サイエンス

「退屈」がサディスティックな言動を引き起こす要因との研究結果


粗暴な人や意地悪な人が気だるげにしているシーンは漫画などでよく描かれます。暇を持て余すことが人の行動や心理に与える影響を調べた9つの研究により、退屈が人を傷つける行動の要因だということが分かりました。

PsyArXiv Preprints | On the relation of boredom and sadistic aggression
https://psyarxiv.com/r67xg/

The Dark Side of Boredom | Psychology Today
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-asymmetric-brain/202009/the-dark-side-boredom

Boredom found to be a factor in sadistic behavior
https://medicalxpress.com/news/2022-01-boredom-factor-sadistic-behavior.html

自分の愉悦のために人に危害を加える人、つまりサディスティックな行動を起こす傾向がある人がいることはよく知られていますが、その心理的な要因についてはあまり理解が進んでいません。そこで、デンマーク・オーフス大学の心理学者であるStefan Pfattheicher氏らの研究チームは、サディスティックな行動に関する9つの研究を分析して、「退屈がサディスティックな行動の原因である」との仮説を検証しました。

◆研究1:サディスティックな性格と退屈についての研究
1つ目の研究は、6つのグループのボランティアにアンケートを実施して性格診断を行ったもの。この研究は退屈を主要なテーマにした研究ではありませんでしたが、偶然入っていた退屈に関する設問と回答者の性格を分析したところ、6つすべてのグループで「日常生活の中で慢性的な退屈を感じている人はそうでない人よりサディスティックな傾向がある」という結果が得られました。


◆研究2:ネットの荒らしと退屈についての研究
2つ目の研究は、オンラインで人に嫌がらせや攻撃的な言動をする荒らしに関する研究で、196人のボランティアに「話のネタにするために人にショックサイトのURLを送ったことがある」「オンラインフォーラムや掲示板のコメント欄を荒らすのが好き」といった質問をするというものです。この研究でも、日常的で慢性的な退屈を感じている人はインターネット上で荒らし行為を働く可能性が高いことが分かりました。

◆研究3:軍人と退屈についての研究
3つ目は、軍隊における兵士同士のサディスティックな行動についての研究です。この研究が選ばれたのは、戦地では残酷な行為が発生しやすい上に、軍隊の任務の中には長時間待機しなければならないものも多く、兵士たちが退屈にさらされることが多いからとのこと。現役の兵士もしくは退役軍人のボランティア289人を対象に、「任期中に退屈を感じることが多かったかどうか」や「仲間を傷つけるような冗談を言ったことがあるか」といった設問に答えてもらったところ、この研究でも退屈にさらされた兵士は仲間に対してサディスティックな行動をとりやすいことが分かりました。


◆研究4:子どもを持つ親と退屈についての研究
4つ目は、親が子どもに対して行うサディスティックな行動、つまり児童虐待についての調査結果です。子どもの親300人に対してオンラインアンケートを実施したこの研究では、一般的な親はおしなべてあまり退屈しておらず、サディスティックな傾向も低いとの結果が出ました。しかし、日常生活や育児の中で退屈を感じている親は、「時々我が子を犠牲にしたジョークを楽しむことがある」「他人が我が子をばかにしたりからかったりするのを面白いと思うことがある」といった設問に対して当てはまると答えやすい傾向があることも判明しました。

◆研究5:サディスティックな妄想と退屈についての研究
5つ目は、実際の行動ではなく空想に関する研究で、退屈を感じている人が「銀行強盗をする想像」「悦楽のために誰かを銃で撃つ想像」といったサディスティックな空想をしやすいかどうかを調べるというものです。500人のボランティアを対象にオンラインで行われたこの調査でも、日常生活の中で退屈を感じることとサディスティックな空想をすることの間には、強い関連性があることが分かりました。


これらの5つの研究は、退屈とサディスティックな行動の関係性を強く浮き彫りにするものでしたが、いずれも本人からの自己申告に頼ったものでした。そこで研究チームはさらに、心理学的な手法に基づく実験を行った研究4件も分析しました。

