磯光雄監督にアニメ『地球外少年少女』についてインタビュー、「いかに没入できるか」を大事にした作品作り
photo by Atsushi Fujimoto
卓越した腕を持つアニメーターであり、2007年にNHKで放送されたテレビアニメ『電脳コイル』では原作・脚本・監督を務めた磯光雄さんの最新作が2022年1月28日から劇場上映中&Netflixで配信中の『地球外少年少女』です。
誰もが宇宙に行けるようになった2045年の日本製宇宙ステーション「あんしん」を舞台に、滞在ツアーに当選して地球から宇宙にやってきた大洋、美衣奈、博士と、地球移住のためステーションでリハビリを行っている月生まれの少年・登矢、同じく月生まれの少女・心葉、さらにステーションの医療担当スタッフである那沙らが、彗星との衝突事故が起きたステーションで、協力・対立しつつさまざまな困難に立ち向かう姿を描いています。
いわゆる「ロボットアニメ」ではないSFもので、しかも極めて珍しいオリジナル作品をどのように作り出したのか、そしてどのような思いをのせているのか、磯監督にインタビューする機会を得たので、いろいろなことをうかがってきました。
オリジナルアニメ「地球外少年少女」公式サイト
https://chikyugai.com/
GIGAZINE(以下、G):
磯監督が携わった作品では、『電脳コイル』を「すごい作品をテレビアニメでやってるなあ」と楽しませてもらったのが印象深いです。本作を拝見して思い出したのは、磯監督が過去に脚本を担当したアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第拾参話「使徒、侵入」でした。
磯光雄監督(以下、磯):
実はちょうど『電脳コイル』のころに、私はGIGAZINEの熱心な読者だったんですよ。『電脳コイル』はいかにもGIGAZINEが取り上げやすそうな作品なのに、「なぜインタビューしに来ないんだ?」と思っていました(笑)
G:
(笑)
磯:
『新世紀エヴァンゲリオン』には初期から参加していて、当初はアニメーターとして声をかけていただき、そこから縁があって脚本も担当させていただいたという形です。当時はシナリオを勉強しながらだったので、尺のことをまったく考えてなくて、定尺20分なのに、「これは2時間分あるよ」と言われて(笑)。私のシナリオは、『電脳コイル』もこの『地球外少年少女』も、他人からは「尺に入らない」ってよく言われるんです。
G:
ええー(笑) どうするんですか?
磯:
今回、例えば第3話もベテランで監督経験もある方にお願いしたら50分800カットになったんですが、そこから削りに削って30分400~410カットぐらいにまで削り込みました。大事なネタは落とさずにそのまま。なぜか、自分でコンテを切れば入るんですよ。
G:
本作でもナノマシンの描写がありましたが、磯監督がナノマシンに感じる魅力的な部分というのは、どういったところでしょうか?
磯:
ナノマシンは……楽だからですね(笑)
G:
(笑)
磯:
もともと小さい構造物が好きというのもありますが、作画で描かなくていいし、シナリオ的にも非常に便利なんです。自己組織化して自在に形を変えられるという。実は『電脳コイル』でも設定上は使っていて、Blu-ray(Director's Edition)特典の没設定集に記載があるので、ご存じの方はいるかもしれません。電脳空間での位置を認識するため、壁の塗装にマイクロマシンが入っていて、自己組織化して電波の送受信ノードになるという設定が書かれています。
G:
本作が企画として姿を見せたのは、2016年刊行の『アニメスタイル010』だったと監督自身がツイートされていました。この画像のところから、どのように今の話になっていったのでしょうか?
