日本とオランダが中国に対する半導体製造装置の輸出規制強化でアメリカと協調することに合意

世界的経済大国であるアメリカと中国の対立は政治だけでなく半導体分野にも及んでおり、アメリカは中国に対する半導体の輸出規制を強化しているだけでなく、半導体製造装置の主要メーカーを有する日本とオランダに対する働きかけも強めています。新たに海外メディアのBloombergやニューヨーク・タイムズが、日本とオランダもアメリカと協調し、中国への半導体製造装置の輸出規制を強化することに合意したと報じました。
Japan, Netherlands to Join US in Chip Export Controls on China - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-01-27/japan-netherlands-to-join-us-in-chip-export-controls-on-china
Netherlands and Japan Said to Join U.S. in Curbing China’s Access to Chip Tech - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/01/28/business/economy/netherlands-japan-china-chips.html
Japan and the Netherlands join US with tough chip controls on China - The Verge
https://www.theverge.com/2023/1/28/23574032/japan-netherlands-chips-semiconductors-china-export-controls
アメリカは中国との対立が深刻化する中で、AI関連アプリケーションに必要となるNVIDIAやAMDの高性能半導体の輸出に新たなライセンス要件を導入しています。アメリカ政府はNVIDIAに対し、新たなライセンス要件は「対象製品が中国とロシアの『軍事的な最終用途』または『軍事的エンドユーザー』に使用されたり、転用されたりするリスクに対処するもの」と説明したとのこと。
「中国がAIとスパコンを駆使して兵器開発や暗号解読を行うのではないか」という疑念でアメリカは中国への半導体輸出を取り締まっている - GIGAZINE

こうしたアメリカによる規制に対抗するため、中国は独自に半導体産業を構築することを目指していますが、アメリカは高度な半導体製造装置の主要輸出国である日本とオランダにも働きかけを行っています。最先端の半導体製造装置である「極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置」の技術はオランダの半導体製造装置メーカー・ASMLがほぼ独占していますが、2019年の時点で中国に対するEUVリソグラフィ装置の販売は禁止されています。今回アメリカが働きかけているのは、EUVより古い「深紫外線(DUV)リソグラフィ装置」の輸出禁止です。
半導体製造に用いるDUV装置を中国に販売しないようアメリカがオランダに働きかけ - GIGAZINE

Bloombergとニューヨーク・タイムズは交渉に詳しい関係者からの証言として、日本とオランダがアメリカの働きかけに応じ、中国に対する半導体製造装置の輸出規制に同意したと報じました。アメリカ・日本・オランダの会議は非公開で行われており、いずれの国々も規制について公に発表する予定はないとのこと。日本とオランダで法的取り決めを最終決定して規制を実施するまでには、合意から数カ月以上かかる見込みです。
新たな合意により、オランダのASMLは少なくとも一部のDUV装置を中国に販売することが妨げられるほか、日本の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンやニコンも影響を受けるとみられます。アメリカの半導体製造装置メーカーは、政府の規制によって自分たちだけが中国に対する半導体製造装置販売を禁止され、他国のメーカーが中国市場に参入することを懸念していました。ニューヨーク・タイムズは、「この取引によって各国のテクノロジー産業がより平等な立場に置かれ、アメリカ企業が放棄した中国市場に日本とオランダの企業が急いで参入するのを防ぐ可能性が高くなります」と記しています。
ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官はBloombergに対し、オランダと日本の当局者がアメリカ国家安全保障担当補佐官のジェイク・サリバン氏と会談していることを認め、「ご想像の通り、彼らは私たち3カ国にとって重要なさまざまな問題について話しており、新興テクノロジーの安全性とセキュリティがその議題となることは間違いないでしょう」と述べました。オランダのマルク・ルッテ首相は、「すでに話し合いは長い間続いていますが、この件については公開していません。もし、話し合いから何かが出てきたとしても、それが目に見える形になるかどうかはわかりません」とコメントしました。
一方、ASMLのCEOを務めるPeter Wennink氏は1月25日のインタビューで、アメリカの輸出規制にもかかわらず、中国は最終的に高度な半導体製造装置を独自に開発する可能性があると指摘。「もし中国がそれらの機械を手に入れることができなければ、彼らは自分たちで開発するでしょう」「時間はかかりますが、最終的には開発に成功するでしょう」と述べました。
・関連記事
中国がチップ輸出規制を巡りアメリカをWTOに提訴、規制が世界のサプライチェーンの安定を脅かしていると主張 - GIGAZINE
NVIDIAやAMDに対し「中国へのAIチップの輸出規制」をアメリカ政府が命じる - GIGAZINE
「中国がAIとスパコンを駆使して兵器開発や暗号解読を行うのではないか」という疑念でアメリカは中国への半導体輸出を取り締まっている - GIGAZINE
中国の半導体メーカー「YMTC」など30社以上を貿易禁止リストに追加することをアメリカ商務省が計画中 - GIGAZINE
アメリカVS中国の半導体開発競争で鍵を握るオランダ企業の精密機械とは? - GIGAZINE
半導体製造に用いるDUV装置を中国に販売しないようアメリカがオランダに働きかけ - GIGAZINE
中国が独自に半導体産業を構築することはできるのか? - GIGAZINE
半導体製造はもはやテクノロジーや経済を超えて「政治的な問題」になっているとの指摘 - GIGAZINE
中国の半導体メーカー「YMTC」など30社以上を貿易禁止リストに追加することをアメリカ商務省が計画中 - GIGAZINE
・関連コンテンツ