◆研究6:残酷な行動と退屈についての研究
6つ目の研究は、129人の被験者を2つのグループに分けてから、一方には滝が流れるだけの退屈な映像を、もう一方にはアルプス山脈をテーマにしたドキュメンタリー映画をそれぞれ20分間見てもらうというもの。各被験者にはハエの幼虫、つまりウジ虫が入った容器とコーヒーグラインダーが示され、「映像が退屈だったら腹いせにウジ虫をすりつぶして殺しても結構です」と案内されました。

以下が、その実験装置の様子です。ウジ虫が入ったコップには、より残虐性が増すように「Toto」「Tifi」「Kiki」と名前が書かれており、被験者はその気になればコーヒーグラインダーの中に最大3匹のウジ虫を投入することができるようになっていました。


この実験の結果、少なくとも1匹のウジ虫をコーヒーグラインダーの中に入れた被験者は合計13人で、うち12人は退屈な映像を見た人でした。この結果は、退屈が虫を残酷に殺す行動に結びつくことを示しています。なお、実験後の被験者らには「コーヒーグラインダーには細工が施されており、ウジ虫を入れても死なないようになっていた」との種明かしが告げられました。

◆研究7:意地悪と退屈についての研究
7つ目の研究は、634人の被験者に参加報酬として1ドル(約114円)を渡してから、他の被験者の持ち分を増やしたり減らしたりするかを選ばせる実験です。具体的な手順は、被験者に「他の被験者の報酬を増やすボタンと減らすボタン」を示した後で5分間の映像を見せるというもの。2つにグループ分けされた被験者のうち、一方は石が映るだけの退屈な映像を、もう一方はマジシャンがパフォーマンスをする面白い映像を見ながら、ペアになった他の被験者の報酬を増やすか減らすかを選びました。

この実験の結果、面白い映像を見た被験者が他の被験者の報酬を減らして意地悪をする確率は5.1%だったのに対し、退屈な映像を見た場合では11%と倍増しました。また、あらかじめ実施した性格診断の結果と被験者の行動を照らし合わせたところ、サディスティックな性格の人ほど退屈の腹いせに他の人の報酬を減らしていた一方、サディスティックではない人は退屈であろうとなかろうと他の人に意地悪をすることがなかったそうです。


◆研究8と9:意地悪と退屈についての研究の応用
8つ目の研究は研究7の実験から「他の人の報酬を増やすボタン」をなくすというもの。つまり、被験者には他の人に意地悪をするか何もしないかの選択肢しかありませんでした。この実験では、面白い映像を見た被験者が他の人の報酬を減らす確率は21.7%だったのに対し、退屈な映像を見た被験者では36.1%でした。つまり、他の人の報酬を増やす選択肢がない場合は他の人への意地悪が増える傾向がありましたが、その傾向も退屈からの影響を受けたことになります。

9つ目の研究では、研究8と似たようなシチュエーションを第三者の視点から見てもらうというものです。具体的には、被験者に対して「ある金銭分配ゲームの参加者のペアに1ドル与えましたが、1ドルをどう分けるかを決められるのは参加者Aだけでした。その結果、参加者Aは自分の取り分を70セント、相手の取り分を30セントにしてしまいました。あなたはボタンを押して参加者Aの報酬を減らすことができます」と説明しました。


そして、被験者に退屈な映像か面白い映像を見せて、不平等な決定をしたゲームの参加者Aに意地悪をするどうかを決めさせたところ、面白い映像を見た被験者の65.6%、退屈な映像を見た被験者の76.5%が報酬を減らすボタンを押したとのこと。このことから、不正を目の当たりにした場合は不正を働いた人を罰しようとする傾向があり、その判断も退屈の影響を受けることが示されました。

これらの9つの研究を総合した結果から、研究チームは「退屈は快感を得るために人を傷つける動機になることが分かりました。しかし、実際に生き物の命を奪うといったサディスティックな行動に出るかどうかはその人の性格にも影響を受けます。つまり、サディスティックな性格を持つ人が退屈するとサディスティックな行動に走りますが、ほとんどの人は退屈だからといってすぐさまサディスティックな行動をすることはないようです」と結論づけました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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