蛇足ですが『地球外少年少女』、初出は2016年の雑誌「アニメスタイル010」です。アニメをもっぱら作画方面に掘り下げたマニア向け雑誌で、ボツ寸前の企画書を連載するという記事でした(笑)。興味ある人は手にとって御覧ください。https://t.co/cq7hXrnlxf pic.twitter.com/6BAh5HmmM7
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) October 27, 2020
磯:
いやあ、このまんまじゃないですか?(笑)
G:
まんまといえばまんまですけれど(笑) 那沙なんて、今とはまったく印象が違いますし。
磯:
当時は那沙が登矢と同い歳のヒロイン役だったんですが、この那沙もかわいいですよね。キャラクターに関しては、吉田健一に声をかけようと最初から思っていたので、「この通りには描かないだろうな」と最初から諦めていたんですが(笑)、那沙はちょっと年齢を変えようとは思ってました。登矢に関しては、このときのイメージを維持しようとしてくれたみたいなんですが、本人いわく「できませんでした」と(笑)。登矢の初期イメージとして描かれたものがすごくいい感じで、「これでいこう!さすが吉田くん!」となったのですが、その後「この登矢は二度と描けませんでした」となったりもして(笑)。初期イメージは劇場上映日に発売された「地球外少年少女 設定資料集」に掲載されているので、ご覧ください。
G:
企画自体が最初に生まれたのはいつごろだったんですか?
磯:
アニメスタイルに掲載されたのは2016年なのですが、その2年前、2014年に吉祥寺の居酒屋で、いま横にいる岩瀬プロデューサーと飲んでいるときに企画が立ち上がりました。当初はもっとシビアな話として「未来を舞台にした宇宙モノって、みんなディストピアで、怪物に食われて終わったりするよね。明るいイメージの未来をそろそろ作りたいよね」というところからでした。まあ、アニメスタイルに掲載された絵もちょっとディストピアっぽさがありますけど、「ルナティック」とか科学技術が前進する展開などもあって、基本的にはこの路線からはブレていないところはありますね。
G:
編集作業について、「編集で自分の分身同然の可愛いセリフを自分で悶絶しながら切り刻む羽目になる」というツイートを見かけました。本作でも、できるだけ切り刻みたくなかったネタというのは多数あるのでしょうか。
編集作業が大詰め
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) April 26, 2021
自分の脚本はネタをぎっしり詰め込み過ぎて、編集で自分の分身同然の可愛いセリフを自分で悶絶しながら切り刻む羽目になるのだが、昔は激痛すぎて耐えられなかったのが、最近は痛すぎてだんだん麻痺したのか、セリフを切り刻むのに快感を覚えるようになってきた#地球外少年少女
磯:
これはい~い質問ですね(笑) 私としては、本当は切る前のものも見てほしかったんですが、今の状態でもご満足いただけるようにと思って作っていますので、まずはご覧になっていただければと思います。ただ、本当に重要なシーンも含めて、切り刻んでいます。前編のBlu-rayには第1話のコンテがついてくるんですが、現物のコンテを印刷したかなり豪華なもので、第1話で切ったシーンがこうやってバツ印がついた状態で入っています。
G:
(コンテ集実物のページを見せてもらい)おお、バツだらけ……。
磯:
このバツは全部没です。尺とスケジュールが……いろいろ足りなくて、泣く泣く切ったシーンがこんなにもあるということなんです。Bパート冒頭なんてすごく貴重で、無重力トイレに美衣奈が入るシーンがあるんです。
G:
(笑)
磯:
このシーンはむちゃくちゃいい名台詞が入っているので、本当にもったいなくて、絶対に復刻バージョンを作らなければいけないと思っています。その時が来ましたら、ぜひご支援ください。しかも1話だけでもこんなにあるのに、他の話数でも本当にいいシーンをばさばさ切らざるを得なくて……。いいシーンに限って切れるんです。膨らませて余裕ができたシーンとか説明的じゃないシーンとか、わりと必須じゃないシーンが多いので……。このままでは終われないですね。そのシーンを切っても、見に来たお客さんには十分楽しんでいただけるものになっていると思うので、まずは見ていただいて、その上でより楽しい、本来の「ディレクターズカット版」をぜひ世に出したいなと思っています。これは絶対に記事に書かないとダメですよ!(笑)
G:
はい(笑) 磯監督は本作の発表にあたって複数のインタビューを受けていて、その中でWIRED.jpに掲載されたインタビューで「『地球外少年少女』で描こうとしている内容は、下手すると30年早過ぎる」と答えていましたけれど、監督としては、どういった部分が「30年早すぎる」と考えているのでしょうか。
磯:
作っていた当時、アニメを取り巻く人たちは見る人も作る人もゆとり世代が主役になってきていると感じていました。だから、この人たちの意見は無視できないんですけれど、話せば話すほど「この人たちは宇宙には行かないだろう」と……。
G:
(笑)
磯:
一番宇宙から遠ざかっているんです。それこそ、コンビニにすら行きたくないぐらいに外に出たがらないという人もいて、これは宇宙に連れて行くのは無理だなと諦めていました。ところがそうやって悩んでいるうちに、ゆとり世代でも「これはもしかしたら宇宙に行くかも」という人たちを発見したんです。それがYouTuberで、美衣奈というキャラクターになりました。美衣奈を発見したことで、この件については決着を見たかなと。
G:
ああー、なるほど!
