「酒とタバコが好き」「のんびり屋とせっかちがいる」など魚と人類の意外な5つの共通点
魚は人間とは全く違う環境に生きているため、しばしば異質な生き物だというイメージを持たれますが、近年では魚も飼い主の顔を覚えられることや、鏡で自分を認識できることなど、魚をぐっと身近に感じられるような研究結果が数多く発表されています。そんな魚と人間の間にある意外な共通点を、アメリカ・ポーツマス大学の科学者が5つピックアップして解説しました。
Five ways fish are more like humans than you realise
https://theconversation.com/five-ways-fish-are-more-like-humans-than-you-realise-157929
ポーツマス大学の神経学者であるマット・パーカー氏によると、神経学の分野では脊椎動物のモデル生物であるゼブラフィッシュが研究材料になることが多いとのこと。神経性の精神障害や発達障害の研究のため、たくさんのゼブラフィッシュを飼育して実験を行ってきたパーカー氏が、その経験や知識を元に「魚類の人間くさい側面」を以下の5点にまとめました。
by Oregon State University
◆1:魚も年を取ると物忘れが激しくなる
人間は年を追うごとに、情報を一時的に保ちながら行動するための能力であるワーキングメモリが低下します。パーカー氏は、アルツハイマー病の基礎研究の一環として、人間以外の動物でも人間のような認知機能の低下が見られるかを調べる実験を行いました。
パーカー氏らが行った実験は、魚をY字型のシンプルな迷路に入れて泳がせるというもの。ゼブラフィッシュには「直前に曲がった方向とは別の方向に向かう」という習性があるため、魚が三差路を泳ぎ回る様子を観察することで「自分が直前に曲がった方向をどのくらいの頻度で忘れてしまったか」を調べることができるそうです。
この実験の結果、生後6カ月のゼブラフィッシュに比べて、生後24カ月のゼブラフィッシュは有意に認知機能が低下していることが確かめられたとのこと。このことから、パーカー氏は「年寄りのゼブラフィッシュは、年若いゼブラフィッシュに比べて迷路を進むのに苦労していました。さらに、人間用にデザインされた同様の実験を行ってみたところ、70代の人もゼブラフィッシュと同じ記憶力の低下が見られたのです」と話しています。
◆2:魚も人間と同じドラッグが好き
コカインは日本を含む世界各国で規制されている薬物で、より依存性が高い薬物に手を出すきっかけになってしまうゲートウェイドラッグの代表的なものとして知られています。ハーバード大学の生物学者であるトリスタン・ダーランド氏らは、ゼブラフィッシュがいる水槽にコカインを投入する(PDFファイル)実験により、ゼブラフィッシュもコカインを好むことや、コカインを好む傾向は遺伝することを突き止めました。人間でも、依存症になる傾向には遺伝的要因が関係していることが分かっています。
さらに、ロンドン大学クイーンメアリー校のキャロライン・ブレナン氏らの研究チームは、ゼブラフィッシュにアヘンや覚醒剤、アルコール、たばこの成分であるニコチンなど、さまざまな刺激物を与える実験を行い、ゼブラフィッシュがそれら全てを好むことを確かめました。
ただし、大麻の成分であるTHCは例外だったことから、パーカー氏は「ゼブラフィッシュはヒッピーにはならないようです」とコメントしました。
◆3:魚は家族や友だちを覚えている
魚の中には群れを作る種類が多いため、魚が社会的な生き物だということはよく知られていますが、魚同士がお互いを識別していることはあまり知られていません。パーカー氏によると、ゼブラフィッシュは匂いで家族を識別し、特に若い個体は自分の家族のそばを泳ごうとする傾向があるとのこと。しかし、大人になったメスのゼブラフィッシュは、家族のオスより血縁関係のないオスのそばにいることを好むようになりました。これは、近親交配を防ぐためのメカニズムだと考えられています。
なお、ゼブラフィッシュ以外だと日本などでよく飼われているコイも、家族や仲のいい個体を識別できるそうです。
◆4:魚も苦痛を感じる
エディンバラ大学の研究チームは2003年に、ニジマスの唇に酢を塗ってその反応を調べる実験を行いました。その結果、ニジマスは水槽の底に唇をこすりつけたり、激しく呼吸をしたりといった反応を見せましたが、鎮痛剤を投与するとその反応を止めたとのこと。
この実験結果の解釈を巡っては、さまざまな議論があります。というのも、苦痛は単なるダメージの認識というだけでなく、情緒的な活動でもあるからです。そのため、魚に痛覚があるからといって、苦痛を感じているとは限らないと主張する人もいます。
ニジマスの実験や、魚が苦痛を感じるかどうかの議論の詳細については、以下の記事にまとめられています。
「魚も痛みを感じている」という見方が研究者の間でも広がりを見せている - GIGAZINE
by liz west
こうした議論についてパーカー氏は、「『魚には人間や高等な脊椎動物にあるような脳の部位がないため苦痛もない』という主張は、もはや説得力を持ちません。なぜなら、霊長類のような脳を持たない生き物でも複雑な行動を見せることが、長年にわたる研究で分かってきているからです。実際のところ、魚は私たちとは全く異なる脳を持っているにもかかわらず、私たちが想像するよりはるかに高いレベルで世界を認識している可能性すらあります」と語っています。
◆5:魚にもせっかちやのんびり屋がいる
パーカー氏の研究テーマの1つに、衝動制御というものがあります。これは、行動を計画してそれを実行するのに最適なタイミングを見計らうという能力で、衝動制御の不足は注意欠陥・多動性障害(ADHD)や依存症、強迫性障害などさまざまな精神疾患と関係があるとされています。
衝動制御の研究の一環として、パーカー氏らは専用の水槽を作ってそこにゼブラフィッシュを入れ、数週間かけて訓練しました。その訓練とは、水槽の端にあるライトが点灯するのを待ってから食事専用の部屋に入ると、エサがもらえるというもの。エサが欲しいばかりに、焦ってライトがつかないうちに部屋に入ったゼブラフィッシュはエサがもらえず、ライトがつくまで待ちぼうけを食うという仕組みになっています。
この実験の結果、ゼブラフィッシュにはのんびりとエサを待てる個体もいれば、非常にせっかちな個体もいることが分かりました。また、ADHDの治療に用いられる薬を投与すると、ゼブラフィッシュの衝動性が和らぐことも確認できたとのことです。
パーカー氏は最後に、「次に魚を見た時は、フィッシュ・アンド・チップスの食材ぐらいにしかならない下等生物だと決めつける前に、もう少しよく魚のことを考えてみて下さい」と締めくくりました。
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