「AIにより雇用が崩壊することはない」と経済学者が語る

生成AIの登場により複数の企業がAIの導入を理由に人員削減を実施しており、これにはMeta・HP・Cisco・GitLabといった企業も含まれます。このままいけば雇用が崩壊すると考える人もいますが、労働経済学者のキャスリン・アン・エドワーズ氏はこの説に反対しており、その理由を語りました。
An economist's case against the AI jobs-pocalypse
https://www.platformer.news/an-economists-case-against-the-ai-jobs-pocalypse/

ニュースプラットフォーム・Platformerのケイシー・ニュートン氏は、AIが雇用を奪うのかについてエドワーズ氏に意見を求めました。エドワーズ氏はAIによる雇用不安の多くは誇張されたものであると言及し、AIにより永久に人々が失業するようなことはないと、きっぱり否定しています。
エドワーズ氏は「職場におけるテクノロジーは労働の性質を変えますが、テクノロジー導入の歴史を通し、労働者の増減をリアルタイムで把握することは非常に難しく、例え事後的にであっても、雇用喪失の原因をテクノロジーに帰することは非常に困難です。AIは華々しく登場しましたが、企業が真に適応するには時間がかかります。AIによって新しい仕事に就く人もいれば、転職する人も職を失う人もいるでしょう。そして、その詳細を把握することは不可能ではないにしても、非常に困難です」と語りました。
さらに、「AIに関する議論の中には非常に階級的な考え方が根強く残っています。そういった風潮は、自社の技術を売り込む際に、その素晴らしさを過信してしまうことから生じているようにも感じます。また、一部の労働者の場合、『自分は他の労働者よりも優れている』あるいは『自分は特別な存在であり、技術も優れているため、他の労働者よりも優れている』という考え方から生じています。これは『自分以外の労働者の価値は(自分よりも)はるかに低い、他の労働者が職を失うことは問題ではない。問題は(より優れた)自身が職を失うことだけだ』と言っているようなものです」と言及。
エドワーズ氏はこのような考え方に異議を唱えており、「知識労働者としてオフィスワークに就いていないというだけで、経済を支える他の多くの人々を軽蔑するのは好きではありません」と語りました。

さらに、ニュートン氏がAIを理由に複数の企業が人員削減を実施している点について質問したところ、エドワーズ氏は「人員削減に単一の決定要因があることはまれ」としつつ、AIがもたらす効果に楽観的でより少ない人員で組織を運用できると考えた可能性もあるし、新型コロナウイルスのパンデミック期間に人員を過剰に雇用してしまった可能性もあると指摘。さらに、企業がAIの導入を理由に人員削減を実施する理由としては、「プレスリリースで『AIを導入しました』と発表することが、株式市場で最大の利益をもたらすから」と語りました。
経済学者が行うのは「特定の職業や産業に着目し、全体的な傾向とは異なる変化、あるいは過去の傾向とは劇的に異なる変化」を探すことだそうです。そのため、「多くの若者が就職難に直面しており、その理由はAIが普及しているから」などと言うことは、「私たちはしない」とも語りました。
また、エドワーズ氏はテクノロジー業界全体の雇用傾向について、「テクノロジー業界は15年前からすでに若手を積極的に採用し、年寄りを切り捨てるような業界でした。新しい技術が登場すると、企業は年配者を再教育するよりも、新しいプログラミング言語を知っている若い人材を雇う傾向にあります。50歳以上の人材はあまり雇用されません。そのため、もともとテクノロジー業界は離職率が高く、雇用喪失の状況を把握するのが難しい業界でもあります」とも説明しています。
エドワーズ氏は「私はAIが既に雇用喪失を引き起こしていると心から信じています。しかし、同時にAIが雇用増加も引き起こしていると心から信じています」とも語りました。これに対して、ニュートン氏は「人々が求めているのは、『AI関連の雇用創出率はAI関連の雇用喪失率よりも高いのか』あるいは『この2つの間にどのような関係があるのか』だと思います」と言及していますが、エドワーズ氏は「それは永遠にわからないでしょう」と語っています。
大きな技術変革、例えばインターネットやMicrosoft Office、コンピューターなどの登場を考慮しても、これらによりどれだけの雇用が創出され、どれだけの雇用が失われたのかに関する信頼できるデータはほとんど見つからないそうです。

