「研究論文がSNSで著名な学者に紹介されること」が研究者の求職活動にメリットをもたらすとの研究結果

博士号を取得して大学や研究機関の職を得たいと考えている研究者にとって、執筆した研究論文は重要な自己アピールの材料となります。実際に著名な学者を「インフルエンサー」として採用し、Twitter(現X)で求職者の研究論文を紹介させた実験により、SNSで研究論文が著名な学者に紹介されることによる影響が明らかになりました。
Social media promotion improves job market outcomes | PNAS
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2528289123
The economics of getting noticed: what a Twitter experiment revealed about academic hiring
https://www.scienceofmoney.org/when-a-famous-economist-shares-your-work-the-hidden-payoff-of-an-online-boost-642/
一般的に、ソーシャルメディアで注目を集めた論文は被引用数が多い傾向にありますが、この関係を単に「SNSで注目を集めたから」だと断言することはできません。なぜなら、「オンラインで話題になる論文は内容が優れているから」「豊かな人脈を持った研究者の論文が話題になりやすいから」といった要因を排除できないためです。
ミシガン大学の研究チームは新たな研究で、「SNSで著名な学者に宣伝されたかどうか」という一点が論文および著者である研究者にもたらす影響について調べるため、実際にTwitter(当時)で実験を行いました。
実験に参加したのは、経済学の博士号を取得した学生たちです。一般に経済学の博士号を取得した学生たちは、執筆した論文を自己アピールの材料として、大学や研究機関の採用枠を争い合います。採用プロセスは段階的に進み、最初の段階では短い「面接」があり、面接を通過すると「フライアウト」というキャンパスを訪れての講演を行い、フライアウトで合格すると「内定」が出るとのこと。
経済学分野には根強い不均衡が存在しており、女性の研究者は自分の論文をオンラインで共有する可能性が低く、マイノリティの研究者はソーシャルメディアのフォロワー数が少ない傾向にあります。研究チームは「著名な学者による後押し」が、こうした格差を埋める役に立つのかどうかという点にも着目しました。

研究チームは2022~2023年の採用シーズン中に実験を行いました。まずは経済学分野における数千人の求職者を特定し、次に「Econ Job Market Helper」という実験専用のTwitterアカウントを作成して、フォロワー数を2000人以上に増やしました。
さらに研究チームは、著名な経済学者80人を「インフルエンサー」として採用しました。これらのインフルエンサーのTwitterフォロワー数は平均約1万3450人で、Google Scholarでの引用数の平均は約8590件と学術的な地位も高かったとのこと。
そして、研究チームが求職者にアンケートを行って自身の論文についてツイートするよう依頼したところ、実験開始前に論文をオンラインに投稿していた519人の求職者がツイート(投稿)しました。これらの求職者はランダムにグループ分けされ、一部の求職者のツイートは「研究分野の類似度が高いインフルエンサー」に引用リツイート(引用リポスト)されました。インフルエンサーがツイートを引用する際の文言やテンプレートは、研究チームがメールで送信したとのことです。
結果を分析したところ、インフルエンサーによって引用されなかった対照群のツイートは平均約899ビューにとどまりました。一方、インフルエンサーに引用されたツイートのビュー数は約3970回も増加し、いいねの数も約303%増加しました。つまり、著名な学者による後押しは論文のリーチを大幅に増加させたというわけです。

インフルエンサーによる引用は論文のリーチを広げましたが、就職活動における結果はまちまちでした。面接の段階では、インフルエンサーに引用された介入群の方がわずかに良い結果を示しましたが、結果は有意ではありませんでした。これについて研究チームは、この年は雇用主が面接の招待状を送るタイミングが例年より早かったため、インフルエンサーによる引用が行われた時期には、すでに招待状が送り終わっていたためかもしれないと指摘しています。
フライアウトの段階になると影響がより明白になり、対照群の候補者は平均5.4件のフライアウトの招待を獲得した一方、介入群は平均で20%多い招待を受け取りました。また、対照群の内定件数は平均で約3件で、介入群は対照群より約0.4件多い内定を獲得しましたが、この効果は統計的にわずかに有意な程度だったとのこと。
今回の研究で最も注目するべき点は、性別による違いでした。女性では対照群の内定が平均3件だったのに対し、介入群の内定は0.9件多い内定を受けましたが、男性やその他のグループではインフルエンサーの引用による有意な効果はみられませんでした。この結果は、オンラインで自身の研究成果を宣伝する頻度が低い女性にとって、上級研究者の後押しが有効である可能性を示唆しています。
研究チームが引用リツイートによる就職活動への効果を詳しく調べたところ、インフルエンサーのフォロワー数や引用した際の言葉遣いなどの要因よりも、「インフルエンサーの社会的地位」が重要であることが判明。インフルエンサーの論文の被引用数が多いほど、後押しされた求職者がフライアウトに招待される数が多かったとのことです。研究チームは、「学術界のソーシャルメディアにおいては、誰がその研究成果を共有するかが、どれだけ熱心に共有するかよりも重要です」と結論付けました。
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