDIA Omniverse to Accelerate Clean Energy Research | NVIDIA Blog
https://blogs.nvidia.com/blog/2022/05/30/ukaea-digital-twins-omniverse/
Building a Fusion Reactor Digital Twin in NVIDIA Omniverse - YouTube
NVIDIAの「Omniverse」とは、クリエイティブアプリとワークフローを強化・加速するために無料提供されているオープンプラットフォームです。「リアルタイム3Dデザインコラボレーション」もしくは「仮想世界シミュレーション」として使用することで、NVIDIAは建築・エンジニアリング業、エンターテインメント業、製造業、スーパーコンピューティング、ゲーム開発などの分野で活用できるとしています。このうち、「現実世界の物理的資産やシステムの仮想表現(物理的、物質的に忠実に再現されたシミュレーション)」のことをデジタルツインと呼んでおり、デジタルツインを構築してその中で研究や開発を行うことで、安全かつ効率的に、また資源の節約によりクリーンかつ安価に進めることが期待されます。
NVIDIAが無料版「Omniverse」の提供開始、そもそも「Omniverse」では一体何ができるのか? - GIGAZINE
クリーンエネルギー開発のための核融合研究のためには、仮想空間(デジタルツイン)上に動力装置を正確に設置し、核融合により発生する帯電プラズマの挙動を正確にシミュレートし、実験の制御および保守のシステムを構築する必要があります。マンチェスター大学の教授でありイギリス原子力公社(UKAEA)のデジタル議長であるリー・マーゲッツ教授はこのプロジェクトについて、「あるシステムについて設計変更を行うと、他のシステムに影響を及ぼします」と仮想シミュレーション構築の難しさを語っています。
研究チームは、発電所からエネルギーを運ぶ発電所コア内の中性子輸送をシミュレートしするための「Omniverse Extensions」を開発し、可視光放射のシミュレートも同様に構築しています。これにより、プラズマの状態についての洞察を研究者に与えることができているとNVIDIAはブログ内で述べています。
さらに、「Omniverse Replicator」という開発キットを用いることで、ロボットシステムをトレーニングするための発電所とプラズマの動作の物理的に正確な合成データを大量に生成できるため、将来的に実動するロボット制御および保守システムもトレーニングできるとのこと。
デジタルツインを構築して研究を行うことについて、NVIDIA Omniverseの副責任者であるレヴ・レバレディアン氏は「テレポート」と「タイムマシン」を例に挙げ、「仮想世界という超大国を構築し、その世界の好きな座標にテレポートできるだけでなく、いつでもその空間の任意の時点に戻り探索することができます。また、非常に正確で、物理法則を十分に理解していれば将来何が起こるかを実際に予測できるシミュレーターを持っている場合、本質的に未来へのタイムトラベルを得ることができます。正確なシミュレーションと予測により、この気候変動の状況に対処できることを期待しています」と展望を語っています。
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