ハードウェア

NvidiaのCEOがメタバース・Arm買収・中国市場・半導体不足などについて語る


2021年6月初週に行われた台北国際コンピュータ見本市「Computex 2021」の中で、Nvidiaのジェン・スン・フアンCEOがメタバースやArm買収などNvidiaにまつわるさまざまなトピックについて語りました。

Nvidia CEO: We’re “on the cusp of” a blockchain and NFT-enabled metaverse
https://cointelegraph.com/news/nvidia-ceo-we-re-on-the-cusp-of-a-blockchain-and-nft-enabled-metaverse

◆GeForceエコシステム
Computex 2021は台湾のイベントということもあり、フアンCEOは「台湾は当社のアドインカードパートナーや主要なノートPCパートナーの多くが拠点を置く中心地であり、GeForceエコシステムの本拠地、いわば震源地でもあります」という台湾の役割を強調。続いて、「GeForceエコシステム」について触れました。

フアンCEOによると、GeForceビジネスは「信じられないほどうまく行っている」とのことで、その成功を決定づけたものこそがRTXシリーズです。「RTX搭載のノートPCはゲーム機として見た場合にはRTX世界最高のゲーム機だといえます。RTX搭載ノートPCの出荷台数は毎年ゲーム機よりも多い上、RTX 3060ですらPlayStation 5よりも30~50%高速です。こんなに小さな薄型ノートPCの中に文字通りゲーム機が入っているというのは売れ行きに拍車をかけています。さらに、AdobeやAutodeskなどのデザインアプリケーションに必要なソフトウェアスタックやレンダリングスタックなども有しています」と述べ、RTX搭載のノートPCがNvidiaの好調の原動力になっていると言及。2020年に生じた世界的なパンデミックで売れ行きが急速に拡大するノートPCセグメントにおいて、RTX搭載ノートPCはセグメント全体に比べ7倍の速度で売上を伸ばしていると語りました。


なお、Computex 2021の中でNvidiaは「GeForce RTX 3080 Ti」「3070 Ti」に加えて、ソフトウェア面でのアップデートも多数発表しています。

NVIDIAが「GeForce RTX 3080 Ti」「3070 Ti」を発表、3080 Tiは「3090」に迫るスペック - GIGAZINE


◆データセンター部門
NvidiaはディープラーニングやAI、GPUクラウドコンピューティングなどのデータセンターソリューションをエンタープライズ向けに提供しています。フアンCEOはVMwareと共同開発したエンタープライズグレードのAIツールとフレームワークから成る包括的なスイート「NVIDIA AI Enterprise」を挙げました。

フアンCEOはNVIDIA AI Enterpriseを「事前訓練を受けた新卒社員のようなもので、画像認識や言語理解に優れている」と表現。ユースケースとして、ヘルスケアにおいてはレントゲン画像の認識に、小売店においては自動チェックアウトに、ロジスティクスにおいては在庫の自動追跡などが実現できるとコメント。こうした技術の根幹にあるNvidiaのアクセラレーション・コンピューティングがNvidiaの成長を支えていると語りました。

◆メタバース
セカンドライフ」などに代表される汎用性の高い仮想空間「メタバース」に関して、Nvidiaは自社製メタバース「Omniverse」を2019年時点で発表していました。そしてComputex 2021の中では、NvidiaはOmniverseについてさらなる詳細を明かしました。

The Metaverse Begins: NVIDIA Omniverse and a Future of Shared Worlds - YouTube


メタバース自体の未来について、フアンCEOは「メタバース内で友達と一緒に過ごすようになり、3D空間でお互いの存在を感じられる時代が到来するかもしれない」「例えば『フォートナイト』や『World of Warcraft』はいずれメタバースの一形態に進化すると思います」と語り、仮想空間で過ごすという未来が現実のものになる可能性を主張。こうしたメタバースを実現するために最も重要なテクノロジーとして、「ARデバイス」と「物理的にシミュレートされたVR空間」を挙げました。

このうち「物理的にシミュレートされたVR空間」について、「メタバースでデザインしたオブジェクトは地面に落とせば、物理法則に則って地面に落ちます。照明の状態も、私たちが見ているのと同じようになります。素材も物理的にシミュレートされます。これらはメタバースにとって重要なコンポーネントであり、これこそがOmniverseを開発した理由です」とコメント。フアンCEOによると、Omniverseはこれまでに構築したほとんど全てを組み合わせたもので、2021年6月時点ではオープンベータ版として、BMWや世界最大の広告代理店であるWPPによってテストされている状況とのことです。