磯:
ちょっと、日本人全体が「未来への希望を持つのはあまりいいことじゃない」と思うようになってきているんじゃないかと感じるんです。たぶん、前の世代が、未来をあおりすぎた。『ドラえもん』に代表されるような、「未来さえ持ってくれば勝ち」の「未来教」というか……未来を盲目的に信じすぎて、1999年にUFOが来るかと思ったら来なくて挫折して「あんな大人になっちゃダメよ」となって今に至るんだろうなと。
G:
なるほど(笑)
磯:
SFと呼ばれたジャンルも、未来予測がどんどん長期になり、舞台も遠い宇宙になった時期があって、なかなか身近な問題を解決してくれない、今すぐ幸せにしてくれるものではなくなっちゃった。科学技術もそうで、進化するものだからそれは仕方がないんですけど、その遠ざかってしまったものを、もうちょっと身近にしたいなと。あと、暗い未来はもう十分かなぁって。どっちを向いてもディストピアはいっぱいあるのに、そういうものばっかり繰り返すのはなぜなんだろうということをずっと疑問に思っていました。やっぱり、もう一度明るく楽しい未来から始めようよと。まあ、本作でも事故が起きて暗くなりはするんですけれど(笑)、それを解決して、やがては楽しい思い出になるという、そういう作品になればいいなと。
G:
おおー。
磯:
そうは思いながらもなかなか、社会全体が、日本全体がやる気をなくしている状況ですけれど……ゆとり世代がそういう空気を象徴しているようなイメージになってる気がしますが、実はこれって、ゆとり世代にうまくだまされているなと思っているんです。
G:
だまされている?(笑)
磯:
ゆとり世代と話していると本心を言わないですよね。やる気がない「ふり」をしている。話を聞くと、本当は小さなところでがんばったり、いろいろやってはいるんです。そういう人たちを、今すぐむりやり遠くの宇宙まで連れて行かなくていいんじゃないかって思いました。彼らのわかるところまで、面白そうだなと思うところまで付き合ってくれればいい。そういう付き合い方を、美衣奈を通して見つけた気がします。そこで、とりあえず宇宙にネット環境とコンビニを置いてみました。
G:
それでネットとコンビニが出てくるんですか(笑)
「あんしん」内部の様子
磯:
ネットとコンビニがあればゆとり世代も来てくれるだろうということで。ないと、自分の世代でもまず行かないですよね(笑)
G:
まさに「明るくて面白い宇宙や未来をアニメの舞台として描きたい!」というのは、公式サイトで発表されている監督のコメントにもありました。本作にはいろいろな近未来技術が登場していて「まだ存在しないがいかにもありそう」というものもありますが、監督が「さすがにこれは無理だろう」と思いつつ描いたものはありますか?「ありそうに描いたけれど、実現の難度は相当高いはずだぞ」というような。
磯:
基本的には「できそうだな」と思ったものは全部できるんじゃないかと思っています。ただ、「実現できるかどうか」についてはあまりこだわらないようにしています。
G:
こだわらない。
磯:
はい。SFと呼ばれるジャンルは「未来予測」に走りすぎた時期があったと思うんです。本作のジャンルがSFかと聞かれたときは「SFかどうかはわからない」と答えるようにしていて、こちらからはSFとは言ってないです。それで、SFというジャンルがなかなか先に進めなくなっている気がするのは、正確な未来予測みたいなものを求められすぎたんじゃないかと思うんです。アシモフとかクラークみたいな先達がバシバシと言い当てた時期があったので……。『電脳コイル』も10年早かったと言われて、10年後に『ナントカGO』が始まって急に取材が来たりもしたけれど、あくまでフィクションの中の未来というのは「言い当てる」よりも、今の人が見て面白いか、想像力が膨らむかということが大事だと思います。
