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世界的な半導体不足によって偽造チップが広がっている


新型コロナウイルスのパンデミックにより需要と供給のバランスは崩壊し、世界的な半導体不足が広がっています。この半導体不足が偽造チップや偽造デバイスの急増を引き起こしており、標準以下の品質のコンポーネントにより電子機器の寿命や信頼性に悪影響が生じ始めている、と電子機器サプライチェーンに関する業界団体The Independent Distributors of Electronics Association(IDEA)の創設者であるスティーブ・カラブリア氏が語っています。

The global chip shortage is creating a new problem: More fake components | ZDNet
https://www.zdnet.com/article/the-global-chip-shortage-is-creating-a-new-problem-more-fake-components-as-fraudsters-cash-in/

Chip shortages lead to more counterfeit chips and devices | Ars Technica
https://arstechnica.com/gadgets/2021/06/chip-shortages-lead-to-more-counterfeit-chips-and-devices/

新型コロナウイルスのパンデミックにより、電子部品の製造工場が一時閉鎖となり、多くのガジェットの生産に大きな影響が生じています。例えば、毎年9月に発売されてきたiPhoneは、2020年は新型コロナウイルスのパンデミックにより発売が10月までずれ込むこととなりました。こうした供給量の減少とは対照的に、パンデミックによる外出規制やリモートワーク・リモート授業の増加により、PCやモバイル端末の需要は急増しています。

これにより半導体不足は加速しており、PCやモバイル端末だけでなく自動車や家電製品にまで影響が出始めています。また、一部の専門家からは「半導体不足が危険な領域に突入した」といった声が、半導体大手のIntel・NVIDIA・TSMCといった企業の重役からは、「世界的な半導体不足は2021年中続く」「最悪の場合は2023年以降も半導体不足が続く」といった予測が出ています。

Intel・NVIDIA・TSMCの重役が「世界的な半導体不足は2021年中続く」と予測、最悪の予測は「2023年以降も続く」 - GIGAZINE


この半導体不足に伴い、MSIのような大手メーカーは古い製品ラインを復活させることでグラフィックカードの増産に励んでいます。しかし、このような方法は小規模の企業にはとても真似できないものです。そのため、小規模なグラフィックカードメーカーは、市場の需要を満たすために「偽造品を使用する」という方法を採っているとカラブリア氏は指摘しています。

カラブリア氏は「世界的な半導体不足により、犯罪者が電子部品市場を悪用する可能性が開かれた」と語っており、すでに問題の初期兆候が現れ始めていると付け加えています。


当然ですが、偽造電子機器はこれまでも存在しており、トルコ中国で作られた偽iPhoneが、現地の市場やインターネット上でひっそりと取引されてきました。しかし、偽造チップはターゲットを少しずつ変えており、「少しでも安くいいモノを買おうとしている一般消費者」から「チップを使って電子機器を製造する生産ライン」へとシフトしつつあるとのこと。

例えばチップメーカーのFuture Technology Devices International(FTDI)が製造するUSBシリアル変換チップ「FT232RL」には、ドライバーバージョン「2.08.14」以前でのみ動作する偽造チップが存在します。以下の写真の左が本物のFT232RLで、右が偽造品。本物は表面にレーザーで文字が刻印されているのですが、偽造品は文字が印刷されています。見た目だけでなく内部の構造も大きく異なっていますが、前述の通りドライバーのバージョン2.08.14までは、偽造チップでも問題なく動作していたとのこと。なお、本物と偽物はテクノロジー・ノードは同等で、ロジックセルの密度は偽物の方が高くなっています。


このような偽造チップが横行している理由のひとつは、「電子機器の偽造品は比較的簡単に見分けることが可能であるのに対して、電子機器のパーツであるチップの偽造品ははるかに見分けるのが困難だから」です。

また、偽造チップは「安価な模造品」として作られるものもあれば、本物と同等の品質になるように作られるものまであり、その品質はさまざまです。ただし、ほとんどの場合、偽造チップは初めは十分に機能するものの、本物よりも早く故障しがちであるため、搭載されている電子機器の寿命を短くしてしまう、とカラブリア氏は指摘。

電子機器の製造会社は偽造チップを検出・回避するための綿密な対策を講じています。しかし、電子機器の寿命の調査を専門とするCenter for Advanced Life Cycle Engineeringで偽造電子機器について研究するディガンタ・ダス氏によると、偽造チップの検出・回避に製造ラインの停止が関わってくると、このプロセスはないがしろにされがちであるとのこと。

ダス氏もカラブリア氏同様に偽造チップの急増は「すでに起こっている」と確信しており、今後、電子機器メーカーは偽造チップの使用によって引き起こされる問題に対処する必要性に迫られることとなるため、「今後数カ月で偽造チップに関する問題がより明白なものとなるでしょう」と語っています。


偽造チップに関する問題は、大規模なチップファウンドリから直接部品を購入しているような大手ハイテク企業の製品に影響を与える可能性は小さいです。一方で、サプライチェーンの下流に位置するようなディストリビューターから部品を少しずつ購入しているような小規模な企業には大きな影響を与える可能性があり、特にヘルスケア・自動車・防衛産業といった市場にパーツを供給するメーカーが偽造品の犠牲になると考えられている模様。

この種のディストリビューターのひとつであると考えられるAERIは、偽造チップを検出するための優れたガイドを導入しています。本物のチップの場合、特定の位置に小さな空洞を設けるケースが多くあるそうですが、偽造チップはこういった構造を再現しないケースが多くあるそうです。他にも、チップのサイズや形状を間違えるケースがあるため、そういった点から偽造品であるか否かが判別される模様。

偽造品を見分けるには表面の検査だけでは不十分なケースもあり、チップを分解したり顕微鏡を用いた検査が必要になったりと、多くの時間を必要とするケースもあります。そのため、メーカーによっては偽造チップの検証プロセスをないがしろにしてしまい、故障しやすい製品が完成してしまう可能性もあります。そういった企業は目先の半導体不足による供給不足に対応できるものの、偽造品を使用したことによる製品のリコール・訴訟などにも対応しなければいけなくなり、長期的に見ればお金を失うこととなる可能性もあると指摘されています。

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in ハードウェア, Posted by logu_ii

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