アメリカVS中国の半導体開発競争で鍵を握るオランダ企業の精密機械とは?
by IBM Research
ジョー・バイデン大統領をはじめとするワシントンの多くの議員は、コンピューターチップとその基盤技術をめぐって、中国の動向に関心を寄せています。そんな中、オランダの半導体製造企業・ASMLが製造している巨大な機械が、政治家にとって重要な判断材料となっていると報じられています。
The Tech Cold War’s ‘Most Complicated Machine’ That’s Out of China’s Reach - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/07/04/technology/tech-cold-war-chips.html
Inside the Tech Cold War's 'most complicated machine' that remains well out of China's reach-Business News , Firstpost
https://www.firstpost.com/business/inside-the-tech-cold-wars-most-complicated-machine-that-remains-well-out-of-chinas-reach-9779351.html
ASMLが製造しているのは、EUV(極紫外線)などさまざまな種類の光を使い、超小型の回路をチップ上に形成する「フォトリソグラフィー」を行うための装置です。
ASMLのフォトリソグラフィー装置は、日本・アメリカ・ドイツの協力の下、数十年という歳月をかけて開発され、2017年にようやく商用モデルが完成し、SamsungやTSMC、IntelやIBMの大量生産ラインに導入されました。この装置は、1台あたり1億5000万ドル(約166億円)で、顧客の下に出荷するには40個の輸送コンテナと20台のトラック、3機のボーイング747が必要だとのこと。
トランプ政権は2019年にASMLのフォトリソグラフィー装置を中国に出荷しないようにオランダ政府に働きかけることに成功しました。そして、バイデン政権もこの姿勢を変える気配はありません。
アメリカ議会では海外のチップメーカーへの依存度を下げるために500億ドル(約5兆5000億円)以上の予算を計上するべきかどうかが議論されています。連邦政府、特に国防総省は、中国本土に地理的に近い台湾のTSMCにアメリカの半導体産業が依存していることを懸念しています。
ジョージタウン大学・Centre for Security and Emerging Technologyの調査アナリストであるウィル・ハント氏は「最先端のチップを製造するためにはこのASMLのフォトリソグラフィー装置が必要であり、この装置はASMLでしか作られていません。中国が同様の装置を自前で作るには少なくともあと10年はかかると考えられています。中国の立場からすると、これは悔しいことです」とコメントしています。
ボストン・コンサルティング・グループと半導体産業協会が2021年に行った調査では、自給自足のチップサプライチェーンを構築するには少なくとも1兆ドル(約110兆円)が必要で、それに伴ってチップやそれを使った製品の価格も高騰するとのこと。中国がASMLから脱却して独自に装置を開発するとなると、かなり苦しい戦いを強いられてしまうことになります。
2021年3月、アメリカのAI国家安全保障委員会はバイデン政権と連邦議会に、フォトリソグラフィー装置以外のASML製品についても中国への輸出を規制することを提案する最終報告書を提出しました。一方で、政策専門家は中国がすでにASMLの装置を使っていることから、追加で販売することを阻止しても戦略的なメリットがあまりなく、ただASMLの利益を損なうことになるだろうと主張しています。
そして、ASML自身も政策専門家と同様の主張をしています。ASMLの最高技術責任者兼社長であるマーティン・ヴァン・デン・ブリンク氏は「常識が通用することを願っています」とコメントしました。
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