G:
なるほど。
磯:
未来がディストピアだとよくないと思うのは、未来のことを思い浮かべるとき、やっぱり楽しいことを考えたいじゃないですか。科学技術が人を楽しくしてくれた時代はピークを過ぎましたが、科学技術は基本的には人を幸せにするものであって欲しいと思っていますし、そういうものをピックアップしてストーリーに盛り込んでいくべきです。フィクションというのはどこを切り取ってどこを見せるかで変わるもので、人間でも、醜いところばかり見せようと思えばそうできますし、トイレに行ってるシーンばっかり見せたら「この人はトイレの臭いがする人」になるでしょ。本作でも、主人公の振る舞いについていいところも悪いところもあるという撮り方をして見せるシーンがありますけれど、未来について、悪いことばっかり言わないで、いいこともきっとあるから、みんなで想像して、もうちょっと楽しい未来を作っていこうよと。そういう意志を持って作っていきました。
G:
WIRED.jpのインタビューで、発表時の周囲の反応について「予想以上に反応がよくて、驚いています」と答えていました。監督としては、あまり反応がよくないと覚悟していたようですが、それはなぜなのでしょうか?
磯:
宇宙という題材をみんな扱わなくなっていたので、あまり受けないんだろうな、と。まず、だいたいこういう話は企画会議ではねられてしまいますから。会議をしている人たちは年齢が高い人が多いですから、そういう世代ほど、昔はすごく宇宙ものが流行していたけれど売れなくなっているということを知っていて「今の若い人には受けないんじゃない?」と自粛してしまうところがあるんです。自粛病にかかっているといいますか……。
G:
なるほど。
磯:
あと、新しいことを始めようとする人を、遠巻きにして触らないようにする日本人の性質もちょくちょくあるように思います。そこについては、誰かが「やるんだ、面白いんだ、面白くなるぞ」と思って、面白いモノを作っていくことで覆せるんですよ。アニメ業界でそういう仕事を最近見なかったので、ぜひやりたいなと思いました。そうやってアピールしてみると、意外にいい反応に出会うようになって、それで先程のツイートになりました。面白さが伝わればこういうジャンルも再び面白くなるんだな、という実感を持てました。そういうことを忘れてる人は、安心安全な路線の三番煎じ、四番煎じをやっていくんだろうけど、「もういいよ、それは」と。それはもう十分見ました。「なぜそうじゃないものを作ろうとしないんだろう」と不思議に思っています。自分は、この仕事に就く前の自分に聞いたら「こういうものを見たい!」と思っていたものがあるはずで、そういう気持ちを忘れないようにしなくちゃ、と思っていました。自分自身も含め、歳を取ると取り入れる情報を区切って世界を自ら小さくして行く気がしちゃって。そういう「自分を狭める話」にはしたくないなと思いながら作りました。そこはブレずに、最後までやれたと思います。そういう思考の枠はAiの用語で言う”フレーム”の概念に近いんですけど、この作品でもそのテーマをちょっと扱ってますね。
G:
監督は「自分では抱えきれない恐怖や憎悪に飲み込まれそうになったとき、何をすればいいか。物語を作ればいいのだ」と、クリエイターへのヒントになりそうなツイートをしていましたが、本作の物語を作るときも、なにか原動力になった恐怖や憎悪というのがあるのでしょうか。
自分では抱えきれない恐怖や憎悪に飲み込まれそうになったとき、何をすればいいか。物語を作ればいいのだ。
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) February 6, 2021
磯:
いつのツイートでしたっけ?