仮想コラボレーションと仮想シミュレーションのための Omniverse プラットフォーム - NVIDIA
https://www.nvidia.com/ja-jp/omniverse/


◆中国市場
報道陣からの「中国では過去1~2年の間にGPU系スタートアップが多数出現しています。中国国内で『中国版Nvidia』の出現が望まれる理由はたくさんあるわけですが、中国の顧客があなたのライバルの登場を望んでいるという点についてはどのようにお考えですか?」という質問に対し、フアンCEOは「私たちは30年間の投資の結果、数年で100億ドル(約1兆円1000億円)を一つのモノに投資できるようになりました。私たちには大きな投資能力と専門知識などがあり、この市場を深く愛してもいます。私たちの地位は確かなものではありません。競合他社の全てに敬意を払い、真剣に受け止め、AIが活用できる分野が幅広く存在していることを認識しなければなりません。私たちはひたすら走り続けるしかないのですから」と真っ向から迎え撃つ構えを表明。

続く「中国政府の干渉を心配していますか?」という質問については、「中国における立場と中国に対する我々の貢献度は良好です。インターネット企業を助け、多数のスタートアップを助け、AI開発の研究者を助けています。私たちは中国のITエコシステムに大きく貢献しており、中国政府も認めてくれていると思います」とコメントしました。

◆Armベースのデータセンター向けCPU「Grace」
Nvidiaは2021年4月にArmアーキテクチャを採用したデータセンター向けCPU「Grace」を発表しています。2023年初頭に発売が予定されているGraceに関する「サーバー市場でx86プロセッサを追い抜けるとお考えでしょうか?」という質問について、「将来的にCPUは多様化し、x86CPU、ArmCPU、大きなCPU、小さなCPU、エッジCPU、データセンターCPU、スーパーコンピューティングCPU、エンタープライズコンピューティングCPUなど多数のCPUが登場すると思います。 なので、答えは1つではありません」と述べ、追い抜くという形ではなく共存という形を考えていると回答。一方、Nvidia製品がサービスを提供する市場ではx86のサポートを継続すると明言しました。

◆Arm買収
Nvidiaは2020年9月にソフトバンクから半導体設計企業のArmを買収しましたが、2021年4月にはイギリス政府から「国家安全保障上の懸念」を理由に介入を受けている状態です。

約4兆2000億円が動いたNVIDIAのArm買収にイギリス政府が「国家安全保障上の懸念」を理由に介入 - GIGAZINE

by htomari

「続報はないんでしょうか?」という質問に対し、フアンCEOは「規制当局の承認には、約18カ月かかる見込みです。規制当局はこの買収が競争を促進するのか市場独占になるのかを調査していますが、NvidiaはGPUとDPUを製造し、ArmはCPUを製造しており、それぞれ相補関係にある企業です。相補的なものを提供し合うことで、自然とイノベーションが生まれます。この取引については自信がありますよ」と述べ、時間がかかるものの必ず承認を受けられるだろうと自信を伺わせました。

◆半導体不足
2020年から続く世界的な半導体不足に大きな役割を果たしていると考えられている「暗号資産のマイニング」に関し、Nvidiaはマイニング特化型プロセッサ「Cryptocurrency Mining Processor(CMP)」を提供しています。マイニングに関してフアンCEOは「イーサリアムのマイニングにもビットコインのマイニングにもNvidiaのGPUが使われています。他の暗号資産も私たちのGPUで動作するアルゴリズムを使ったプルーフ・オブ・ワークで信頼性や実効可能性、整合性を確立しました。最もエネルギー効率やパフォーマンスが高いということです」と述べ、イーサリアムについて「プルーフ・オブ・ステークに興奮しているかと問われれば答えはイエスです。イーサリアムの需要は非常に高いレベルに達しており、イーサリアムは多くの信頼性があり、うまく機能している上に、多くの人々がDeFiやその他の用途で利用しています」「イーサリアムが非常に価値のあるものになることが実証されています」と期待を寄せ、そのためにマイニング特化型プロセッサを開発したと語りました。

GPU製品の価格が高くなっているという問題については、「GeForceを見ればわかるように、価格を引き上げてはいません、希望小売価格は変わっていません」と述べて、需要増による市場価格の高騰こそが問題だとコメント。この問題の原因の一端はマイニングにあるとして、マイニング特化型プロセッサCMPの提供によって、GeForceなどの市場価格が徐々に下がるだろうと語りました。一方、世界的な半導体不足の問題については「誰にとってなのか、そしてどの程度なのか、という点に依存します」と明言を避けました。

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in ハードウェア,   動画, Posted by darkhorse_log

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