シリコンバレーでは、特にAI企業のCEOが声高に「いずれAIモデルの精度が十分に向上すれば、企業は人を雇う必要がなくなる」という見方を喧伝しています。これに対してエドワーズ氏は、「これは、AIを活用できる人材がいれば、今より少ない人数で店舗を運営できるようになるということです。これは間違いなくおきることですが、これが雇用損失を表しているわけではない」と言及。
例えば以前は200人を雇用していた企業が、AIのおかげで20人の雇用で済むようになったとするなら、本来雇用されていたはずの180人が職を失うことになるのではないかとニュートン氏は指摘していますが、エドワーズ氏は「180人の大半は新しい仕事を探し、大多数は職を見つけることに成功するでしょう」と語っています。しかし、「ごく少数ながら、恒久的に長期的な失業状態に陥る人々も出てくるでしょう。彼らはどんなに努力しても仕事が見つからず、何かを変えなければいけません。探している仕事を変えたり、履歴書の内容を変える必要が出てきます。こうした人々の割合は今後増える可能性があり、過去にも増えたことがあります」とも説明しています。
しかし、あらゆる労働者がAIやテクノロジー関連の仕事に従事しているわけではありません。AI関連の大規模な人員削減が起きても、それですべての人々が職を失うわけではなく、経済が根本的に変化するわけではないと主張。その根拠としてエドワーズ氏は、人類は過去の産業革命や不況などで同じような状況に幾度となく陥ってきたものの、そこから這い上がってきた実績があると主張しています。
具体例として挙げられたのは、新型コロナウイルスのパンデミックによるレジャー・ホスピタリティ業界で起きた大規模な人員削減です。エドワーズ氏はパンデミック期に起きた失業率を再び記録することはないだろうと言及。レジャー・ホスピタリティ業界では、パンデミック期にわずか3週間で2250万人もの労働者が失業しました。労働市場の回復には3年かかりましたが、最終的に人々が外に出て消費を始めたため、業界の労働人口は回復しています。レジャー・ホスピタリティ業界が復活した理由のひとつとして、エドワーズ氏は「効果が実証された公共政策」の必要性を訴えました。問題は失われた仕事の種類ではなく、人々が収入を失ったことであり、対応が必要なのは「元雇用主」ではなく「職を失った人自身」であると指摘しています。

ダラス連銀の調査によると、AIの影響を最も受けやすいセクターの雇用は2022年末以降約1%減少しており、25歳未満の労働者が最も大きな影響を受けているそうです。
これに対して、エドワーズ氏は「チャットAIを使い始めると、従業員の生産性が向上するので、事業拡大のために人員を増やす必要がなくなり、その結果、新規採用をしなくてよくなります」と語り、なぜ若い労働者がAIの普及により雇用に最も大きな影響を受けているのかについて説明しています。
さらに、若い労働者の失業が増え仕事を求める人が増えれば、雇用主が優位に立つ労働市場が生まれるため、同じ仕事・肩書でも、より高いスキルが求められるようになります。これについて、エドワーズ氏は「突然修士号や3年間の実務経験が求められるようになるようなもの」と説明しました。多くの人が仕事を探しているため、同じ仕事に対してより高いスキルを要求できるようになるのは当然のこと。逆に労働需要が高まれば、同じ仕事・肩書に対して求められる基準は下がります。
また、エドワーズ氏は記事作成時点での若者の失業率が決して過去最高水準にあるわけではないと指摘。それでも労働市場は減速し始めているため、スキルアップが求められると述べ、「こんなことを率直に言うのは気が引けますが、若い労働者はまだ何もできないため、真っ先に採用されることはありません。労働市場が低迷している時は、より教育を受けた人材を安価で雇うことができるためです」と語りました。

なお、エドワーズ氏がAIと雇用について語るインタビューの様子は動画化もされており、AI関連の雇用に関する話題の他、「理想の失業保険」や「ベーシックインカム」についても語っているので、気になる人は動画をチェックしてみてください。
A labor economist explains why AI won't take your job - YouTube

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