G:
2021年2月です。
磯:
それだと、第1話を作っているころかな。なんだっけ……ずーっと戦いながら作ってきたから心当たりが多すぎてわからない(笑) 自分は子ども時代、どちらかというとネガティブなものの中で育ってきたので、ネガティブな方に行きがちなんです。それを救ってくれたのがフィクションの世界で、自分にとってフィクションというのは、ゆりかごであると同時に、理不尽なものから身を守る武器の1つでした。現実だとどうにもできないような難題があっても、フィクションの世界では何かできるんじゃないか。それが物語を作る人としての原点だと思っています。確か村上春樹さんも似たようなことを言ってて、現実にはどうにもならないものでもフィクションでは別な見え方を描くことができる、ということを言っていて、すごく共感するんですよね。これは有名な人だから引用するのではなく、本当にそう思うんですよ。
G:
ふむふむ。
作中に登場する登矢も、いろいろなものとの「戦い」を抱えています。
磯:
誰かに殴られたとしても、直接殴り返すのではなく、物語で殴り返そうと。……商業作品って、いろんな人に殴られるんです。本来は面白いものを作る場なのに、そうじゃないことをすごく求められて、時間を奪われてしまうことがあります。そういうものと戦わなくてはならないとき、自分たちのようなエンタメであるにせよ、アートであるにせよ、あるいは歌うにせよ、何にしてもクリエイターが戦うべき方向は、やっぱり「作品を作ること」です。作品の力で戦うことで、暴力とか偏見とか、そういうものに対抗できるんです。物語、フィクションって、我々人間が獲得した一つの道だと思います。なかなか思ったようには出来ないんですけど、理不尽にさらされた時、おなじようにやり返して、相手を罵倒したり、誰かを見下す側に立つのではなくて、物語を作って、物語の力で人の心を変えるのは、正しいやり方だなという風に、常に思います。
G:
なるほど。
磯:
だから、理不尽にさらされてる人たちには、ぜひ作品を作って欲しいです。マンガやアニメ、フィクションの世界について、今の日本ほど豊かで、層が厚い国はないんじゃないですか。その割にお金がもらえないなどの問題はありますが、本当に、この分野で日本は人類の中でも突出して先に行ってる先進国だと思います。暴力とかいろいろな難しい問題と戦う手段として物語があるんだということを、もっとみんなが認識するといいなと、そういう思いも込めました。
G:
話はまた変わりますが、Twitterで「見られてはまずいものを迅速に証拠隠滅する方法」というツイートを「小学生の時思いついて友達に伝授してた技だ…!」と引用RTされていたのですが、磯監督はどういう小学生だったんですか?
小学生の時思いついて友達に伝授してた技だ…! https://t.co/R2roRvWOsr
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) June 26, 2021
磯:
まあ、変な小学生でした(笑) そのツイートはイタズラ書きを消す方法だと思いますけど、このイタズラ書きを証拠隠滅する方法は小学校4年生ぐらいだったかな、クラスメートが教卓に「バカ」って掘っちゃったんですよ。それで、子どもってぐじゃぐじゃって消そうとするけど消えないじゃないですか。「そうじゃない、こうやるんだ」って、「バカ」の字の線の左右に同じ角度の線を何本も引いて縞模様みたいにしていけば、もともとの線は見えなくなるでしょ。そういう変なことばかり考えていた子ども時代でしたが、まあ、その頃の話はあまり喋りたくないんですけど、自分の子ども時代は、先ほど出たような、「恐怖と憎悪」で塗りつぶされているので。この話をすると長くなっちゃうんですけれど。
G:
それと関連するかもしれない話で、ツイコミ連載のマンガ『パラダイムシフト』について言及して「自分が子どもの頃のアニメは自分が生き残るための最後の手段だった」というツイートがありました。お話いただける範囲でうかがえればと思うのですが。
すごいなあこれ
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) January 17, 2021
前半は父親の虐待とか自分の話かと思うくらい酷似してて震えた
医者の治療は一度も受けた事はないんだけど自分にとってはアニメが治療薬みたいなものだったなあ
本来アニメは楽しむためにあるんだろうけど自分が子供の頃のアニメは自分が生き残るための最後の手段だったな https://t.co/AiNYNchXfz
磯:
このインタビューはどこに向かっているんでしょうかね(笑)。これはもう、そこにある通りで、自分にとってアニメは楽しむものではなく生き残る方法でした。暴力や理不尽から逃れるために、すがる思いで、逃げ込んで閉じこもったのがアニメの世界です。でも、それは私たちが子どもだった時代にはよく聞く話で……いわゆる不幸な立場にいる子どもという、同じような幼少期を送っている作家を多く見てきましたよ。今はそのころよりはマシな時代になったのではないかと思いがちなんですが……いや、大人からはあまり見えていないだけで、そうでもないな。今も同じような、あるいはもっとひどい境遇の子どもはたくさんいると思う。私たちの頃も子どもの不幸な境遇は大人には見えない所にあって、「戦争がなくて、食うものもあるのに、なにが不幸なんだ」とよくマウントされましたね。お前たちは俺たちに比べれば幸せなはずなのに、何が不満なんだと。
G:
なるほど。
磯:
自分も大人になってそういう話を繰り返してマウントしてしまいそうになる。それ自体が不幸だと気づかない人たちが次の不幸を生むので、そうやってマウントするのは断ち切らなきゃと思います。それぞれに幸せと不幸せがあり、人それぞれに耐えられないものがあって、それぞれの解決が必要なんだろうと。いずれにしても、そういう理不尽と戦う方法として、仕返しをするのではなく、作品を作って作品で殴ろうと。とびきり面白い作品を作ってみせれば、そういうものに対抗する力を生むんだと、とても思います。
G:
磯監督は子どものころに見たアニメとして『未来少年コナン』を挙げて、「アニメは人が死んで感動が当たり前だった時代に初めて死ぬ以外のシーンで感動した」とツイートされていました。
未来少年コナンでTweetし損ねた思い出まとめ
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) November 3, 2020
・ギガント発進シーンはβ1でリピートテープ作って一日中回してた時期があった
・アニメは人が死んで感動が当たり前だった時代に初めて死ぬ以外のシーンで感動した
・1話で「またアニメばっか見て勉強しなさ…」と言いに来た母親がそのまま最終回まで見てた
磯:
『未来少年コナン』に限らず、あの時代のアニメは突出して素晴らしいものが多く、人知れず不幸な子どもたちを大勢救っていたと思います。当時、神風特攻的な死に様を描くことでみんなが泣くというのが流行していて、「どのキャラがどうやって死ぬか」で面白さを測るような、死のインフレ状態でした。その中で「誰かを救出する」とか「死ななくてよかった」とか、そういうストーリーでも感動するという経験をしたのは初めてで、1つの原体験になりました。もちろん、いろいろなフィクションがあってよくて、誰かの死を真摯(しんし)に描くというのも、作品がやるべきことの1つだろうと思います。
G:
はい:
磯:
誰しも「死んでしまうかもしれない」と追い詰められるような経験を一度はしているのではないかと思います。でも、生き残って何年後かに振り返ると、自分の歴史の1ページにすぎないものになっていたりする。フィクションの登場人物だとしても、そういう、乗り越える経験をした人を見ることで「もしかして自分も乗り越えられるかもしれない」と思えるかもしれない。今この瞬間に追い詰められて、そういう物語が必要な人がいるんじゃないか。個人的には、フィクションの本来の役割、最前線というのはそこなのではないかと思ってます。自分の経験からも、物語には人を絶望的な状態から救う力があると思う。もちろん、人によって状況は違うので一概には言えませんが、誰かを救うために物語を作り得るのではないかと、いつも思います。自分の作品がそうなれるかはわかりませんが、いつの日か、そのような物語を作れたらと思います。
G:
引き続き『コナン』にちょっと関連するのですが、モンスリーの心変わりが納得いかず、スタジオジブリにいるとき宮崎駿さんに直接疑問をぶつけたところ「お客さんが許せばいい」と答えてもらったとのツイートがありました。この「お客さんが許せばいい」というのは、シナリオを書くときヒントになっていますか?
若い時、このモンスリーの心変わりがあまり納得行かなかった。あれほど頑なで敵意を持っていたキャラが、それも思想の変化ではなく津波という自然現象をきっかけで180度変わるのはどうなんだろうと。
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) September 20, 2020
若い時、このモンスリーの心変わりがあまり納得行かなかった。あれほど頑なで敵意を持っていたキャラが、それも思想の変化ではなく津波という自然現象をきっかけで180度変わるのはどうなんだろうと。
— 磯光雄IsoMitsuo 新作「地球外少年少女」前編公開中! (@IsoMitsuo) September 20, 2020
磯:
ヒントどころか、随所で使わせてもらってるし、とても重要な教えをもらったと思っています。例えばこうした宇宙を舞台にした作品などを作っていると、リアリティにのみこだわる人とよく出会うことがあります。「現実ではこのようにはなりません」と。まあそういうものもある程度必要なんだけど、それを教えるような作品があってもうれしくないわけです。
G:
ふむふむ。
磯:
ジャンルによってはそういう正確な情報を確認するためにきてる人も一定数いると思いますが、この作品はドキュメンタリーではなくエンターテイメントのつもりで作ってます。お客さんの多くは、厳しい現実を知りたくて来ているわけではなく、厳しい現実を忘れられるものが欲しくて来てるんじゃないかと思います。まさに、自分自身が欲しかったのがそういう、つらいことを忘れて没入できるものだったこともあって、いかに没入できるかというのがすごく大事だと思ってます。そもそもアニメというのは、すべてウソでできてるんですよ。それはもう明らかなことで、作り手もお客さんも、最初からわかっています。だって、絵で描いているわけですから、その人物は実在しないに決まっています。でも、それをわかった上で、描かれた人物が泣いているときに「なぜ泣いているんだろう」と心配する。それがアニメの力です。
G:
確かに。
磯:
必要なのは「リアル」でなく「リアリティ」で、「この人は本当にいて、こういう気持ちなんだ」というのを感じ取って、没入しちゃう。イヤなことを忘れて、現実では得がたいものを得られる体験を提供する。それがこの仕事のはずなので、そこは見失わないようにと思っています。その意味で今回の「宇宙」という舞台はすごく難しい場所で、物理法則とか数字の間違いを血眼になって探す人たちがいるんですよね。まあ、今現在プロフェッショナルしかいない領域で、現実的なお金や命に関わる間違いに敏感になるのもとてもよくわかるんです。でも、今回の宇宙に関して言うと、これから商業宇宙が始まる時代に、プロだけが支配的だった世界に、素人の観光客とか、興味本位の宇宙ファンといった、新しい価値観がなだれ込むことになる気がしてます。今までプロが支えてきた価値観はこれからも絶対に必要なんですけど、それ以外の人々が参加する新しい時代を見越して、新しい世代が楽しく遊べる領域があったら良いなと思いました。そのため、この作品は企画段階から、プロ側の目線ではなく、素人目線に徹しようと思っていました。
G:
ちなみに、磯監督は本作を最後まで作りきったあとに通して見てみて、どのような感想を持ちましたか?
磯:
うーん……直したいカットが300カットぐらいあるな、と(笑)
G:
(笑)
磯:
あと、泣く泣く切ったシーンの中に「あれを入れることができればもっと楽しんでもらえたかも」という思いがあるので、なんとか復活させたいなと思っています。
岩瀬智彦プロデューサー:
そこ以外のところでお願いします(笑)
磯:
(岩瀬Pを見て)このことを言えばいうほどMPが減る人がいるから(笑) はい、今の状態でも十分楽しんで見てくれる人がいっぱいいたらいいなと思います。
G:
作品のことから離れたことまで、長時間いろいろお話いただきありがとうございました。
『地球外少年少女』は全6話構成で、劇場上映は1話~3話を前編として2022年1月28日から劇場上映中、4話~6話は後編として2022年2月11日から上映されます。また、Netflixでは全6話が一挙に配信されています。
オリジナルアニメ『地球外少年少女』本予告/新宿ピカデリーほかにて2週限定劇場上映 - YouTube
後編のムビチケは2022年2月10日いっぱいまで購入可能。価格は税込1500円で、オンライン購入だと特典として美衣奈、博士、那沙のスマホ壁紙が付属します。
また、劇場来場特典として、前編は描き下ろしミニ色紙が配布されます。イラストは磯光雄監督、キャラクターデザイン・吉田健一さん、メインアニメーター・井上俊之さんの3種類があり、数量限定のランダム配布です。
後編の劇場来場特典は磯さん、吉田さん、井上さんがそれぞれ担当したシーンからセレクトしたお気に入り原画の複製で、2枚1セット・計3種の数量限定ランダム配布。
そして、後編公開の2022年2月11日から前編・後編のBlu-ray&DVDが劇場で発売されます。価格はBlu-rayが各税別8000円、DVDが各税別7500円で、前編にはインタビューで磯監督が言及していた第1話のコンテ集、後編には第6話のコンテ集が付属します。
追記:
『地球外少年少女』のBlu-rayはAmazon.co.jpでも購入可能です。
Amazon | 【Amazon.co.jp限定】地球外少年少女 前編「地球外からの使者」劇場公開限定版 Blu-ray (特典映像視聴用シリアルコード付)*前編購入対象者用 | アニメ
Amazon | 【Amazon.co.jp限定】地球外少年少女 後編「はじまりの物語」劇場公開限定版 Blu-ray (特典映像視聴用シリアルコード付)*後編購入対象者用 | アニメ
◆作品情報
・スタッフ
原作・脚本・監督:磯光雄(「電脳コイル」)
キャラクターデザイン:吉田健一(「交響詩篇エウレカセブン」シリーズ、「ガンダム Gのレコンギスタ」他)
メインアニメーター:井上俊之(「電脳コイル」、「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」他)
美術監督:池田裕輔
色彩設計:田中美穂
音楽:石塚玲依
音響監督:清水洋史
制作:Production +h.
配給:アスミック・エース/エイベックス・ピクチャーズ
製作:地球外少年少女製作委員会
主題歌:春猿火「Oarana」(KAMITSUBAKI RECORD)
作詞・作曲:Vincent Diamante
・キャスト
相模登矢:藤原夏海
七瀬・バイコヌール・心葉:和氣あず未
筑波大洋:小野賢章
美笹美衣奈:赤﨑千夏
種子島博士:小林由美子
那沙・ヒューストン:伊瀬茉莉也
ほか
・上映劇場
東京:新宿ピカデリー、MOVIX亀有、立川シネマシティ
神奈川:川崎チネチッタ
千葉:京成ローザ⑩
埼玉:MOVIXさいたま
愛知:ミッドランドスクエアシネマ
大阪:なんばパークスシネマ
兵庫:MOVIXあまがさき
京都:MOVIX京都
公式サイト:https://chikyugai.com/
公式Twitter:@Chikyugai_BG
©MITSUO ISO/avex pictures・地球外少年少女製作委員会
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